だから素敵! あの人のヘルシートーク:エッセイスト・画家玉村豊男

1999.11.10 50号 4面

田舎で暮らし始めて十数年、現在は見晴らしの良い土地を探し当て人里離れて住まいを構えるという玉村氏。のんびり口調かと勝手にイメージしていたら、見事に裏切る早口口調。にもかかわらず始終にこやかに、そしてユーモラスな語りぶり。田舎暮らしとは「のんびり」ではなく「考えて、やってみて、考えて」と頭も身体も休む暇なくフル回転させる毎日なのかも……。今年の作物状況の報告も含めて、お話を伺った。

今年の収穫は良くなかったですね。梅雨に雨が多かったでしょ。東部町(長野県)は雨が少ない土地だけど、それでも今年は例外的によく降った。周りの農家さんでも虫や病気が出てしまって、全体的にダメでしたね。まぁ、そういうことは毎年違うから。これから冬の四カ月くらいは霜が降りて、雪と氷に閉ざされて畑仕事はお休み。

実はね、来年はブドウ畑を倍に増やそうと計画しているんです。でもブドウの木は六年かけて大人になって、おいしいワインを作るには一〇歳、二〇歳にならなきゃできない。いまあるのが八歳だから、ようやく味を楽しめるワインが作れるかな、という感じです。おいしいワインを作るためにブドウが歳をとるのを待っている状態ですね。二〇〇一年には売り出したいと思うけど、穫れても六〇〇本ほどにしかならないから、それでは来年は畑を増やそうとなったんです。だけど、またその分がゼロからだから、また一〇年、二〇年。どんなになるのか分からないけれど楽しみだよね。

東部町に越して来て、ここにはたくさんの動物が来ますよ。まさに動物とともに生きる、ですね。今年はすぐ近所で熊も出ました。月の輪熊ね。我が家の後ろ二〇〇メートルくらいのところが通り道らしくて。うちには犬がいるから、こないと思うけど……。見てたんだけど結構怖いよね。

絵はね、二五年ぶりに病気がきっかけで描き始めたんです。四〇を過ぎた時にストレスと過労から大量の吐血をして、そのとき輸血をしたんです。当時はまだ輸血する患者の一〇人に一人は肝炎にかかるようでしたが、その一〇分の一にあたってしまって。とにかくのんびりしているのが治療だから暇なんです。人生なんて分からないからどういうチャンスが巡ってきて描いていたかもしれないけれど、とにかくそれまで自分では描くつもりがなかったからね。病気になって暇だから描いた、もしあのまま普通にいったら描かなかっただろうなぁ。

皿に野菜の絵を描いてるのがあってね、タマネギ、唐辛子、トマトなんだけれど、それがあるとたとえ皿に肉しかなくても野菜もあるようでちょっと楽しいでしょ。これは淡路島にあるお店向けに描いたのが最初なんです。この店は明治のレンガで出来ているすごくいい建物なんです。阪神大震災でも壊れなかった。その一角におしゃれなレストランと併設したショップがあって。オープンの頃はしょっちゅう行ってメニューを考えたり、うちのタネを淡路島の農家さんに渡して作ってもらったりね。淡路島はタマネギやじゃこなんか名産品が多く、行くと新鮮な魚も食べられるでしょう。それこそ地元の人にはなんでもないことなんだろうけど、僕にはもう感動モンの旨さでね。そういうことすべてが楽しいよね。

例えば身体の一部が欠損しているとか、検査をしたら血糖値が標準より高いとか、何かが正常値でないとか、そういうことで健康じゃないとはいえないでしょう。病気を持っていても、障害を持っていても前向きに毎日が楽しく過ごせて、やりたいことがあって、という人が健康だと思うんだよね。若い人がそれこそ、どこを調べても悪いところはないし身体も力も強いんだけれど、ただ何をやったらいいのか分からないのか、だらだらしている、そういうのが不健康だよね。自分でやりたいことがあって夜寝る前に明日は何をやろうとか、何をやらなきゃいけないとか思える人は健康なんじゃないかな。肉体的ハンディとか関係ないと思うんです。検査をしてみて悪いところが分かったら急に病気のような気になるし、知らなきゃ同じ悪い数値でもそのまま元気でいられることもあるしね。

お酒をたくさん飲んでタバコも吸って好き勝手に暮らした人でも一〇〇歳まで生きる人もいれば、すごい健康マニアで食べ物に気をつけていても五〇歳くらいで終わってしまう人もいる。それは本当に分からない。だからあまり気にしないで、健康のことよりもやりたいことの方が先に気になるような状態が本当は健康な状態だと思います。

具体的な健康の秘訣なら、僕の場合は食べ物に関しては野菜は自分のところで穫れる良い野菜を食べているから……、外食をする時に食べ過ぎないように気をつけることくらいかな。それにまずいと思った物で腹を一杯にしないこと。あぁ、でも最もいけないのはイヤな奴と一緒に食事をすることだな。何を食べてもストレスや毒になるからね。僕は人の好き嫌いが激しいのかもしれないけれど、イヤな奴と食べなきゃいけないくらいなら一人で食べる方がいいな。イヤな奴と食べてカロリーを取ってしまったら損じゃない。楽しい食事なら大した物ではなくても栄養になると思うしね。だから食事は楽しくが健康の秘訣だよね。

普段は自然の中にいてストレスのない生活をしているから、たまには都会に出てきておしゃれなレストランに行ったりとかは、それはそれで楽しいですよ。それに都会に出てきて悪い空気を吸うことも必要なんです。いつもいい空気ばかりではね。ストレスというのは全くないより少しある方が良いように思うんです。都会に出てきておもしろいな、と思うこともあるけれど一晩いるとやっぱり空気が汚いなぁ、と感じてしまう。そう思って自分の町に帰ると「あぁ、おいしい空気だな」と思うんだよね。だから時々はその毒になるものを入れなきゃボケちゃうじゃない。いいものばかりに囲まれて暮らしていると“いいものボケ”になる。雑草も道路沿いの騒音とか排気ガスに当たっているもののほうがよく育つでしょう。刺激がある程度ある方がいいんじゃないかな。あまり純粋に育ってもね。

玉村 豊男(たまむら・とよお)

1945年東京生まれ。68年東京大学在学中にパリ大学に留学、帰国後仏文科卒業。通訳ガイドを経て執筆活動に入る。料理、旅をテーマにウイットとユーモアに富んだエッセイストとして注目を浴びる。83年37歳の時に軽井沢に転居し、7年間の田舎暮らしの後、長野県・東部町に広大な農園「ヴィラデスト」を開く。宝酒造(株)が主宰する宝酒造生活文化研究所の所長も務める。

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