スーパーで会計前に食べてもOK ジョージアの驚くべき習慣にはメリットも
グローバル化が進み、海外に住んでもあまり戸惑いなく過ごせることも増えてきた。筆者が住む東欧のジョージアにも欧州の大手スーパーがいくつも進出し、市場へ行かなくても買い物が可能である。売っている品物や銘柄は日本のスーパーと異なることもあるが、気に入ったものをカゴに入れてレジに持っていき、バーコードを読み取ってお金を払う、という基本的な流れに違いはない。そんな中、いつものようにスーパーで買い物をしていた途中、突然驚きの光景が目に飛び込んできた。目の前の女性が、売り場の真ん中で売り物のペットボトル飲料を開け、ごくごくと飲み始めたのである。
会計時には空き容器のバーコードを読み取ってもらう
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野菜もコメも生ビールも量り売り…ほしい分だけ買えるジョージアの合理的スーパー
注意してみてみると、他にも売り物の商品を開け、飲食している人がいることに気がついた。あちらでは若い男性がスナック菓子を開けて食べているし、こちらではカートに乗せられた幼児が、母親から渡されたロリポップキャンデーをなめている。目の前には何人もの店員がおり、すぐ近くを行き来しているのに、注意するどころかそちらを見ることもない。
日本から来たばかりの自分には、大変奇怪な光景に感じられた。しかし、ジョージアのスーパーでは購入前に商品を食べてもOK、なんの問題もない光景だったのである。
もちろん、彼らは万引き犯ではない。食べたり飲んだりした後は、空になった包装や容器をレジに持っていき、他の商品と一緒にバーコードをスキャンしてもらう。食べた分の代金も払っているのだから、最終的に収支は合う。
特に珍しいことでもないのだろう、空き容器を渡された店員も、特に顔色を変えることもなく、他の商品と同じようにスキャンし、会計を終えている。空き容器は捨てるでもなく、購入した客に戻される。客の方は他の商品と一緒に持ち帰ったり、レジを出てすぐに設置されているごみ箱に捨てたり。
自分が不思議に思っていることが逆に不思議に思えてくるほど、皆当たり前の顔をして買い物は終わった。
新商品のお試しや子どものご機嫌とりに便利
その後も、買い物に行くたび、購入前の商品を飲食する客に出会った。特定のスーパーマーケットだけでなくさまざまな店舗で見かけるうちに、当たり前の光景となっていった。考えてみれば、売場で商品を飲食する行為にはいくつかのメリットがある。
例えば、新商品をその場で試してみることができる。味が気になって1つだけ買ってみた商品が、食べてみたところ思いのほか気に入って、「もっと買っておけばよかった」と思った経験は誰にでもあるのではないだろうか。
その点、気になった商品を売場で開けて食べた場合、気に入ればその日のうちにまとめ買いができる。逆に、好みに合わない商品を大量に買ってしまった、という失敗を防ぐことも。
2点目として、子どものご機嫌とりにも使える。親の買い物についてきた子どもが、途中で飽きてしまって泣いたり騒いだり、という光景は国を問わずスーパーマーケットで度々目にする。そんなとき、売場に並んでいる好物の袋を開け、さっと1つ渡しておくだけで、買い物中ご機嫌でいてもらうことができる。
事前に用意しておけば、と思う人もいるかもしれないが、気まぐれな子どもはひと筋縄では行かない。「今日はこれじゃなくてビスケット!」と言われたときにも、売場にあるものなら対応できるのは大きいだろう。
最低限のルールを守ることが前提
もちろんこの習慣は、食べた客がきちんと商品の会計をするという前提の上に成り立っている。万一誰かが空き容器をその辺に捨ててしまったら、それは大問題だ。しかし、その最低限のルールさえ守られれば、この習慣にはメリットも多い。そして、ルールを守るのは、日本人の得意分野ではなかったか。
現在、日本のスーパーではタブーである会計前の飲食。これまでのタブーや常識を疑ってみると、その先には、実は顧客の利便性向上につながるイノベーションが隠れているかもしれない。(フードライター 加藤麻結)