国産ジビエに注目! 農林水産省国産ジビエ認証制度制定で普及加速

2021.02.01 504号 08面
元女子体操日本代表選手 田中理恵さん(左)と一般社団法人日本ジビエ振興協会代表理事 藤木徳彦氏

元女子体操日本代表選手 田中理恵さん(左)と一般社団法人日本ジビエ振興協会代表理事 藤木徳彦氏

ヘルシーな食材として注目されるシカ肉

ヘルシーな食材として注目されるシカ肉

日本でも古くから郷土料理として親しまれているイノシシ肉

日本でも古くから郷土料理として親しまれているイノシシ肉

 ◇地域性や季節感を演出する天然の味わい アスリートに好適な低カロリー、かつ高タンパク、鉄分も豊富

 「ジビエ」とはフランス語で野生鳥獣の食肉を意味する。西欧では貴族が食べる特別な料理として発展してきた食文化であり、狩猟で動物の命を奪う代わりに全てを料理に使い切る。そこには尊い命に感謝を捧げようという精神が根付いている。現代日本ではなじみが薄いが、近年、シカやイノシシを中心に生息数が増え、農作物の被害が問題になると、被害を防ぐための鳥獣の捕獲数が増えていった。このため、これを森の恵みとしておいしくいただき、有効活用する観点から、ジビエの活用機運が年々高まっている。また、野山を駆け巡るジビエは栄養的にも魅力。低脂肪かつ高タンパク、鉄分やビタミンB2も豊富な赤身肉がアスリートからも注目されている。日本の食卓に広がるジビエの可能性について、田中理恵さんが国産ジビエの普及に努める藤木徳彦氏に話を聞いた。

 ●先入観は大きな誤解

 藤木 田中さんはジビエ(シカやイノシシ)に対して、どのような印象をお持ちですか。

 田中 正直、スーパーで見かけないので、身近な印象は弱いですね。高級レストランの特別な料理というイメージ。シェフが作った料理はおいしくても、自分では調理方法が分からない。扱いが難しい食通のグルメといった感じですね。

 藤木 分かります。一般的な認識だと思います。実は日本でジビエが食肉として衛生的に流通できるように、厚生労働省から「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が定められたのは2014年のこと。それまでは、猟師さんが自ら食べたり、近隣にお裾分けしたり、地域内で消費されたりといった、あくまでも地域の食文化でした。ガイドラインが定められる以前は、捕獲後の食肉処理や、ましてや流通は未熟で、食肉としての衛生管理や品質維持が担保されていませんでした。本当のおいしさを知っていたのは、狩猟に近い一部の関係者だけ。ジビエに対して品質を不安視する偏見が続いてきたのも、そのためです。

 田中 2014年が契機だったのですね。

 藤木 その年、ジビエの衛生管理について厚生労働省からルール(ガイドライン)が示され、ジビエの食肉としての普及への第一歩が始まりました。それにより、自己流だった取り扱いが大きく改善されたのです。現在では、約700カ所の食肉処理施設がルールに従い、ジビエを食肉として処理しています。2018年には、農林水産省が「国産ジビエ認証制度」を制定。食肉処理施設の衛生管理に関する厳重な客観的チェック体制が導入され、2020年12月末現在17カ所が認証を取得し、さらに質のよいジビエが流通するようになりました。そうした行政と現場の連携が実を結び、近年、飲食店や一般消費者にもジビエに対する理解が広がり始めています。

 ●DNAに響く奥深さ

 田中 衛生管理と品質維持の徹底により、ジビエ本来の持ち味が活きるのですね。そのおいしさや魅力は、どのように表現されるのでしょうか。

 藤木 ジビエのおいしさは「天然の味わい」に尽きます。食用に改良された家畜とは異なる独特な肉質が魅力です。野山を駆け巡って鍛えられた赤身肉、自然のものを食べて蓄積された程よい脂肪、自然のサイクルで育った天然の持ち味には、原始のDNAを呼び起こすような奥深さがあります。

 田中 お話だけで食欲がわいてきますね。

 ●ストーリー演出に強み

 藤木 それだけではありません。天然なので当然、季節感や地域性も豊かです。日本の狩猟期は冬場の4ヵ月間に限られるので、「ジビエの旬は冬場」と評されてきましたが、それは誤解です。猟師さんの話では「シカの旬は初夏」ともいわれています。春先から若草を食べ続けたシカの肉は、うっすらと脂肪がのり、赤身も濃く、絶品の味わいだといいます。かたやイノシシは冬を越すために秋に脂肪を蓄えた11月初旬が一番おいしいと評します。また、自然の果実が豊かに実る地域では、果実を豊富に食べているので、肉質がよいとの話もあります。そうした季節感や地域性はストーリーやブランドの演出にも最適。ジビエ訴求の大きな強みといえます。

