食品ニューテクノロジー研究会講演:信州大学農学部・田中沙智准教授

 信州大学農学部准教授の田中沙智氏は「食品由来成分の免疫調節作用とメカニズムについて」と題して、7月9日に東京「食情報館」で開催された食品ニューテクノロジー研究会(日本食糧新聞社主催)で講演し、新型コロナウイルス(COVID19)の感染拡大以来、ヒトの免疫機能と食品との関係に関する研究が急速に進展している事例を紹介した。(中山清美)

 ●「食品由来成分の免疫調節作用とメカニズムについて」 信州大学農学部・田中沙智准教授

 免疫系は生体内に侵入してきた異物を排除する生体防御機構であり、免疫機能を適切に制御することが健康を維持する上で重要である。しかし、加齢やストレス、食生活の乱れなどの要因によって免疫機能が低下すると、感染症やがん、アレルギーなどの免疫関連疾患を発症することが示唆されている。よって、日々の生活において免疫機能を維持することが重要である。

 食品の機能には「栄養」「おいしさ」に加えて、第3次機能である「生体調節機能」があり、毎日の食生活を通じて免疫機能を維持・増進することが病気を予防する上で重要であると考えた。食品由来成分の中で、乳酸菌や多糖類は免疫を活性化する効果があることが知られている。また、ポリフェノールの一つであるエピガロカテキンガレート(EGCG)や脂肪酸の一つであるn-3系脂肪酸には、炎症を抑えて過剰なサイトカイン産生を抑制する効果がある。

 われわれは免疫機能を高める食品を探索するために、マウス脾臓(ひぞう)細胞を用いた試験管培養法を用いてスクリーニングを行った。免疫活性の指標は、感染予防において重要なサイトカインであるIFN-γの産生誘導能とした。49種類の野菜について検討したところ、信州の伝統野菜の一つである「野沢菜」に非常に高い活性があることを見いだした。野沢菜漬けは、平均寿命ランキングで男女ともにトップレベルの長野県で昔から親しまれている。しかし、科学的根拠に基づいた健康効果については明らかにされていなかった。そこで、野沢菜による免疫賦活効果の詳細なメカニズムについて解析を行った。

 野沢菜によるIFN-γの産生機序について解析したところ、野沢菜抽出物に含まれる活性成分が樹状細胞からのIL-12産生を誘導し、IL-12がNK細胞からのIFN-γ産生を促すことを明らかにした。野沢菜の活性成分を認識するレセプターについて検討したところ、活性成分は樹状細胞に発現するToll-like receptorやC-type lectin receptorによって認識されることが示唆され、脾臓細胞からのIFN-γ産生は、NF-κBやP38のシグナルを介することが明らかになった。さらに、野沢菜抽出物によるIFN-γ産生誘導能は、野沢菜原料(生)に比べて、塩漬けにした野沢菜漬けで高進した。

 野沢菜抽出物の生体内における免疫賦活効果を確認するために、野沢菜抽出物を経口摂取させたマウス脾臓細胞におけるNK活性を測定した。その結果、野沢菜抽出物を経口摂取させたマウスのNK活性が増加し、LPS刺激時の脾臓細胞のIFN-γ産生が増加した。以上の結果より、マウス生体内において野沢菜抽出物の摂取による免疫賦活効果が確認された(図)。

 野沢菜の免疫機能を高める機能性食品の開発を皮切りに、他の食品においても応用させることができれば、国民一人一人が食生活を改善し、感染症予防やアレルギー予防・軽減につながる可能性がある。この食よる疾病予防効果は、国民の生活のQOLの向上や医療費の削減につながり、健康長寿社会の実現に貢献することが期待される。

     *

 ●食品ニューテクノロジー研究会入会案内

 食品ニューテクノロジー研究会は、食品企業の製品開発担当者、研究者を対象とした勉強会です。活動、入会などについてのお問い合わせは、食品ニューテクノロジー研究会事務局、電話03・3537・1310(担当=中山)までご連絡ください。詳しい資料をお送りします。http://bit.ly/Ke3If3

 ▽次回の日程・テーマ=9月9日「フードテック、代替タンパク質に関する最近の技術動向」▽座長=雪印メグミルク・川崎功博常務執行役員(ZoomでWebライブ配信)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら