寒天特集

寒天特集:カット寒天、市場定着へ 「手軽な食物繊維補給」の新価値提案

市場定着が進む即食系のカット寒天(かんてんぱぱショップ松本店)

市場定着が進む即食系のカット寒天(かんてんぱぱショップ松本店)

伝統的な角・細寒天の製造現場では人手・後継者不足が深刻化する(茅野市の角寒天製造)

伝統的な角・細寒天の製造現場では人手・後継者不足が深刻化する(茅野市の角寒天製造)

●輸入原藻価格は8年間で2.4倍に高騰

テングサやオゴノリなどの紅藻類から抽出した粘質液を凍結乾燥させた寒天は、成分の約80%が食物繊維で、カロリーはほぼゼロ。こうした機能性を多彩なメニュー、料理へ手軽に付加できるカット寒天タイプのアイテムが、市場に定着し始めている。

現在、市場の大半を占めている粉末寒天と違い、角寒天、細寒天のいわゆる「形状物」を2cm角程度のブロック状や約2~3cmにカットした寒天で、出来上がった味噌汁やスープにそのまま加える、軽く水戻ししてサラダにトッピングするなどの即食系ニーズを訴求する。

伊那食品工業の「スープ用糸寒天」は、主に食品スーパー(SM)などの一般チャネルに向けた商品。業務用市場がメーンの同社にとって、広いユーザー層の開拓を意識した「戦略商品」に位置付けている。

地元・長野県内では、SMの配荷率がほぼ100%で、県外でも採用が拡大。最も大きい100gタイプは単価が1000円を超え、「300円の壁」がそびえるSM棚では不利な価格設定だが、「一番の売れ筋になっている。リピート率が高く市場定着に強い手応えがある」(伊那食品工業・塚越英弘社長)。

松木寒天産業の「そのまんま寒天」シリーズは、角寒天がベース。地元・茅野市で天然製造した角寒天を洗浄、再乾燥させた後、2cm角程度にカット、角寒天ならではの軟らかく食べ応えのある食感が持ち味だ。

「寒天本舗」ブランドで家庭用アイテムを展開する北原産業も、糸寒天を3cmほどに切った「食べちゃう寒天」や「カット糸寒天」、1ブロック1gの角寒天「寒天麩」など、多彩なカット寒天系商品を展開している。

長野県寒天水産加工業協同組合の松木修治組合長は「固める、寄せるといった従来の用途は、家庭でも外食でも伸びしろがないのは明らか」と説明。「今のライフスタイルにマッチした簡便な食べ方、機能性を手軽に得ることができる価値をアピールしていきたい」と話している。

●高止まり続く原藻価格、製造体制の進化も課題

カット寒天系の定着など、市場の活性化が進む一方、最大の懸念材料として影を落としているのが、寒天用原藻価格の高止まりだ。

角寒天や糸寒天などに多く用いられるテングサは輸入品が主で、モロッコ産と韓国産で全体の6割程度を占めている。

財務省貿易統計によると、2018年の原藻(テングサ科)輸入量は1627tで、前年比0.2%減と横ばい。10kg当たりの平均価格は7208円で、前年より0.5%下がったものの、10年以降の8年間で約2.4倍に跳ね上がっている。

最大シェアのモロッコ産は6483円で、前年より4.7%上昇。今年に入って6200円台に下がるなど好転の兆しもあるが、2000~2500円前後の安定した価格で業界を支えてきた10年ほど前とは比べ物にならない相場高が続いている。

国産天草に近い品質、特性で欠かせない韓国産は青天井の状況。18年の平均価格は1万3881円で前年比22.9%アップ。今年に入っては、1万6000円超まで上がり、10年実績と比べると約4.5倍まで暴騰している。

国産天草は年間採集量約500t前後で、国産原料訴求の一部製品に用いられているが、ほとんどがところてん用。赤草の10kg当たり価格は2万円を超えることも珍しくなく、寒天の原料としては計算できないレベルに達している。

こうした価格上昇の背景には、海水温上昇や自然災害による生育環境の悪化、採集労働者の減少といった国内外共通の難題に加え、産出各国の政治・経済的な施策、思惑などが複雑に絡み合っており、短期的な改善は絶望的な見通しだ。

長野県寒天水産加工業協同組合は、角寒天の標準価格を16年に1本(約8g)当たり5円、17年に15円引き上げた。しかし、「今のコスト環境では、適正利益にはまったく届かない」(松木組合長)。

角寒天の製造は冬場に限られ、手作業が中心。人手不足は深刻で、人件費も当然引き上げてはいるが、「季節雇用の確保は非常に困難」な状況だ。

松木組合長は「伝統の産業を守っていくため、より効率的で食品の品質基準も意識した製造体制への進化も考えていきたい」と話す。同組合は岐阜県寒天水産工業組合と共同で、2月に「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」を作成。両組合員に配布し、業務・作業の標準化で品質管理向上を図る構えだ。

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