メニュートレンド:カラシビ味噌らー麺 唐辛子の辛さ×山椒のしびれ=カラシビのインパクト
都内のラーメン店はすでに飽和状態。特にJR山手線沿線は大激戦区だ。この地区で成功するのは並大抵ではなく、栄枯盛衰が繰り返されている。閉店に追い込まれた店の味が劣っているわけではない。成功するには味だけではなく、独創性がカギとなるからだ。神田駅徒歩3分の立地にある「鬼金棒(きかんぼう)」の「カラシビ味噌らー麺」には、この地区で成功する強さがある。
●ストーリー性のあるラーメンを五感で楽しむ 開店3日前にひらめいた大逆転のラーメン
まず“カラシビ”というネーミングにインパクトがある。「カラシビとは何ぞや?」と興味をそそられる。カラシビ誕生のルーツは、「鬼金棒」を経営する三浦正和氏が、原宿のとある中華料理店で“宇宙一辛い麻婆豆腐”なるものを食べたことにあった。「口の中でジャリジャリいうほどサンショウが入っていて、とにかく衝撃的でした。この衝撃を人に伝えたいという衝動に駆られましたね」と料理人魂に火がつく。
そこで、当時、超有名ラーメン店の「麺屋武蔵」の池袋店を任されていた三浦氏は、限定ラーメンとして「麻辣味噌ラーメン」を開発する。ところが、これが侃々諤々の賛否両論に。なかには「あんな辛いもの食べ物じゃない」という酷評もあった。その評価が、再び三浦氏に火をつけた。「万人ウケを狙った味は凡庸になりやすい。評価が両極端に分かれる味こそ魅力的なんです」と将来、自分が独立するときは「これでいこう!」と決意する。
その後、独立。唐辛子の辛さ×サンショウのしびれ=カラシビを特徴とするラーメン開発に挑んだ。「カラシビに負けない味のベースは味噌しかない」と日本全国から50種類以上の味噌を取り寄せて試作を繰り返し、信州白味噌をベースに八丁味噌や西京味噌をブレンドした味噌に決定。しかし、これだけでは終わらない。「カラシビ味噌らー麺」誕生までの苦労は開店前日まで続いた。
当初は、仕上げに唐辛子オイルとマー油をかけていたが、油が2種類だとくどさがある。思案していたときに、スタッフが誤って唐辛子パウダーを丼の中に落とした。「赤い粉がパッと丼に広がって、これだ!と思いましたね」と唐辛子はオイルではなく粉末を使用することに。モヤシはゆでたものを使っていたが、炒めた方がモヤシの食感と甘さが出ると開店3日前に急きょ、中華鍋が使用できるコンロを設置することを決め、搬入したのが開店前日だった。
店内インテリアをはじめ演出にも趣向を凝らした。三浦氏は「お客さんが店に1歩入った瞬間から、カラシビ味噌らー麺のストーリーが始まり、味覚だけではなく五感で楽しんでいただきたいと思っています」と言う。店内は黒をベースにした暗めの照明で、壁には鬼の面が飾られている。BGMは和太鼓ばやし。ラーメンが運ばれると唐辛子とサンショウの香りが漂い、盛り付けの色合いもインパクトがある。ドンドンと鳴る和太鼓を聞き、鬼に睨まれながら、辛くてしびれるラーメンを食べているとカラシビ感が高揚する。
味はもちろんのこと、「カラシビ味噌らー麺」が持つインパクトやアミューズメント性が、このメニューの強さなのだと納得した。
●店舗情報
「鬼金棒(きかんぼう)」 所在地=東京都千代田区鍛治町2-10-10 電話03・3256・2960/開業=2009年9月/営業時間=月~土曜(祝日含む)午前11時~午後9時半、日曜午前11時~午後4時/坪数・席数=9坪・9席/客単価=950円/1日平均客数=平日約220人、日曜約130人
●愛用資材・食材
「ピーナツペースト」 ユウキ食品(東京都調布市)
良質のピーナツを丹念に練り上げ香ばしく仕上げる。添加物を一切加えずピーナツそのままの風味が生きている。無塩・無糖・化学調味料・保存料無添加。「味噌だれの隠し味に使っています。ピーナツのコクとほんのりとした甘さとカラシビがマッチし、ただ辛いだけではなくまろやかさが出るんです」
規格=800g