海外通信 外食ビジネスの新発想(102)米国コーヒー市場で競争激化
●ポスト・サードウェーブへ
近年、マンハッタンではスペシャルティコーヒーを提供するコーヒーショップが急増している。体感としては1ブロックに1軒といえるほどで、街を歩けば高品質なエスプレッソやハンドドリップを掲げる店舗に次々と出合う。チェーン店から独立系ロースターまで、高品質なコーヒーを提供する店があふれ、おいしいコーヒー自体は特別なものではなくなった。コーヒー好きにとっては歓迎すべき変化である一方で「今、本当に突出した一杯はどこで飲めるのか」という新たな迷いも生まれる。そんな疑問をきっかけに、今回のリサーチを始めた。
調べを進める中で見えてきたのは、単に味がよい店を探すだけでは、現在のコーヒー市場を十分に語れないという事実。米国のスペシャルティコーヒー市場は、いわゆるサードウェーブの成熟を経て、新たな局面へと入りつつある。シングルオリジンや浅煎り、ダイレクトトレードといった価値観はすでに広く浸透し、高品質であることはもはや前提条件。結果、おいしさそのものは差別化要因としての力を弱め、各ブランドは新たな価値の提示を求められている。
こうした中で市場はポスト・サードウェーブとも呼ばれる段階へ移行し、現在の競争軸は大きく二つに分かれる。一つは、空間演出やブランド体験を強化する方向。もう一つは、サプライチェーンや価格構造といったコーヒーの本質的価値をより深く掘り下げる方向である。後者を象徴する存在として注目されるのが、米アーカンソー州を拠点とするOnyx Coffee Labだ。同社はSNS上やコーヒーコミュニティーで高い評価を受け、世界的なコーヒーショップランキングで1位を獲得し続けるなど存在感を高めている。
その理由は単なる味の良さにとどまらずに品質、透明性、デザイン、ブランド思想を一体化し、価値がどこにあるのかを消費者にわかりやすく提示している点にある。象徴的なのが、生豆の調達価格や輸送コストを公開する価格の透明性だ。従来のスペシャルティコーヒーでは、ダイレクトトレードやサステナブル調達が語られてきたものの、その実態は消費者から見えにくかった。同社は具体的な数値を提示することで透明性を理念にとどめず、信頼へと転換している点が特徴的だ。消費者のもとに届くおいしい一杯のための収穫労働者やミル関係者など各工程での報酬の実態についてはさらなる理解と改善の余地があると常に意識しているという。そうして店内に到着した豆を選別し、6台の焙煎機でローストしてパッケージするところまでは店内の工場さながらのセクションで見学できるようにし、透明性を強調している。
今、コーヒー業界では単に良い豆を使い、おいしく淹れるだけでは突出できなくなっている。Onyx Coffee Labは、良いコーヒーそのものではなく、「良いコーヒーの理由」を売っている。その姿勢こそが、ポスト・サードウェーブ時代における新たな競争力なのかもしれない。
(井澤歩)
●店舗情報
「Onyx Coffee Lab」
所在地=101 E Walnut Avenue,Rogers,AR72756 他、アーカンソー州内に6店舗














