外食の潮流を読む(61)「パクリ」ではなく「キュレーション」が飲食店に新しい価値を創造する

2020.07.06 497号 11面

 フードサービス業界のウオッチャーとして三十数年過ごしてきて、この業界は「パクリ」がまかり通るものだと思い込まされていた。とても魅力的なコンセプトの繁盛店が注目されるようになると、そのまがい品が必ず出てくる。業界をよく知る人は、「またパクリか」と残念に思う。

 しかしながら、至る所に既視感がありながらも、それらが巧みに編集されていたらどうだろうか。こういうことをパクリではなく「キュレーション」と呼ぶことを知った。これはIT用語で、「インターネット上の情報をまとめること。または収集した情報を分類し、つなぎ合わせて新しい価値を持たせて共有すること」(知恵蔵)だという。「パクリ」は単なるものまねだが、「キュレーション」は新しい価値を創造するものだ。

 このようなことを感じたのは3月、川越の商店街「クレアモール」にオープンしたばかりの「町鮨とろたく」(以下、とろたく)を訪ねたときだ。同店は「磯丸水産」を展開するSFPホールディングスの新業態とのこと。知人から「このような居酒屋がこれからヒットするのではないか」と紹介されて興味がそそられた。

 主要な駅の近くには、再開発が進んでいないかぎり大きな老舗の大衆居酒屋があるものだ。間口が広く大きな白いのれんを掲げている。とろたくはまさにそれで、看板には店名のほかに「寿司・てんぷら」「大衆居酒屋」「焼酎」「清酒」と、手軽に立ち寄ってお酒と食事を楽しむお店という、気負いのない訴求があった。ずばり「昭和」の感覚である。

 店内は白木造り。まずコの字型カウンターがあり、奥の方には4人掛けテーブル2つが近くに寄せられて、という具合で、お一人さまもグループもという利用動機を促してくれる。カウンターの中や壁には一升瓶が整然とアートのように並べられている。メニューは「塩煮込み、かき揚げ、刺身、天婦羅、にぎり寿司」と、お気軽なごちそうが要点を捉えるように揃っている。店舗デザインも、メニューも「どこかで見たことがある」と思いながら、さてそれがどこでもよくなってくる。

 接客するスタッフは皆20代の女性で、白い上っ張りを着て髪を後ろで束ねている。そして接客するときにはお客さまに余計なことを言わない。奥ゆかしさと清潔感がある。奥の方のキッチンで料理が出来上がると、男性の料理人が大きな声で「できました、おいしいとこ!」とフロアに声を掛ける。するとフロアにいる女性スタッフは大きく同じセリフで応える。大手大衆居酒屋チェーンが発祥の「喜んで!」というものは今や形骸化した観があるが、ここの合いの手は斬新で、これからこのような業態のスタンダードになっていくのではないかと感じた。

 大手企業がこれほどのつくり込みをしてオープンした背景には、数多くの繁盛店をベンチマークしたことの集大成であろう。これこそ「キュレーション」である。フードサービスの業界はこのような形で切磋琢磨してほしいと感じた。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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