外食の潮流を読む(98)韓国料理の名店が女性従業員を重用し立ち飲み店にチャレンジ

2023.08.07 534号 11面

 『ミシュランガイド』の中に「ビブグルマン」という評価がある。これは「5000円以内でコスパが高く良質な店」ということ。大阪・福島の「韓国食堂入ル」と東京・恵比寿の「韓国食堂入ル坂上ル」はこの常連である。これらを展開するのはSOME GET TOWN(本社/大阪市西区、代表/山崎一)だ。山崎代表の母・朴三淳(パク・サンジュン)さんは、韓国で女性初の国家調理技能士一級の免許を取得した人物で、大阪・鶴橋で韓国料理店を営んでいた。山崎代表が母の飲食業を継ごうと決意したのは、サラリーマン当時、外食する機会があるたびに「母の料理はおいしいと確信して、後世に残したいと考えたから」(山崎代表)と言う。

 韓国料理は母の料理が絶対的な価値観となっていて、韓国料理店で食事をするときは各人がテーブルの調味料で各人の母の味付けにするという。その論のとおり、同社の料理は「朴三淳」のレシピが絶対的なものであり、従業員の誰もが料理の母としてリスペクトしている。これまで展開していた店舗は、朴三淳の料理を粛々と提供し続けてきた。

 「韓国食堂入ル」が『ミシュランガイド京都・大阪2018』で初めてビブグルマンを獲得した時に、優秀だと注目していた女性従業員が「東京でこの店をやらせてほしい」と申し出た。山崎代表は「朴三淳の料理が再現できるだろうか」と不安だったが、その店「韓国食堂入ル坂上ル」は『ミシュランガイド東京2021』でビブグルマンを獲得した。

 同社の8店舗目「韓国スタンド@(アットマーク)」が昨年11月、東京・学芸大学にオープンした。韓国料理を提供する立ち飲みで、既にリピーターに加え遠方からお客がやってくる繁盛店となっている。

 同店の店長、竹口美穂さんは兵庫・淡路島の出身。大阪でOL勤めをした後、東京に出てカジュアルレストランでサーバーをしていた。本格的に飲食の道を志すようになり、仕込みから調理も行う介護施設の飲食部門に就職。子どもの頃から韓国料理に親しんでいたことから、韓国料理の技術を身に付けようと考えた。介護施設の勤務が早番で午後4時に終わるので、夜の時間に韓国料理店で働こうと、見つけた職場が恵比寿の「韓国食堂入ル坂上ル」であった。しかしながら、コロナ禍に見舞われる。店は休業するようになり、竹口さんは本業の介護施設に専念するようなった。

 コロナ禍が落ち着いてきた昨年、竹口さんは山崎代表から「うちの会社で新しい店をやらないか」と声を掛けられた。そして、物件探し、契約業務、業者との交渉、メニューづくりに至るまで山崎代表と行動を共にした。

 山崎代表は「私は人材ありきで出店を考えている。恵比寿も学芸大学の店も任せてみたい人材にお願いした」と語る。ちなみに同社は8店舗展開しているが女性店長は4人存在する。母・朴三淳をリスペクトするマインドが、仕事にひたむきな女性を重用する社風を築き上げているのだろう。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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