アポなし!新業態チェック(101)スプリングバレーブルワリー東京

2015.09.07 438号 20面

 ●キリンビールがクラフトビールに本格参入 ヒット商品を生み出した和田氏担当

 去る4月、キリンビールが東京・渋谷の商業施設「ログロード代官山」にクラフトビールのブルワリー併設店舗「スプリングバレーブルワリー東京」を出店した。3月に同社横浜工場内に開業した「スプリングバレーブルワリー横浜」に続く2号店という位置付けだが、ビールのミュージアムなどを併設し工場見学の一環としても利用される横浜店とは異なり、一般客のみを対象とする完全に独立した飲食店となっている。ビールの仕込み釜や発酵貯蔵タンクに透明なガラス製の設備を導入、店内からクラフトビールを製造する過程が眺められるというのも特徴のひとつ。

 メニューは、それぞれ作り手が異なった6種類の「通年コアアイテム」と呼ばれるオリジナルビールを中心に、ビールに合うフードメニューを多数取り揃えている。時間帯ごとに、モーニング、ランチ、カフェ、グランド、そしてコースといった分野に分けられ、肉料理をはじめ、ピッツァやサラダ、デザート、コーヒーなど幅広い構成だ。特にビールと相性の良い料理メニューにはイラストのアイコンが表示されている。6種のビールは、オープニング特別価格として380mlが680円で販売されるが、ほかに120mlグラスで6種類をまとめてテイスティングできる「ビア・フライト」というセット商品もあり、その時々の限定ビールなども用意される。

 同社は、この2店舗を運営するため今年のはじめに新会社を設立。社長には、発泡酒「淡麗」やノンアルコールビール「キリンフリー」の開発を手がけた和田徹氏が就任。キリンの新しい挑戦がうかがえる。

 ★けんじの評価

 出店したログロード代官山は、東急東横線の渋谷駅が地下化したことにより生まれた線路の跡地につくられた小さな商業施設。その全長220mの細長い敷地には物販と飲食で5つの店舗が配置されているが、その代官山側の端に位置する2層、200席以上を擁する大型店が同店だ。

 日本で初めてというガラス製の仕込み設備や、「ビアインフューザー」と呼ばれるカスタマイズされたビールをつくることができるオリジナルサーバーなど話題の機器が導入され、クラフトビールブームの中で業界関係者も注目している。

 クラフトビールとは、独立した小規模なブルワリーで生産される個性的なビールのことだが、明確な定義は存在していないようだ。ある意味では、シングルオリジンコーヒーのブームと同じように、作り手の顔が見えない大手メーカーのビールとは違う、「手作りビール」のオリジナリティーといった要素に人気が集まっているのかも知れない。2000年ごろのカフェブーム以降、食のトレンドの多くにはこうした傾向が見られるように感じる。

 店舗の名称であるスプリングバレーブルワリーとは、ウィリアム・コープランドというビール醸造者が創設した、キリンビールの前身となった明治時代のビール醸造所の名前だ。日本で初めて商業的に成功したブルワリーとのことで、ビールのひとつにもその名が冠されている。

 ところで同店のサイトには、「永遠に完成することのないブルワリー」という言葉が掲げられているが、どうもメーカーのマーケティングに参加させられているように感じるのは気のせいだろうか。

 (外食ジャーナリスト・鷲見けんじ)

 ◆鷲見けんじ=外食チェーン黎明期からFFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。顧客の気持ちを外食企業に伝えるべく甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。朝マックとロイヤルホストのカレーフェアをこよなく愛する外食ウォッチャー。

 ●店舗情報

 開業=2015年4月17日/所在地=東京都渋谷区代官山町13-1、ログロード代官山内

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