町中華人気の背景に「癒し」と「個」の強み

「町中華」の言葉に馴染みはあるものの、普段の会話に出すことはあまりなかった。しかし今、1つのジャンルを表す言葉として「町中華」がある。それほど人気になっている。筆者の近所の町中華の店も常に客が入っている。さらに家庭で作る「町中華」のための調味料などが発売され、町中華がタイトルの冠番組やWebサイトも存在する。町中華を中国料理とくくるのは少し異なり、と、ギョウザを売るが、ギョウザ屋ではなく、ラーメンも食べられるが、ラーメン屋でもないという別のジャンルなのだ。町中華の何に今、私達は魅力を感じているのだろうか。強みの理由は、大きくわけて3つあるように思う。

町中華は人を選ばない

町中華の強みの1つは、若者にも受けている点だ。そもそも町中華とは、昭和の時代から地元に愛されている中華食堂を指す。中華料理を提供する大衆食堂、もしくは大衆居酒屋のスタイルの店もある。サラリーマンの聖地の1つかもしれない。また、昭和の時代から「家族でよく食べている」といった、世代を超えて愛される近所の第2の家庭料理のようなものだ。

いま若者の間では昭和ブームが来ている。ノスタルジックな良さを称して「エモい(エモーショナルの略)」と表現する。そのため、町中華は彼らにとってエモい店でもあり、ウケているのだ。

「THE町中華 ザク切り野菜ラーメン 醤油味」(サンヨー食品)

「癒し」としての役割をもつ町中華

町中華は、コロナ禍において「癒しの場所」として存在価値が高いのだと筆者は思う。コロナ禍以前には、仕事帰りに帰宅前にワンクッションおく店として、一杯飲んで帰ったがそれがやりにくい。そこでアルコールが伴わないで、サクッと一人で食べて帰る町中華は、コロナ以前の一杯飲み屋の代わりとなっているのではないか。

また、家庭の手料理やテークアウトに飽きてきた人にとっての、安心して使える外食の側面もあるだろう。町中華は主に昭和の時代に開業している。にわか仕込みではない店が前提だ。昔からその場所で店を存続させているのだから、「きっとおいしいに違いない」と思える安心感が、足を運ばせている。

そして、普段着で立ち寄れる気取りのない包容力がある。さらに一人客にも町中華は優しい。ほとんどの町中華にはカウンター席が存在する。加えて注文してから提供されるまでがスピーディーなため、一人でサクッと黙食するには好都合なのだ。

「町中華シーズニング 中華風玉ねぎマリネ」(エスビー食品)

「個」の混在が魅力の町中華

町中華は「個」の集合体だ。まず、中華料理でありながら、メニュー構成を見ても、ポーションサイズからも、店内設計に関しても、基本的にはシェアをしない業態である。そして、地域ごとに顧客を抱え、事業を成立させる地域完結型業態(筆者造語)ともいえる。チェーン店とは違い、“こうあるべき”といったマニュアルが少ないので、各店舗に個性がある。

カレーライスを出す店もあれば、オムライスを出す店、店主が寡黙な店…。そういったさまざまな「個」を併せ持ち、それらが混在して独特な“心地良さ”を醸し出しているといっても良いだろう。

「カレー炒飯の素」(あみ印食品工業)

家庭で町中華を味わえる商品が続々と

町中華の人気を受け、大手食品メーカーは町中華を続々と商品化している。家庭でプロの味を再現できるとして、巣ごもり需要に訴求している。例えばエスビー食品では、「町中華」シリーズとして調味料商材を展開しており、実際の名店の監修で裏メニューシリーズまである。

また、サンヨー食品ではカップラーメン「THE町中華」シリーズで再現。町中華は、気軽に入れる店でありつつ味は家庭で再現しにくいことが多いため、手早くその味に近づけるのは、家庭の食事にエッセンスをくれる。

外食ままならないからこそ町中華は強さを発揮しているともいえるのだが、それでもコロナ禍で閉店した店は少なくはない。跡取りがいないために閉店する人気店もあり、老舗で個性的だからこそ引き継ぐことが難しい業態ともいえる。しかし中華料理といえども、町中華は“日本の食文化”でもある。存続して地域に愛され続けることを願わずにはいられない。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)