韓国に見る薬食の特性 ヘルシー&美味
中国は医食同源の国である。食事の悪さによって病気にかかるが、良い食事をすることによって病気を治す考え方が支配的である。これに対し韓国は薬食同源の思想が中心となり、食べるものはすべて薬になるとして大切に取扱う。
食べる物に薬の文字をつける。即ち、薬食 薬飯 薬果 薬酒 薬〓(干し肉) 薬水 薬念(薬味・薬塩・薬辛醤)などとなる。
日本では薬味のみが一般的。本来は毒消しの効用を持つものであるが、意味としてある種の料理に添えて出し、食欲を進める香辛料で、わさび・しようが・ねぎなどを指す。
韓国での薬の解釈はもっと重く、薬塩の場合でも、塩を上手に活用すれば、味を出すのに薬のような効果をあげることが出来るとして大切に取扱う。
また根底に陰陽五行説(中国は陰陽二元説が支配的)を尊重しバランスの良い食事をとるように心がける。
この理論をみると、陽に属するものは温・熱・甘・辛・淡、陰に属するものは寒・涼・酸・若・〓となる。陰が勝てば陽病になり陽が勝てば陰病になる。陽が勝てば熱、陰が勝てば寒となるが、寒の寒は熱となり、熱の熱が重なると寒になる。この道理を生かすと長寿になり、治病にも効果的とされている。
また韓国の食事で強調されるのは五味五色の味である。五味とは塩味・辛味・甘味・酸味・苦味を指す。五色とは赤・緑・黄・黒・白である。特にカラフルな色は即、ビタミンやミネラルと結びつく。
韓国食の特徴をみると、
・日本食以上にヘルシーである
・中国食以上に菜食が多い
・素朴さと自然の味が生きている
・原材料がぜいたくでなく安価である
・薬念のにんにく・唐辛子・ごま・しょうがねぎなどを多用する
・副食では山菜のわらび・ぜんまい・たけのこ・たらの芽・トラジ・つるにんじん・のびる・チョンガなどを多用。
薬食思想が極めて高い。
韓国に肥満者はみられない。その背景は日本と異った食生活があるからである。
(イ)キムチを多食する…キムチはうまい。日本でも人気が急上昇。しかし韓国の人は毎食三~四種類のキムチを楽しむ。韓国には二四二種のキムチがあるというから驚かされる。
キムチづくりの必要素材は唐辛子(粉末・中挽・荒挽・糸切りなど)とにんにくである。唐辛子の辛味成分のカプサイシンは腸の働きを活発にしたり血管拡張などの作用が知られていたが、京大と阪大の共同研究で、脂肪分解を促進する作用が確認され肥満防止に卓効あることが証明された。キムチは減肥作用が大。
(ロ)ファイバーフードを多食する…キムチの野菜を始め前出の山菜類やナムル類が好物である。ナムル=あえものの種類が多く、大根・人参・胡瓜・大豆もやし・ぜんまい・せり・トラジ・クレソンほか、ごまとごま油を使うのが特徴。一種類だけでなく数種類を盛り合わせ味の変化を楽しむ。これをベースにして好物のビビンバもつくられる。
またレンチエ=冷菜、センチエ=生菜としてサニーレタス・トマト・なすほかが食べられ、野菜・山菜・野草の天国である。野草には特有のアクを抜く調理技術も生れている。
(ハ)韓国焼き肉がポピュラーとなって、ロースやカルビーなど精肉だけでなく、さまざまな内臓肉の味を知るようになった。一部にはホルモンの名前でファンはみられたが、このバラエティミートは思いのほか美味であり、ローカロリーでありヘルシーなのである。
代表例では、
ハツ…筋繊維が細くてやわらかく、歯ざわりもよくサッパリしている
ミノ…牛の四の胃の中で最も大きく、白く弾力に富み、コリコリして香ばしい
ハンギングテンダー…さがりともよび肉質は厚く、味も赤身と変らずクセがない
レバ…ビタミン・ミネラルに富み、臭みもなく低カロリーの栄養美容食
大腸…弾力ある歯ざわりでサッパリとした味でしかも消化がよく、ファンも多い
アキレス…ゼラチン質が主成分で高蛋白低カロリー。老化防止によいといわれる
などがある。
どの部位も食べやすく、肉に比べてカロリーが低く、価格が安く美味。韓国から内臓肉の美味しさを教えられた。
(ニ)その他食材…韓国料理で多用されるものに、ごま・ごま油・なつめ・松の実・くるみ・にんにく・高麗人参ほかがある。これらはすべて健康食品であり高齢者食にも向く。それぞれの特性をつかんで巧みに調理している。
韓国料理はいまブームの入口部にあり、無限の拡大性を秘めている。新時代に対応して薬食ノウハウを吸収したいものである。
(食品評論家・太木光一)