「無限」「ヤバい」…食品の個性とは無関係でもZ世代に響くオノマトペ
前回、食の趣向とオノマトペに代表される「おいしさの表現」の連動について書いたが、年代によっても「おいしさの表現」には違いがある。Z世代の表現にはどういった特徴があるのだろうか。オノマトペからも世代の売れ筋商品の傾向が見えてくる。おいしさの表現には、「歯応えがある」「風味がよい」「味噌味が強い」「まろやか」「汁気が多い」など具体的な表現が以前は中心だったように思う。その食品、食材、料理の特徴をとらえて表現することで聞く側も想像力を働かせた。スマホですぐに画像を見せて口コミすることができなかったのだから当然だ。
※前回のコラムはこちら
肉まんは「ほかほか」より「アツアツ」 Z世代に響くオノマトペは
「もちもち」「とける」にみる言葉の利便性
しかし現代、特にZ世代では「もちもち」に代表するように食感を「オノマトペ」で伝える傾向がある。多くの商品が一律「もちもち」で表現されるため、「もちもち」であることがすなわち「食べたい」「おいしそう」に脳が連動していく。こういった一律表現の傾向は肉料理などでも同様だ。「とける」「歯がいらない」「飲める」などが代表的な表現で、いくら軟らかくても肉類がかまずに飲めるはずはないのだが、軟らかさの表現において定番となっている。
「クセになる味」「やみつき」などもトレンド
また、「クセになる味」「やみつき」などもよく用いられる。「無限に食べられる」といった「無限」も好まれている。これらは、40代前半の年代でもよく使用されている。また、全てのおいしさの表現を「ヤバい」という一つの言葉で表す傾向もある。おいしくなくても「ヤバい」し、おいしくても「ヤバい」のだ。これらの表現は、食べ物そのものが「どんな風においしいのか」表現した言葉ではない。「クセ」「やみつき」「無限」「ヤバい」という食べ物とは無関係な言葉を用いて、総称して「おいしいのだろう」と想像させている。
オノマトペに関しても、かつてはかなり細かな表現の違いがあり、日本人の繊細さが感じられた。例えばリンゴの「サクサク」と「シャキシャキ」では違うし、「シャキシャキ」と「シャキッ」でもニュアンスは異なる。焼き芋の「ポクポク」「ホクホク」「ほかほか」「ほっかほか」もすべて印象は異なる。
筆者はメニュー(商品)開発の仕事では常にキャッチコピーも連動して考えるのだが、オノマトペを常に頭に浮かべる。しかしZ世代はそこまでのニュアンスは求めていない。音からの想像力はかなり近年変化している。音に関しての一律化は、これも利便性重視といえるだろうか。足りない部分は「スマホ画像」がサポートしてくれるから問題ないのだと考えられる。
「もちもち」「もっちり」と「もち」は異なる
「もちもち」「もっちり」が好ましいと思うのなら、Z世代はさぞ「もち」も好きなのかと思いきや、それがまたそうでもないという状況だ。「もちは好きではない」、「食べ慣れていないからわからない」と思う人が特に若い世代では珍しくない。正月にも雑煮を食べないという。かんだ瞬間の「もちもち」した食感は好きだけれど、もちのようにいつまでも「もちもち」食感が続くと飽きてしまうし食べにくいので好きではない、という微妙な感覚があるようだ。
食感の表現、おいしさの表現は時代とともに変わっていき、並行して「おいしい」と感じる食感もかなり変化している。好ましい食感の変遷が景気や環境などと関係が深いのかどうなのか、そちらも興味深いと感じている。(食の総合コンサルタント小倉朋子)