外食の潮流を読む(90)サントリー系ダイナックが示す、脱法人需要・脱宴会型の居酒屋
サントリー系の飲食企業ダイナックでは今年に入り続々と新業態をオープンしている。以下がその店舗で、オープン日、店名、所在地、業種を表記した。
3月30日「焼鳥 ハレツバメ」神奈川・横浜、焼鳥&鴨だしせいろ、4月21日「釣宿酒場 マヅメ」東京・日本橋、鮮魚大衆酒場、5月26日「北国とミルク」東京・多摩センター、北海道イタリアン&カフェ、7月21日「鮨ト酒 日々晴々」東京・新宿三丁目、寿司居酒屋、8月22日「純けい焼鳥 ニドサンド」大阪・天満、ネオ大衆酒場、9月12日「& BEEF」東京・新宿、シュラスコ、10月26日「THE R.C. ARMS」東京・有楽町、パブ&レストラン。
これらに一貫していることは「脱法人需要」「脱宴会」。これからの主要顧客となるMZ世代(ミレニアル世代とZ世代のことで、20~30代半ばの人々)にアピールし、フードメニューの充実に気を配っていることだ。
同社は東証二部に上場していたが昨年5月に上場を廃止し、サントリーホールディングスの完全子会社となった。その背景にはコロナ禍で急激に業績不振になったことが挙げられる。
同社がコロナ禍前まで強みとしていたのは「オフィス街立地、ビジネスパーソン、宴会・社用使い」で総店舗数160を擁していた。それがコロナ禍で強みとしていた分野の需要がなくなり30店舗閉店した(現在は110店舗の体制)。
新生ダイナックの代表に就任したのは秋山武史氏。秋山氏はサントリーの中で飲食店の盛業支援を行う「グルメ開発部」に20年近く在籍していた。この間、秋山氏は「角ハイボール」の普及に努め、サントリーの業績に大きく貢献したと共に、新しい飲酒のスタイルをつくり上げた。飲食業支援のヒットメーカーから飲食企業経営者に転じたということで、その動向が注目されている。
秋山氏が同社の代表となったのは昨年9月。ここから新生ダイナックの再構築が動き出した。秋山氏はグルメ開発部在籍当時から、これからの外食の存在意義が「繁華街、ミレニアル世代、日常使い」「郊外・住宅地、ファミリー、食事使い」というものに変化していくのではと考え、2020年4月頃から未来予測を立ててメンバーと話し合っていたという。
新たにオープンした前述の店舗は、業種としてのつくり込みが振るっている。例えば「釣宿酒場 マヅメ」の場合、都内近郊の釣宿や一部漁港と提携し、網でとられる魚よりもストレスが少なくうま味が強い釣魚を調達。「北国とミルク」では開発に際して同社のミレニアル世代の女性社員を起用して「自分たちが行きたい店、食べたい料理、着用したいユニフォームを考えてもらった」(代表の秋川氏)と言う。
販促ではクラウドファンディングを活用し、リターンとして割安価格や支援者ならではの特別メニューを明示して、支援者にはオープン前からロイヤルカスタマーとなるべく関係性を築いている。このように同社ではコロナ禍を経験して新しい飲食業の道を示している。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。