進化する冷凍食品専門店 「冷凍ならではのおいしさ」訴求も

冷凍食品専門店が増えつつある。冷凍食品は、需要が加速度的に伸びており、コンビニエンスストア各社も冷凍食品の棚面積を増やすなど、市場全体が好調だ。コロナ禍で外食もしにくいが、おいしいものを手軽に食べたいという欲求に加え、冷凍技術の発達によりクオリティーの高い冷凍食品が食べられるようになったことも背景にある。これまでの「冷凍だから」という理由で諦めてきた部分が払しょくされ、「冷凍ならではのおいしさ」を消費者も感じ始めている。

オシャレ感の実現とデイリーな利便性

味気のない冷食売場のイメージから脱皮した冷食専門店の先駆的存在は「Picard(ピカール)」だ。フランス発というブランド力をもって、2016年に日本1号店を東京・青山にオープンした。キャビアオードブルやサーモンのパイ包み、エスカルゴのバター焼ブルゴーニュ風など、フランス料理の定番メニューが揃う。フレンチの料理店で提供されるメニューがお手軽な価格で購入できるのだ。店舗内装にもオシャレで見栄えがすると話題となった。

ピカール「ソコラ武蔵小金井店」ではPOPやリーフレットを使い商品イメージを訴求

2021年12月現在で都内を中心に19店舗あり、通販も行っている。家にいながらにしてフランス旅行や外食の気分を味わえるため、評判は上々だ。

福島県を中心に食品スーパーを約70店展開するリオン・ドールコーポレーションは冷凍食品を中心に扱う新業態「みんなの業務用スーパー リンクス」を2021年5月30日、福島・会津若松に1号店をオープンした。約810平方メートルの売場面積のうちメーンは冷凍食品で、約2500品目商品のうち、約1300品目が冷凍食品というのだ。

冷凍ケースが平台タイプなので、店内を見通せるため解放感のある空間を生み出している。カット野菜や生鮮素材、惣菜、アイスクリーム、スイーツ、パンなど日常食品のほか、地元の人気レストランのパスタやパスタソースをリンクス向けに冷凍商品化した商品や、「成城石井」の商品を扱うなど他スーパーにはない品揃えを実現している。

冷凍技術の発展による食卓の変革

「TOMIN FROZEN(トーミン・フローズン)」は、急速冷凍技術の「凍眠」で凍らせた食品のみを取り扱う冷凍食品専門店として2021 年 2 月 5 日に神奈川・横浜にオープン。伊藤忠食品と、凍結機器の製造・販売を行うテクニカンが共同で立ち上げた店だ。約500品目を取り揃え、イートインスペースも併設。また、冷凍装置の「凍眠ミニ」を店内に設置し、その場でデモンストレーションが行えるようになっている。

とれたてや出来たての味わいを閉じ込めた約70品を揃える「TOMIN FROZEN」

「凍眠」とは、液体凍結という凍結処理を行った急速冷凍の手法で、冷凍処理による食材からの「ドリップ」が出ないため、食材の細胞を壊さず栄養やうまみを保ち、鮮度の良いままの状態でおいしさを担保できるというのが特徴。そのため産地でしか食べられない新鮮な魚介類や、飲食店のシェフが作った料理などのアイテムを揃え、高い品質や希少性を追求している。

コロナによってデリバリーの需要は伸びたが、冷凍の技術向上やクオリティーの高い冷凍食品を購入できる場が増えることによって、今後は自宅で食べる日常食としての料理の購入の選択肢に「冷凍食品」が介入していく可能性は高いだろう。大量に購入してもあまり賞味期限を気にせず保存できるため、忙しい生活を送る人や単身赴任者、高齢者などにも需要がありそうだ。

また、食材や料理を家庭内で“冷凍する”作業は思いのほか面倒ともいえる。空気を抜き、ドリップが出ないように、また解凍しやすいような形態で冷凍する一連の作業は、手間がかかる。

冷凍商品で地域活性化も

今後は、フランス発祥のピカールにように、国別の専門冷凍食品店や、さらには細分化されて県別など、より地域性の高い冷凍食品専門店ができるかもしれない。そうなれば自宅にいながらにしてプチ観光よろしく世界の食を楽しむこととなり、家庭内の食事が新たなステージに入るかもしれない。

伊藤忠食品は独自の凍結技術を使った冷凍食品ブランド「凍眠市場」をギフト展開も

例えば「TOMIN FROZEN 」では、搾りたてのフレッシュな生酒を瓶詰めした冷凍酒も販売しており、蔵元ツアーさながらに現地の味を楽しむことができる。取り寄せ商品のような送料やデリバリー手数料がかからないのも利点だ。

また、こうしたアイテムは生産者の下支えにもつながる。冷凍食品専門店に限らず、進歩した冷凍技術を全国の生産者が利用できるようになれば、食品ロスの軽減にもつながる。そして流通業界との連携によって無駄のない仕入れや品揃えも可能になってくるだろう。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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