ニューヨーク通信 外食ビジネスの新発想(71)モモフク・ヌードル・バー

2013.01.07 406号 12面
「モモフク・ラーメン(豚三枚肉、豚肩肉、ゆで卵)」

「モモフク・ラーメン(豚三枚肉、豚肩肉、ゆで卵)」

「モモフク・ヌードル・バー」のインテリア

「モモフク・ヌードル・バー」のインテリア

 ニューヨークでは次々とラーメン店がオープンしているが、2004年に「モモフク・ヌードル・バー」がオープンした当時、まだラーメンは、ニューヨーカーにとって、スーパーで買うインスタント麺というイメージが強く、認知されていなかった。同店は、今やニューヨークのレストラン・シーンのセレブシェフとなり、外食産業のトップ賞であるジェイムズ・ビアード・ベスト・シェフ賞も受賞し、次々に店を展開しているディヴィッド・チャン氏がオープンした第1号店だった。数々の賞に輝く、アメリカ人に愛されるラーメン店のラーメン。ニューヨークのラーメン・ブームの火付け役となったのが、同店だ。(外海君子)

 ●アメリカ人のアメリカ人によるアメリカン・ラーメン ラーメン流行の先駆者

 創業者のチャン氏は、大学で宗教学を勉強し、金融業界で働いてから、日本へラーメン修業に出かけたというユニークな経歴の持ち主だ。店名のモモフクは、「ラッキー・ピーチLucky Peach」を意味すると称しているが、インスタント・ラーメンの開発者である、日清食品創業者の安藤百福氏の名前にちなんだものでもある。

 チャン氏は、その後、デザート専門の「モモフク・ミルク・バー」など、次々に新しいテーマのレストランをオープンし、モモフク・レストラン・チェーンは、カナダやオーストラリアにまで広がっていった。

 チャン氏は、また、2011年に「ラッキー・ピーチ(幸運な桃)」というフード雑誌も刊行。なかなか奥深い専門誌であるが、第1号は、ラーメン特集であった。

 オープン当時は、オーナーシェフのチャン氏がメニュー開発をしていたが、現在は、チームワーク。同店のコック長ショーン・ヘラー氏を筆頭に、同店のシェフたちが、経営者のチャン氏と共同で開発する。ロードアイランド出身のヘラー氏は、ボストンやニューヨークの有名レストランでシェフを務めたが、ラーメン店での経験はない。が、それゆえに伝統に縛られない、ユニークな発想でメニュー開発できる強みがある。

 同店のスタンダード・ラーメンのメニューは、モモフク・ラーメン(豚三枚肉、豚肩肉、ゆで卵-開店当初はグリーンピースが加えてあった)、ジンジャー・スキャリオン・ヌードル(ショウガ、ネギ、椎茸、キュウリ、キャベツ)、スパイシー味噌ラーメン(スモーク・チキン、野菜、ごま)、チルド・スパイシー・ヌードル(四川スパイス・ソーセージ、ホウレンソウ、カシューナツ)の4種。これに日替わりラーメンが加わる。この日のスペシャルは、ヤギ肉、ケール、パセリのラーメン。麺は、チャイナタウンの麺製造者にチャン氏が納得できるまで作らせたものを使用している。

 それにしても、日本人にとっては、カシューナツやヤギ肉の入った、ギクッとするようなラーメンである。同店の料理長以下、すべての料理人がアメリカ人。チャン氏自身も、「日本のラーメンの伝統を非常に尊敬しており、対抗するつもりはない」と言っている。同店のラーメンは、アメリカ人によるアメリカ人のためのアメリカン・ラーメンなのだ。お客さんもアメリカ人が多く、店内は、モダンで清潔だ。

 この一冊を読めば、奥の深いラーメンのすべてがわかるという「ラッキー・ピーチ」誌のラーメン特集には、同店のスープ開発の苦労やレシピも載っている。スープは、常に進化しているということであるから、同誌が出版されて1年たった今となっては、また別物になっているかもしれないが、同店のスープの基本は、鶏肉、豚の頚骨、そして鰹節の代わりにベーコンを使っているということである。

 アメリカ人は、日本人よりも時間をかけて食べる。ラーメンもしかり。モモフク・ラーメンは、1杯16$という値段である。これに税とチップを含めると、軽く20$になる。日本の通念からすると、かなり高い。

 同店では、ビールやワイン、日本酒も飲めるようになっており、ラーメン以外のメニューも充実し、デザートまで用意している。金曜と土曜限定の深夜メニューは、モモフク・ラーメンとジンジャー・スキャリオン・ラーメンの他、ポーク・バン(豚まん)、スモークした鶏の手羽肉、ローストした餅といった、主に飲む人のための限定メニューになっている。

 ●人気メニュー

 「モモフク・ラーメン(豚三枚肉、豚肩肉、ゆで卵)」(16$)

 「日替わりラーメン(日によって異なるが、この日のスペシャルは、ヤギ肉、ケール、パセリのラーメン)」(15$)

 「ジンジャー・スキャリオン・ヌードル(ショウガ、ネギ、椎茸、キュウリ、キャベツ)」(12$)

 「ポーク・バン(豚まん)」(10$)

 「ミント・チョコレートケーキ・トラッフル」(4$)

 ●事業データ

 モモフク・ヌードル・バー(Momofuku Noodle Bar)/所在地=171 First Avenue New York NY 10003/開業日=2004年8月/営業時間=ランチ 月~金 正午~午後4時半、土・日 正午~午後4時、ディナー 日~木 午後5時半~11時、金・土 午後5時半~翌日午前2時/席数=70

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