記録的な暖冬で寒天業界には厳寒の冬に
冬場の天然製造期を迎えている寒天業界。記録的な暖冬で製造が進まず、季節を先取りするような陽気に頭を悩ませている。終盤戦となる2月以降の冷え込みに期待がかかるが、長期予報は平年より気温は高めとなっており、業界にとっては厳寒の冬となりそうだ。
新たな需要や消費シーンの開拓も
気候と同じく業界にとって頭の痛い原料海藻、原藻の価格高騰は一服感が出ている。財務省貿易統計によると、2019年1~11月の輸入原藻(紅藻類テングサ科)平均価格は10kg当たり6554円で、2018年の年間平均より654円、9.1%下がった。
2017、2018年と2年連続で7200円を上回った高値相場は一段落した格好だが、2016年と比べると30%以上高く、2010年からは121.7%高、2.2倍の価格で推移していることから、依然として厳しい高止まりが続いている。
一方、市場では新たな需要や消費シーンの開拓が進み、明るい兆しが見え始めている。寒天に豊富な食物繊維を手軽にトッピングできる即食タイプのカット寒天、粉末タイプのアイテムは、健康機能と簡便性を両方望む最近のニーズをキャッチしている。
伊那食品工業が手掛ける寒天由来の可食性フィルムは、ゴミにならない食品包材・資材として、「脱プラスチック」も追い風に高い注目を集めている。
広がる川上と川下の寒暖差に、難しいかじ取りを迫られる業界。伝統的な地場産業として長野県茅野市、岐阜県恵那市山岡町などに根付いている角(棒)寒天、細(糸)寒天の製造現場では、人手不足や後継者問題も深刻化し、産業維持に向けた基盤整備が喫緊の課題として立ちふさがる。
350年近い歴史の中で、大きな曲がり角を迎えている。持続的な開発目標、SDGsが叫ばれる中、ニーズを捉えた価値を付加させながら、新たな伝統を紡いでいく構えだ。
天然製造、暖冬で減産見通し
「寒天の里」長野県茅野市では、今季も12月中旬から、自然の寒気で凍結乾燥させる角寒天の天然製造が始まっている。
「12月後半からの冷え込みでようやく製造が進み出したが、寒気が続かず、思うようにはかどらない。途中で溶けてしまうなど、品質の面でも不安」(松木修治・松木寒天産業社長=長野県寒天水産加工業協同組合長)。今シーズンも前季と同じ10工場が稼働しているが、減産は避けられない見通しだ。
寒天に豊富な食物繊維の機能性が市場認知を広げていることから2018年は出荷が順調に進んだ。今季は組合各社とも在庫量が乏しい状況で製造がスタートしたため、「2月に冷え込みが続かないと、春以降の売上げに大きく響く。棚切れは死活問題」(松木組合長)。
2005~06年の「寒天ブーム」ではスーパーなどで寒天製品の売り切れが相次ぎ、製造期が限られる角寒天に代わって工業型の通年製造が可能な粉末寒天がシェアを大きく伸ばした。業界には、緊急的に流入した粗悪な輸入品が寒天のイメージダウンを招き、その後の需要の反動減を加速させた苦い経験を再び心配する声も大きい。
気候温暖化への懸念がさらに高まる中、北原産業の伊藤宗登社長は、「天然製造の製品が間に合わなかった時に、代替え提案ができる商品を用意する必要がある」と指摘。現在、発売に向けた準備を進めているという。
松木組合長は、「生産性の向上は必要だが、人の手がどうしても重要で機械化、自動化できる部分は少ない。余裕のある持ち越し在庫の計画など、組合を挙げて検討していく」としている。
原藻高騰ピークも国産は「高値の草」
高騰が一息ついた格好の輸入原藻だが、依然として高い価格水準で推移している。「値上がりが強烈だったモロッコ、韓国の両国産天草は、ピークを打った感じ。ただ、他国産の相場が総じて上がっている。韓国産も新規の契約で下がる予定だが、まだ不透明」(松木組合長)。
国産天草の高騰と減産は、緩む気配を見せない。全国天草協会によると、2019年は相次いだ台風や海水温上昇に伴う生育不良、採集労働者の高齢化・減少などで前年同様、400トンに満たない水揚げ量だった。赤草の10kg当たり価格は1万8000~2万円台半ばと、寒天原料としては高値の花ならぬ「高値の草」になっている。
同協会長を務める北原産業の伊藤社長は、「産地にもよるが国産天草はなお、減産と価格上昇が継続する見通し」と説明。国産天草の主な需要はところてんだが、寒天製品への引き合いも国産原料志向の高まりで強まっており、「生産者や漁連と情報、意見交換を密に行いながら、増産に向けて取り組んでいきたい」と話している。
カット寒天系、市場開拓進む
天草やオゴノリなどの紅藻類から抽出した粘質液を凍結乾燥させた寒天は、成分の約80%が食物繊維で、カロリーはほぼゼロ。こうした機能性を多彩なメニュー、料理へ手軽に付加できるカット寒天タイプのアイテムが、市場に定着し始めている。
角寒天、細寒天のいわゆる「形状物」を2cm角程度のブロック状や約2~3cmのスティック型にカットしたカット寒天は、味噌汁やスープにそのまま加える、軽く水戻ししてサラダにトッピングするなどの即食系ニーズを訴求する。
伊那食品工業の「スープ用糸寒天」シリーズは、食品スーパーなどの一般チャネルに向けた商品。業務用市場がメーンの同社にとって、幅広いユーザー層の開拓を目指した「戦略商品」と位置付ける。
地元・長野県内では食品スーパーの配荷率がほぼ100%で、県外でも採用が広がる。100gタイプは単価が1000円を超えていながら、棚に構える「300円の壁」をクリアして最も売れ筋となっている。
松木寒天産業の「そのまんま寒天」シリーズは、角寒天がベース。地元・茅野市で天然製造した角寒天を洗浄、再乾燥させた後、2cm程度にカットし、角寒天ならではの軟らかく食べ応えのある食感を提案する。
「寒天本舗」ブランドで家庭用アイテムを展開する北原産業も、糸寒天を3cmほどに切った「食べちゃう寒天」など、多彩なカット寒天系商品を展開している。
長野県寒天水産加工業協同組合の松木組合長は「固める、寄せるといった従来の用途は頭打ち。現代の食スタイルにマッチした即食型の提案で、新しい需要を切り開いていきたい」と話している。
※日本食糧新聞の2020年1月31日号の「寒天特集」から一部抜粋しました。