 田中 でも、狩猟期が冬場4ヵ月間だと旬のジビエは味わえないのですか。

 藤木 大丈夫です。昨今は鳥獣被害防止のための捕獲が年間を通して行われており、いつでも新鮮なジビエが入手できます。

 田中 わずか5~6年でジビエを取り巻く環境が改善され、おいしいジビエが味わえるようになったわけですね。一般的な先入観が誤解だと分かりました。

 ●アスリートに朗報

 田中 ジビエは低脂肪かつ高タンパクに優れ、鉄分やビタミンB2が豊富、美容にも効果的と評判です。アスリートの間でも関心が高まっています。加えておいしさも格別にアップしたとなれば、アスリートにとって最高の朗報だと思います。

 藤木 実は最近、アスリートの食事を指導する管理栄養士さんからの相談が増えており、シカの赤身肉を推奨しています。栄養面から、アスリートの方も納得しやすいと思います。実際、アスリートの食事はどのような状況なのでしょうか。

 田中 よりよい筋肉を身につける。ベスト体重を維持する。その両立が食事のマストですね。筋肉がつき身体能力が飛躍する成長期は、どうしても脂肪が増えやすいので、食事管理は一苦労です。私の場合、鶏ささ身ばかり食べていました。揚げ物は衣を外したり、好きなラーメンは午前中に食べたり、ホント、葛藤の連続でした。当時にジビエがあれば、もっと楽しく前向きに食事管理できたでしょうね。

 藤木 その話こそ、ジビエ業者にとって朗報です。品質向上の次は、身体づくりに敏感なアスリートの皆さんにアピールするべきですね。

 ●ヨーグルト活用を推奨

 田中 最近の選手は私の時よりも食事に対して非常に関心が高いので、よりよい提案を待っています。特に皆が知りたいのは「おいしく調理する方法」です。よく耳にするのは「ジビエは硬い」という指摘です。どうしたら軟らかくなるのでしょうか?

 藤木 プロの調理法で説くと、弱火で温めるように焼き上げるのが、軟らかく仕上げるコツです。でも難しいので、簡単に軟らかく仕上がる方法を教えましょう。それはヨーグルトに漬けることです。肉200gに対してスプーン1杯のヨーグルトが目安。1時間ぐらい置いてから加熱すれば、焼いても、揚げても十分に軟らかく仕上がります。

 田中 それは簡単! すぐに試したいですね。どんな料理がお薦めですか。

 藤木 一番のお薦めは「シカ肉の唐揚げ」です。シカ肉に調味液とヨーグルトを揉み込み、粉を付けて揚げるだけ。絶品です、ぜひお試しください。それとハンバーグですね。シカ肉と豚肉を7対3にして作ると赤身と脂身が絶妙にマッチ。地元の子どもたちからも大好評でした。食後に「シカ肉だよ」と教えたら、「えーっ」と叫ばれたのが残念でしたが。シカは動物園で見る生き物だと思っているのでしょう。しかし子どもの舌は敏感です。先入観がなければ「おいしい」と評価します。ポテンシャルを確信する反響でした。

 ●尊い命を食文化に生かす

 田中 ますます日本の食卓にジビエが広がりそうですね。

 藤木 そう願って普及活動に努めています。実は日本のシカとイノシシの捕獲頭数は年間124万頭に達します。シカとイノシシが約半々で、そのうち食肉として流通しているのは約1割。猟師さんが自家消費することも多い一方、やむを得ず廃棄・埋設されている現実もあります。鳥獣駆除と動物保護の相反する課題が叫ばれる中、奪われた命が放置されるのは、あまりにも無残。文明と自然の共生を掲げるなら せめて人間の食文化に活かすべきです。食育と自給率の向上にも必要だと思います。

 田中 なるほど。ジビエの普及拡大には食文化の哲学が先立つのですね。私も賛同して応援したいと思います。

 藤木 ありがとうございます。ぜひお願いします。

 ○元女子体操日本代表選手 田中理恵さん

 1987年和歌山県生まれ。6歳から体操を始める。全日本個人総合で優勝のほか世界選手権でロンジン・エレガンス賞を日本女子で初めて受賞。ロンドンオリンピックでは団体8位入賞に貢献、個人総合16位。2014年から現職。引退後に結婚し1児の母。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事。

