クローズアップ現在:「抹茶バブル」が抱える課題 人気急上昇で引き合い殺到

2025.11.03 561号 07面
美しい色合いの抹茶は、日本の文化を象徴するような魅力がある

美しい色合いの抹茶は、日本の文化を象徴するような魅力がある

繊細な抹茶スイーツは最近ますます人気が上昇。写真は今年8月に発売された味の素冷凍食品「フレック スペシャリテ フリーカットケーキ 抹茶テリーヌ(宇治抹茶使用)

繊細な抹茶スイーツは最近ますます人気が上昇。写真は今年8月に発売された味の素冷凍食品「フレック スペシャリテ フリーカットケーキ 抹茶テリーヌ(宇治抹茶使用)

抹茶を合わせたラーメンスープも登場。写真は大阪市都島区「麺屋 いち山(ICHIZAN)」の「京都宇治の抹茶鶏白湯 味玉付き」(1,200円税込み)/外食レストラン新聞25年10月号より

抹茶を合わせたラーメンスープも登場。写真は大阪市都島区「麺屋 いち山(ICHIZAN)」の「京都宇治の抹茶鶏白湯 味玉付き」(1,200円税込み)/外食レストラン新聞25年10月号より

抹茶の風味を練り込んだ祇園辻利の新商品「抹茶うどん」

抹茶の風味を練り込んだ祇園辻利の新商品「抹茶うどん」

 昨年頃から世界中で抹茶人気が凄まじい。抹茶バブルともいわれるほどだ。「ニューヨークで人気」「アジア圏で人気」のような一部の国や地域ではなく、アジアからアメリカ、ヨーロッパ、最近はドバイや中東国にまで抹茶は浸透しているのだという。そのため抹茶の卸売り価格が上昇しており、お茶農家の売上げは上がっているものの、価格高騰により国内での抹茶の需要に影響が出ている。また、世界で抹茶を奪い合う形となり、日本国内でも売り切れが続出している。

 ●抹茶が人気になる背景

 海外における抹茶の認知は10年ほど前から徐々に広がりをみせ、昨年頃から一気に加速した。抹茶を含む緑茶の輸出額はこの5年間で過去最高を毎年更新し、2024年には364億円と、生産量の約一割が海外輸出となっている。

 抹茶ブームの背景として、日本食や日本文化の人気と訪日外国人の増加、健康ブーム、映える色合い、コーヒー・紅茶以外の日常の飲料への好奇心、加工しやすい汎用性、精神性と合理性などが上げられるだろう。

 日本で飲まれるお茶は抹茶のほか煎茶、ほうじ茶、玄米茶などいろいろあるのだが、なんといっても抹茶は彩りが鮮やか。曖昧な色を好まない国の人にとって、わかりやすく映える色なのだろう。また、お茶の入れ方も他のお茶と異なり抹茶だけは茶筅(ちゃせん)が必要で特殊だ。茶会のような侘び寂びの精神論も伴ない、抹茶は日本の文化を象徴するような価値が感じられるのではないだろうか。

 その他、海外の人は抹茶=カテキンやビタミンが豊富で健康に良いという印象を強く持っている。香りも高く、日本の香りとして受け入れられているようだ。

 アメリカやヨーロッパなど各国で抹茶の専門店が開店しており、カフェでは抹茶ラテは定番ドリンクとなっている。かつて日本でコーヒーブームがあった時に、日本人は「カプチーノ」「カフェラテ」などといった言葉に新鮮な印象を受けたものだ。コーヒーの苦さが苦手な人にはミルクや砂糖を入れることで飲みやすく、かつオシャレな飲み物としてカフェ系ドリンクは受け止められた。コーヒー同様に抹茶もラテにすると苦味が軽減できるので、外国人や日本の若者にも受け入れられやすい。

 ●世界で取り合いとなる抹茶の課題

 また、抹茶を点てるには専用道具が必要でハードルが高い印象もあるが、筆者が思うに抹茶は合理的でもある。粉末状なので加工がしやすい。また、加熱したり別の素材と混和させたりしても色が残るので使いやすい。茶葉を捨てる必要が無い点も大きいメリットなのではないだろうか。飲料、菓子、スイーツの加工品や、またコメや麺類、パンなど様々な主食にも混ぜた食品も作りやすい。ある意味ではコーヒーよりも汎用性が高いといえる。

 しかし人気に伴い課題もある。上質な抹茶は高値で取引きされる海外輸出品として消費されてしまい、国内が品薄だという。抹茶の原料のてん茶の価格は5年連続上昇し、2024年度から2025年度の一年間で1kg当たり5678円から14681円と、約3倍になっている。

 「抹茶はビジネスになる」ということで、お茶農家には海外から「抹茶栽培を教えてほしい」「御社の抹茶を弊社の商品として売りたい」「御社の抹茶をすべて売ってくれ」といった連絡が毎日頻繁に来るのだという。実際、海外でお茶農業を始める企業が増えている。

 また、品質保持の難しさもある。海外では緑茶粉末を抹茶として販売するケースが指摘されている。さまざまな点で、抹茶本来の価値が損なわれないようにしなければならないだろう。

 抹茶と煎茶では、製造過程や工程などが異なる。お茶農家も抹茶人気を受けて抹茶向け茶葉のてん茶の栽培を増加させている。しかし、抹茶用の工場や機材などが足りず、増産は限られるという。さらに全体の栽培面積は広げられないので、生産用地を抹茶向けに転用された分の緑茶の生産が減少することになり、今後の価格にどう影響されるのか不安視されている。

 ●文化の伝承と日本人の精神

 私事だが、両親や親戚がお茶の先生をしていた関係で、子どもの頃から日常的に抹茶に触れる機会があった。茶筅で点てたきめ細やかなおいしい抹茶は、脳へのリラックス効果もあり心を癒してくれる。

 戦国武将が心を落ち着かせるために飲み、商談をまとめるアイテムにもしていた抹茶は、日本人の根底にある精神性とどこか通じているのだろう。抹茶ブームを通して日本文化の発展と共に、日本人自体が和の良さや伝統を大事にする気持ちを失わないようにすることが求められている。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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