トップインタビュー 総本家えびすや本店社長・中山和夫氏

1996.01.15 93号 8面

うどんという大衆メニューをグレードアップするとともに人気の高い、老舗うどん店がある。「手打ちうどん・そば」をはじめ、オリジナルメニューの「えびおろし」などの看板メニューなどが好評の(株)総本家えびすや本店(名古屋市中区錦3―20―7、052・961・3412、中山和夫社長)だ。現在、8店の直営店(活魚料理の「海の市」含む)のほか、若手を育成し機が熟した時点で独立・店舗化させる「暖簾分け制度」による店舗も17~18店舗を数え、しかも消費の低迷による外食産業の“灯り”が依然として弱い中、覇気を出している。一方、(社)日本麺類業団体連合会副会長をはじめ、愛知県麺類食堂環境衛生同業組合理事長など数々の公職も務め、業界の発展から後世の育成などにも力を入れている。そこで、本業である「えびすや本店」の状況や麺類業界全体の課題、将来構想などを聞いた。

‐‐景気低迷の長期化が叫ばれて久しい現在、御社の状況はいかがですか。

中山 終戦から一貫して「手打ちうどん・手打ちそば」へのこだわりを大切にしてきましたから、今は妙案はないですね。それだけに、こうした状況下では厳しい限りです。時代の流れ、流行(トレンド)に沿った経営方針で展開している企業、言い換えれば柔軟な発想をできる企業は別でしょうが‐‐。今の消費者意識(マーケット)は“価格破壊”による値打ち商品を購入する傾向が強いですよね。一方、当社のように“手打ち”というこだわりを守り続けてきた業態はコストを削減するのにも一苦労。人の手による加工があって初めて腰・味などの品質面が満たされるわけで、最大のコストとなる人件費は省略できないのが痛い(笑い)。結局、景気回復までは忍耐するしかない。

‐‐“手打ち”という本物を守って来た企業には厳しいですか。とはいっても何か得策はないですか。

中山 “価格破壊”の安いメニュー提供店が繁盛しているが、おいしい物を提供している店は落ち込んでも比率が小さい(笑い)。それだけ消費者は味に正直だと言える。当業界のメンバーで組織する「手打ち研究会」(組合総数一一五〇件中五〇件ほど)の会合などで話をしていても、研究会に所属している店(企業)は繁盛、もしくは落ち込み度は非常に小さい。それは店主の意気込み。おいしい物を食べて頂くサービス精神が旺盛で、常に努力している。確かに後継者不足をはじめ、技術の進歩で機械麺の品質も手打ちに劣らないほど向上してきているのも事実。一方、今われわれが最も恐れなくてはならないのは隣のうどん屋さんではなく、他の業態店。これを古くから経営してきている店主は気が付かないし、断固として考えも曲げない。経営手法は時代に沿って柔軟に変革していく姿勢も必要。

‐‐おっしゃる通りですね。味や腰などの基本は絶対に守ってもらわなくてはなりませんが、後はいかに消費者に喜んで頂けるかといったサービス面の充実。特に競合が多い現在の外食産業では絶対必要ですね。

中山 業界では早くからいろんな試みを行って来ています。例えば、組合事務所の一角を「麺類教室」として常設し、後継者の育成に努めている。また、全国の特定の小学校を対象にして「そばの花観察運動」も展開している。そばという自然の神秘さを知ってもらう一方、授業を通じて学んだことがきっかけとなってそばの好きな大人になってもらう楽しみもある(笑い)。

‐‐すばらしいことですね。自然(そば)の大切さ食材の大切さを学習し、しかも将来はそば好きな大人になることが保証されるとなれば、まさに“一石二鳥”そのものですね(笑い)。ところで、話は変わりますが、御社の今後の展開・方針はいかがですか。

中山 お陰さまで宣伝も何もしないのに芸能人さんをはじめ、多くの“ファン”がいることは有り難い。景気の先行きは不透明観が強いが、先行きに灯りが見え隠れしてきている。当社の客単価などにも徐々にではあるが、こうした傾向が表れてきている。この辺から手打ちという技術は断固として守り続ける一方、今後も年五、六店を新規展開していきたい。それには「暖簾分け制度」を積極的に活用し、分家がスムーズに図れるようにするのも必要。また仕入ルートの見直しなど、コスト削減をはじめとする合理化・省力化へ向かうリストラ策もどしどし導入していく。考え方、やり方次第でまだまだ“無限の可能性”があるだけに楽しみです。

‐‐伝統産業を守って頂くと同時に発展をお祈りします。長時間、有難う御座いました。

(文責・岩佐)

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