 ○一般社団法人日本ジビエ振興協会代表理事 藤木徳彦氏

 1971年東京生まれ。駒場学園高校食物科卒業後、フレンチ修業、生鮮流通勤務を経て、長野県・蓼科高原に「オーベルジュ・エスポワール」を開業。ジビエの普及活動を主に「地産池消の仕事人」(農水省選定)として活躍。地域活性化伝道師(内閣府)も務める。

 ◆シカ肉・イノシシ肉 メニュー活用図鑑

 新しい肉グルメの可能性広がる

 ◎シカ枝肉

 ●ロース

 【特徴】きめ細かく軟らかな肉質で、シカ肉本来のうま味を味わえる。

 【おすすめ調理】ステーキ、ローストなど。じっくり火を通すとしっとりと仕上がる。

 ●スネ

 【特徴】よく動かしているため、肉のうま味が濃い。

 【おすすめ調理】小さくカットするか薄くスライス。煮込むとプリプリとした食感とうま味が出る。

 ●シンタマ

 【特徴】内モモと外モモの間にある部位。モモ肉の中で最も軟らかい。赤身のおいしさが味わえる。

 【おすすめ調理】カツ、唐揚げ、煮込みなど。成形すればステーキにも。

 ●外モモ・内モモ

 【特徴】外モモは筋肉繊維が硬めだが、噛むほどにうま味が広がる。内モモは筋肉繊維が細く軟らかで、クセがなく肉感を楽しめる。

 【おすすめ調理】外モモは煮込みや唐揚げ、コンフィなど。内モモはステーキやショウガ焼きなど。

 ●カタ・ネック

 【特徴】やや硬めでスジが多い部位。ひき肉にすると食感が生きる。

 【おすすめ調理】ハンバーグ、ラグーソースなど。

 ◎イノシシ枝肉

 ●スネ

 ●肩ロース・ロース

 【特徴】軟らかい肉質で、脂がのりやすい。秋冬にかけてのる脂身は甘味があり絶品。肩ロースはきめ細かく、滋味深い味わいの高級部位。

 【おすすめ調理】ステーキ、すき焼き、カツ、鍋、ハム、ソテーなど多彩に使える。

 ●カタ・ネック

 【特徴】塊としては使いにくいが、ひき肉にするとうま味が引き立つ。

 【おすすめ調理】ハンバーグ、ミートローフ、麻婆豆腐など。ソーセージに加工も。

 ●バラ

 【特徴】イノシシらしいうま味と甘味のある脂身が特徴的。厚い脂身は歯ごたえがあり、比較的さっぱりとしている。

 【おすすめ調理】角煮、シチュー、鍋。ベーコンに加工も。

 ●外モモ

 【特徴】冬は脂がのり、歯ごたえのある赤身とともに楽しめる。夏は赤身のうま味が濃い。

 【おすすめ調理】鍋、カツ、ショウガ焼きなど。

 ●内モモ

 【特徴】適度に脂がつき、ジューシー。

 【おすすめ調理】ステーキ、ロースト、揚げ物など。

 ●シンタマ

 【特徴】脂身が少なめで肉質は軟らかい。

 【おすすめ調理】ほかのモモ肉と同様、多彩に使える。ハム、薫製などの加工にも。

 ◆ジビエを最大半額で入手する最後のチャンス! 農林水産省の緊急対策事業

 全国の飲食店、生産者、卸等を支援するための飲食店限定ECサイト「ぐるなびFOODMALL~Farm to Restaurant to Table~(以下、ぐるなびFOODMALL)」は、もう活用しているだろうか。日本全国の食材や包材資材が、通常価格の最大半額で購入できるという、飲食店にとってはありがたい企画だ。この「ぐるなびFOODMALL」では、一般の精肉店では入手が難しいジビエも多数販売されているのだ。ジビエのメニュー開発を考えている飲食店にとっては、活用しない手はない。

 肉ブームの昨今、ちょっと珍しいジビエ料理は店の名物メニューになってくれるだろう。ぜひこのチャンスにジビエを格安で仕入れ、売れる新メニューを考案していただきたい。

 ※販売は、2021年2月26日(金)18時まで

 ●「ぐるなびFOODMALL」

 https://foodmall.gnavi.co.jp/pr/

 ※利用は「ぐるなびFOODMALL」登録会員限定

 【出品例】

 エゾ鹿モモ肉ブロック(1kg)

 通常価格3,780円→補助額1,890円 1,890円(税込み)で販売

 –ほか多数出品

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