流行の外食店-これからはやる外食店:TG-フライデーズ

2000.03.06 199号 2面

市場規模二九兆円といわれるわが国の外食市場。国家予算が八〇兆円だから、それと比較しても膨大なマーケットであることが分かる。しかし、外食をこうしたマスでとらえる考え方はもう通用しない。特にここ数年、飲食のトレンドは大手企業の動向を反映せず、さまざまな分野で揺れ動いてきた。

大手ではないさまざまな中小の飲食繁盛店が話題になり、二〇歳代の若者経営者がマスコミの寵児(ちょうじ)となった。その中には、いつしか消えていった店も多い。

一方大手チェーン店は、試行錯誤を繰り返しながら低迷状況から抜け出せていない。多くの外食コンサルタントや識者が、講演や雑誌で訴えていることもあまり当たっていない。業界自体が、今迷っているのである。

今回のテーマである「はやる飲食店」の姿が見えないのが正直な感想である。従来からの外食マネジメント誌は、相変わらず経営システム論に依拠した「経営軸」から視点をずらそうとはしていない。そのため読者離れが激しく、実売部数を減らしているようだ。

はやっているお店、行きたいお店、食事したいお店、感動をおぼえるようなお店が、そうした雑誌や媒体に載っていないのである。むしろ、コンビニに売っているようなお手軽なトレンド雑誌に、本当にお客の支持を得てはやっている、繁盛しているお店が紹介されている。

しかし、そこにはPRややらせ、パブリシティー記事も満載されている。つまり、玉(繁盛店)石(やらせ・宣伝)混交状態なのである。

昨年飲食業界の話題の中に、居酒屋「和民」のカジュアルレストランへの進出があった。「TGIフライデーズ渋谷店」である。本紙でも「新店ウオッチング」の紙面で紹介されていたが、ここで違和感をおぼえた読者も多いはずである。「なんで今さらTGIなのだ!」と。

このTGIフライデーズや「ハードロックカフェ」は、アメリカ外食視察旅行の定番ともいえる店である。正直、「もういいよ!」と食傷気味の感がある店でもある。

こうしたカジュアルレストランは、一九六〇年代の反体制的な文化から生まれたベビーブーマー世代の“名残”ともいえるお店にすぎない。ベビーブーマー世代とは、第二次世界大戦後のベビーブーム世代のことである。

しかしこのベビーブーマー世代も、今では「介護保険」を問題にするような中高年世代になった。「外で騒がしく食べるより、マイホームに持って帰ってのんびり食事しようヨ」というHMRがはやる時代である。

TGIを舞台にしたアルバイト大学生の姿を描いた、トム・クルーズ主演の「カクテル」が受けたのは、既に遠い昔。一九八〇年代である。

しかし、TGIを運営するアメリカのレジャー会社カールソンと提携した、(株)和民の渡辺社長を突き動かしているものは、古びたコンセプトを安くたたき買ってきたという、単なる「事業の多角化」路線ではない。

恐らく、TGIの持っている「カジュアル」で「アクティブ」なサービス。それらが醸し出す、面白いお店、楽しいお店、心躍るようなワクワク感(アトモスフェアー=雰囲気)こそが、今のわが国の外食に求められているに違いないという“動物的な直感”なのではないのだろうか?

いや既にそれは、ほぼ確信に近いのではないだろうか。

先日開店したTGIフライデーズ横浜店を訪問して驚いた。カウンターの中で、アルバイト(大学生)バーテンダーが演じるかっこいいカクテルアクション(パフォーマンス)が、お客に大受けしていたのである。従業員がお客と一体となって楽しむ店内状況は、まさにホスピタリティーの極致である。

アルバイトを希望する若者たちの動機も、仕事を楽しむ、楽しい仕事でなければしたくないというものに変わってきている。労働価値観の大転換期が静かに進行中である。従業員も楽しく仕事がしたい、だからこのかっこいいアクションができるカウンターマンになりたい。ディズニーランドと同様に、若者たちには行きたいお店が即ち働きたいお店でもあるのだ。

今までのような、「イラッシャイマセ」「シツレイイタシマス」とかしこまった定型サービスの時代ではない。このTGIのように、よりお客に接近しお客と一体となってその場を楽しく盛り上げ満足を誘う、そうしたレストランマネジメントのオペレーションがなければ決してはやるお店とはならないのである。

結果、TGIの渋谷店では現在も月商三二〇〇万円を軽くクリアする実績を上げているのである。

TGIのアトモスフェアー(店内の楽しい雰囲気)を実感すると、すかいらーく社がかつて開発し大失敗したカジュアルレストラン、「イエスタディー」の欠点が明確に見えてくる。

それは、チェーンストア方式のがんじがらめのマニュアルや「ハウスルール=就業規則」のもとに、アルバイトやパートが縛り付けられ管理されていたのでは、カジュアルな雰囲気など生まれそうになかったからである。

では、楽しい雰囲気があればお店は繁盛するのか? 特にTGIには、大きな問題が待ち構えている。

TGIの食事メニューは、揚げ物中心の大ざっぱなアメリカ料理である。この料理性の貧弱さがTGIの最大の弱点でもあるのだ。

TGIのパフォーマンスは評価できるが、その食事が油っぽいアメリカンスタイルの肉料理ではいただけない。では今流行の有機野菜や自然に近い食材を使用すれば、現代のお客に大受けするのか? そうした自然食レストランや有機野菜を使用したメニューが、一時TV・週刊誌・情報誌などのマスコミで取上げられブームを呼んだ。しかし、それはほとんどが一過性の話題で終わっている。

