リンゴ加工特集
◆リンゴ加工特集:飲料業界、国産果汁への意欲旺盛
東北農政局が5月に発表した東北の2018年産リンゴ結果樹面積、収穫量と出荷量は次の通りとなった。
結果樹面積は2万7100ha、前年比1%減、収穫量は58万5500t、同5%増。出荷量は52万5300t、同5%増。県別の収穫量は、青森県44万5500t、同7%増、岩手県4万7300t、同19%増、宮城県2730t、同10%減、秋田県2万3000t、2%減、山形県4万1300t、同12%減、福島県2万5700t、同5%減。
全国の収穫量の県別シェアは青森県59%、岩手県6%、山形県5%その他で、東北は77%を占める。
青森県の18年産産地価格について県りんご果樹課は次のようにコメントしている。
「入荷量が小玉傾向だった前年に比べると多くなったものの、11月までは平年に比べ少なく、大玉傾向だったこともあり、価格は前年や平年を上回る高値で推移した。12月以降は、台風によるキズ果などが多くなったことや競合果実の入荷量が増えたことから、全般に安値基調となった。累計の産地価格は215円(1kg当たり)で前年と変わらず、平年対比では5%増となった」
生果も加工も出来秋に期待が寄せられ、忙しくなるこの時期の青森リンゴ。昨年産の状況を中心にまとめた。(東北支局長=三沢篤)
●原料価格高で応えきれないリンゴ加工場
加工用の集荷状況は、8月末で7万7828t、前年比31%増、3ヵ年平均対比でも15%増となった。各工場とも前年の繰り越し在庫が少なく、搾汁意欲は高まっていたが、これに伴い原料価格は高騰した。
さらに生食用の県外出荷量を見てみると18年産は前年比6%増だった。小玉が数個入りの袋で売場に並んでいて、大玉1個は食べきれない世帯構成や果実消費の変化を表しているといえよう。
端境期の青果売場に青森県産のふじが並び、1個200円ほどの価格で販売される。暖かい時期のリンゴは青森県産で多く占められ、収穫時と比べても遜色ない味は長年高い支持を集めている。青森県だけが設置する酸素濃度を下げ、炭酸ガス濃度を上げるCA貯蔵から出荷されるもので、鮮度が保持され差別化できる商品となっている。競合果実に比べ日持ちがして、売場管理もしやすく優等生だ。
今年も2月23日、みやぎ生協幸町店を青森県のご当地アイドル「りんご娘」が訪れ自慢の歌とダンスを披露し販売に一役買っていた。7回目となったリンゴPRキャラバンは全国11ヵ所で活動してきて、締めくくりが仙台になった。
JAつがる弘前の工藤文昭代表理事組合長は「青森県産ふじの機能性表示が認可された。リンゴに含まれるプロシニアジンの酵素の働きで、内臓脂肪を減らすというものだ。健康のためにたくさん食べてほしい」とPRした。
この日はサンふじ、王林が1個98円、3個290円、6個580円で販売されていた。
輸出はといえば、主要輸出先の台湾へは、7月累計で3万2750t、前年比1%減だったが、3ヵ年平均では9%増となった。14年に初めて輸出量が3万tを超え、翌年は3万6304tと過去最高の数字を見ている。
小玉へシフトしながら底堅い生果の販売動向、加えて輸出の伸び、また、動向を捕捉しづらいカットりんごもCVS中心にリピーターを増やしてきており、加工原料の集荷が厳しくなってきている。
青森県加工協会加盟12社の18年産加工原料の月別集荷量は次の通りだ。
9月1万2989t、前年比41.1%増、10月1万4788t、同10%増、11月1万6947t、同10%増、12月9973t、同48%増、1月4970t、同46%増、2月4370t、同53%増、3月5637t、同56%増、4月3307t、同63%増、5月2078t、同61%増、6月986t、同4%増、7月841t、同99%増、8月120t、同7%増。累計では7万7828t、同31%増という結果を見た。
前年比で見れば大幅な伸びとなっているが、3ヵ年平均対比では15%増。
果汁用の加工原料価格(1kg)は13年34円、14年27円、15年23円、16年26円、17年35円。18年産も繰り越し在庫が少なかったため、各工場とも集荷に力を入れてきた。原料価格は高くなり、対応に苦慮した。県内大手工場の青森県りんごジュースやJAアオレンなどは当初の計画の軌道修正に迫られた。受注はあるのに応えられない構造だ。
青森県のリンゴは農業生産の24%を占める重要な産業。14年から4年連続で販売額が1000億円を超え、17年産の輸出額は過去2番目の127億円に達するなど評価は高い。しかし、生産者の高齢化、担い手不足、消費者の生果離れなど産地を取り巻く環境は厳しい。結果樹面積は09年2万0600haあったが、18年は1万9800haになっている。
「労働力不足の影響で、ふじの無袋化が進み、無袋ふじの数量が過去5年間で最も多いことから計画的な出荷が一層重要になっている。若年層の果物離れを背景にリンゴ消費量は減少傾向にある。産地の高齢化、担い手や補助労働力不足により、病害虫防除、収穫作業などに影響が生じている。高品質リンゴの周年供給を強みに築き上げてきた青森リンゴのブランド力の維持・発展が懸念される」(青森県農林水産部りんご果樹課)と危機感を募らせている。
平成には50万t台の収穫を元年、2年、6年とみているが、以降40万t台で推移し、台風による落下をはじめ自然災害での出来不出来を余儀なくされている。被害果への対応、生果の価格調整機能を果たしてきた加工業界は、安定した原料確保がままならない状況で、対応を模索している。
その意味でもJAアオレンが今年から取組みはじめた加工用専用園地の実証実験は注目されよう。
一方、県は「産地と実需者をつなぐ高品位加工りんご推進事業」に取り組んでいる。これはカットリンゴやプレザーブの原料である高品位リンゴの安定供給を図るため、生産者をネットワーク化して、実需者ともマッチングを進めるとともに、省力、低コスト化に向けた加工用専用園地の導入を促進するというものだ。
JAアオレンは玉数確保を前提として摘果、着色管理などを省いて労働力の削減を図りたいとしているが、こちらは「中食、外食の拡大とともに業務加工の需要が拡大し、高品位加工など品質が高い国産原料に移ってきている」との現状認識で、やはり加工専用モデル園で取り組んでいる。
18年産は繰り越し在庫が少なく、各工場集荷に力を入れたため原料価格が高騰し、受注を断り、値上げ要請するなどの対応にも迫られた。リンゴに限らず飲料業界では国産原料のニーズが高まり、加工場は高騰する原料価格とどう折り合いを付け供給していくか、ますます対応に苦慮させられよう。リンゴ以外に注目するのはもっともなことであろう。
JAアオレンは中期経営計画の中に県内の農産物全て加工するとの方針を打ち出している。また、リンゴジュースのストレート、濃縮還元がほとんどだった県の加工場だが、青森県りんごジュースは炭酸入りの「シャイニースパークリングアップル」を新たな柱商品に育てていくとしている。スタンダード、マイルド、ドライの3品が揃い幅広い年代に好まれる飲料として訴求する。
リンゴ加工各社成立過程はさまざまながら、多くは高度経済成長期には大手ボトラーの増産を支え成長してきた。しかし、規模も経営形態も異なり、JAアオレンを除けば仲買からの原料集荷という歴史を持つ。経営の最大の関心事が原料価格の変動になることは当然だ。
一喜一憂せざるを得ないが、工場の通年の安定稼働のためになすべきこと、リンゴ以外の可能性も探る時期にきているのではないだろうか。