ようこそ医薬・バイオ室へ:エビデンスって何だろう
昨年末、ハードディスク付きDVDレコーダーを買った。キーワードを登録すると勝手にハードディスクにドンドン録画しておいてくれるので、もうビデオテープには絶対に戻れないほど便利だ。で、そのキーワードに「健康」とか「医療」とかを入れると、アッという間に大容量のハードディスクがいっぱいになって、健康番組が本当に増えたと実感させられる。
私個人はこれらの番組が結構好きで、見て来たように視覚化されて訴えられると「ヘエ~」と机を叩いてしまう。数人を使ったミニ検証実験も大変説得力があって、いつも感心している。
ま、それはともかく、テレビでやっている健康情報はココアに始まって酢とかヨーグルトとか、身近なもので簡便にというコンセプトのようで、制作会社の苦労がしのばれるが、これらに「十分なエビデンス」があるかというと、まだ心許ない。このエビデンスとは、「ある医学的事実に対する臨床的、学問的な証拠、裏付け」のことで、「何のこっちゃ?」という感じだろうが、要は「きちんとした試験法によってその効果を人間でちゃんと確かめているか」ということだ。
シャーレ内のがん細胞が死んだとか、マウスで効果があったとか、飲んで劇的に効いた人がいたとかいうレベルではなくて、プラセボ(偽薬)を用いた二重盲検法(本当の薬を飲んだのか、患者も医師も分からないように行った試験)や、何万人分の追跡調査(前向きコホート研究という)を行ったという高いレベルのものをエビデンスという。学会発表は、国際学会の口頭発表を除いて、誰でもしようと思えばできるのでエビデンスレベルは大変低く、審査のある科学雑誌に載ったのであれば少し信憑性が上がる。そして、先の二重盲目試験やコホート研究が複数回行われて、初めて「十分なエビデンス」と言われる。
これらの試験は、当然大変な手間と時間とお金がかかるので、おいそれとはできないものの、常識と思われるものでも、意外にその立証は困難であることが多い。例えば、緑黄色野菜に豊富に含まれるβ‐カロテンは、活性酸素が細胞や遺伝子を傷つけるのを防ぐ働き(抗酸化作用)があるので、がん予防に効果があると言われてきた。そこで、β‐カロテンのサプリメントを用いて、一九八〇年代から五つの大規模臨床試験が中国、フィンランド、米国の計一四万人の被験者によって五~一二年間行われた。
まず、中国の試験では、β‐カロテン、ビタミンE、セレンの投与群で、全がんで一三%、胃がんが二一%、脳血管疾患で一〇%低下し、大いに期待を持たせた。ところが、フィンランドの試験では喫煙者が対象だったのだが、β‐カロテンのサプリメントを飲んだ群は、肺がんが一八%、心筋梗塞などが一一%、脳血管疾患が二〇%も上昇して、全く逆の結果が出た。また、米国の試験では、β‐カロテンとビタミンAを飲んだ群で肺がん発生率が二八%上昇してしまったため、途中で研究を中止している。
緑茶と胃がんについては、ハワイ、日本、中国で六つのコホート研究が、五年間以上計一五万人が参加して行われた。六つの研究のうち、胃がんの発生率が低下したのが一つ、逆に上昇したのが一つで、残りの四つの研究では有意な差が認められなかった。
つまり、一般にいいと言われているものでも、大体この程度の効果だと思えばいい。かといって、悲観的になる必要は全然なく、やたら多くの人間を集めて平均するからこうなるので、遺伝子診断などで事前に効く可能性が高い集団を集めることができれば、全く違う結果が出るであろう。とにかく、まだそこまで事前診断はできないので、あまり固執せずに、サプリや健康食品などを潤いとして楽しんで用いるのが肝要のようだ。
ところで、妻に「エビデンスって何だ」と聞くと、「海老ダンスする証拠の写真、って覚えるねんで」と言いながら、黒酢入りトマトジュースを今日もまずそうに飲んでいた。
(バイオプログレス研究所主宰 高橋清)