最近の大手居酒屋チェーンは、こぞってこうした野菜を使っていることを大々的にPRしているが、お客の反応は今一つである。合成着色料で染められた怪しいカクテルを飲みながら、たばこを吹かし議論している居酒屋のお客に、「健康」を説いてみてもはじまらないように思えるがどうだろうか。

それに流行病のように、野菜にだけこだわるのはどうしてなのか? 自然食居酒屋をうたう「すずめのお宿」は、既存店の業績が上がらず苦戦していると聞く。

結論から言うと、「野菜料理」にサラダのような新鮮野菜を使用する料理しか開発していないから無理があるのだ。

野菜に関していえば、乾燥野菜や生薬漢方を使うべきではないか? 漢方でも苦みを取り除き、鶏油などを使ったおいしいスープが誕生している。これらの健康を考えた食材を使い、新しいメニューを開発することをお勧めしたい。

「医食同源」という考え方が、古くからアジアにある。日ごろ食べている食物の中にこそ健康の源があるという考え方である。この考え方を上手に旅行のパンフレットに取り込んで、「薬膳料理」ツアーがバブル期に盛況を博した。しかしその潮流は薬膳ツアー・ブームが終わった今、本物の潮流となって日常的な食べ物(料理)のなかに生かされ出している。

ある食品は、お客から絶大な支持を得て品切れ状態になっているのだ。これはTVのワイドショー番組の影響も大きい。しかし、話題先行のこういった類のものでなくとも、おいしくて体に良い食物を使用する料理づくりが食品メーカーの手で実践されている。生薬をブレンドし調味した市販の薬膳スープ、(株)丸善食品工業から売り出されている「薬膳スープ」がそれである。

ある居酒屋で、お酒の最後にこの薬膳スープを使った「薬膳ラーメン」を売り出してみたところ、売れ筋ナンバーワン商品となった事実がある。トンコツスープに飽き飽きしていた若い女性客から大きな支持を得た結果である。今後は、こうした薬膳スープや医食同源をキーコンセプトにした、体に良くておいしいメニュー開発が大いに進むと思われる。

(「薬膳」という表現は、薬事法に抵触する恐れがあるので、使用には十分注意が必要)

医食同源は何もアジアばかりとは限らない。べーグルパンにも、この健康志向が根強く生きている。イースト菌をごく少量に抑え、卵や砂糖を使わない自然発酵に近いべーグルパンは、今中性脂肪の取り過ぎで悩むアメリカ人の食事を見事に転換させようとしている。特に若い女性たちから大きな支持を得て、ニューヨークなどの大都会ではベーグルカフェが大繁盛している。

もともとベーグルは、質素で伝統的で慎ましい暮しをテーゼとする、ユダヤ人たちが日常的に食べていたものである。しかし、彼らの堅実な人生観と同じように、硬くてモサモサした不格好なパン=ベーグルこそ、これからのパン業界を大きく変革する商品になるかも知れない。この潮流が、わが国にも押し寄せてきている。

最初は珍しいサンドイッチとして導入されてきたが、本場に負けない味と雰囲気を醸し出す店が誕生しだしている。わが国のベーグル店のなかで、最もおいしいといううわさのベーグル・パンがあるのだ。それは、四国・高松から東京に進出した「マコーズ&ベーグルカフェ」である。

現在自由が丘をはじめ、中目黒、五反田、池袋、港北と五店舗だけの出店だが、自由が丘店は一四〇〇万円月商をキープする繁盛店に成長しているという。今後もこの手のベーグルパンとエスプレッソを飲ませる、本格的なベーグルカフェが全国至る所に出店してゆくに違いない。

過日のような、マス(外食産業理論)で飲食業を語る時代ではない。忙しくあわただしい社会の中で、ホッと人間らしい原点に返るのが飲食店でのひとときである。

「食べる」という行為ほど、動物的な行為はない。動物的というのは、決して野生という意味ではない。最も人間的な時間と空間を享受する場であるということなのだ。そこでは、仕事の話も、ゴルフの話も、恋人との会話もある、喜びと笑いと怒りに満ち満ちた空間なのだ。

そうした空間が、決まりきったマニュアルやいんぎん無礼なサービスで満ちあふれていたら、お客として十分な満足をおぼえることができるだろうか。だから、大手チェーンの定型的な店舗運営が忌み嫌われだしているのである。

そこで、静かなブームを呼んでいるのが「こだわりの小規模飲食店」である。最近、独立開業する人たちのための店舗物件に関する新雑誌が創刊された。

一方、TVを中心としたラーメンブームで、独立開業するラーメン店がやたらに目に付く。その背景には、不況で就職口がないとかリストラで職を失ったサラリーマンなどの“やむなし独立”もあるかも知れない。

しかし、筆者の見るところ、「こういう店をつくってみたかった!」という積極的な独立開業の方がよほど多いのである。それらの小規模店の最大の特徴は、オーナーたちの尋常ではない“こだわり”がお店に充満しているということである。

表2に一例をあげたが、こだわっているテーマも千差万別。それぞれ皆違うというくらい、拾い出したらきりがないほどである。

こうした、こだわりの小規模飲食店が、今の飲食業界の流れを大きく変えようとしているのは事実である。

二一世紀に向かおうとしている今、成熟した消費文明のなかで繁盛という栄冠を勝ち取るのは容易ではない。しかし、この記事を読んでいる読者諸兄に訴える。不況だ、不振だと悩んでばかりいず、今が大いなるチャンスにあふれた時代なのだと考えを切り替えていただきたい。

事実、ビジネスチャンスは至る所に存在し、その潜在するチャンスに果敢に挑戦し、ぜひ次代の飲食ベンチャーとしてデビューしていただきたいものである。

(T&Tコンサルティング・高桑隆)

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