酪農乳業夏季特集

◆酪農乳業夏季特集:需要は「防衛意識」から「楽しみ」へ 健康増進への期待続く

乳肉・油脂 2020.08.26 12104号 06面

 酪農乳業界の2020年度は、生乳生産量が2年連続で増加という明るい話題がある一方、新型コロナウイルス禍による生活様式の変化が、牛乳・乳製品の消費に大きな影響を与えている。家庭用需要はさまざまな段階を経て好調が続くが、業務用需要は停滞。ここにきて回復の兆しが見えてきてはいるものの、「新しい生活様式」に突入したことで、牛乳・乳製品に対する需要は生活・健康の防衛意識(プロテクション)から、新たな状況下での楽しみ(レクリエーション)も両立することが期待されていると言ってよい。感染予防の健康意識は依然として期待されているが、ここにきて低カロリーや美容といった、心も含めたヘルシーに対するニーズが高まっていることから、牛乳・乳製品への需要は今後も引き続き高い水準で推移することが予想される。消費喚起策も新たなステージを迎え、今後もミルクサプライチェーンが一丸となった取組みが重要となってくる。(小澤弘教)

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、酪農・乳業業界に大きな影響を及ぼした。政府は2月末、感染拡大を未然に防止することを目的に、全国の小中学校、高校、特別支援学校に臨時休校を要請。4月には全国に緊急事態宣言を発令し、6月に入り各学校が再開するまで学校給食用牛乳(学乳)がストップした。業務用チャネルも打撃を受け、商業施設や外食店舗の休業で需要が大幅に減退。

 一方で、緊急事態宣言期間中の「巣ごもり消費」では、牛乳・乳製品の家庭内消費が爆発的な伸びを見せ、バターなどは最重要期を大きく上回る需要で一時棚から姿を消すほどだった。宣言解除後は、家庭用では引き続き堅調な推移が続いており、停滞していた業務用需要も徐々に回復に向かっているようだが、ここにきて感染の終息はいまだ先が見えない状態が続いている。

 ●牛乳・乳製品需給=生乳増産も緩和とひっ迫対応が鍵

 Jミルクが7月31日に公表した2020年度の生乳生産量と牛乳・乳製品需給見通しでは、全国の生乳生産量は前年比0.9%増の742万5000tで、2年連続での増産が予想されている。北海道は同1.9%増の417万1000tで前年を上回り、都府県は同0.5%減の325万5000t。前回の見通し(5月)と比較すると、北海道の伸び率は縮小したものの、都府県の減少率が圧縮する見込みだ。

 今後も新型コロナ禍の影響で需給の変動が大きくなる可能性があるため、牛乳・乳製品の生産量は第3四半期(4~12月)までの予測となるが、牛乳類は前年比微増の362万kl。4~5月は学乳が停止したため、例年の約5分の1の供給となったが、6月からの再開で増加した。しかし、今年は夏休み期間の短縮により、7月は前年同月比44.2%増の3万5000kl、8月は同165.5%増の1万6000klと予想され、例年より多い生産量が必要になると見込まれている。業界としては、学乳供給を優先にしつつ、廉売の自粛や加工乳などの代替品販売について、流通小売業界の理解を得る必要がある。業務用は第3四半期までで前年比10.4%減の22万klとなる見通しだが、年末に向けて緩やかな回復がみられそうだ。

 発酵乳は4~5月に個食、ドリンクなど各タイプの需要が拡大。自己防衛意識や健康増進目的での購買が進んだ。直近は落ち着きをみせてきたが、大容量プレーンなどホームサイズ商品は引き続き堅調に伸びを見せ、12月までで同3.4%増の79万6000klを見込む。

 乳製品の需給では、インバウンド需要の喪失や緊急事態宣言期間での飲食店の営業自粛などで、業務用需要が低迷。業務用バターや脱脂粉乳の在庫が高水準で推移している。バターは12月までの期末在庫量が同38.0%増の3万2600tで、年末の最需要期に向けて不足はない見通し。3月以降消費が急増した家庭用バターの出回り量は引き続き堅調に推移すると推察され、第3四半期末時点で同14.8%増の1万5300tを見込んでいる。年末の最需要期の安定供給に向けての対応が求められる。業務用停滞で過剰感もあることから、今年度の国家貿易による輸入枠2万tがどうなるか注視が必要だ。脱脂粉乳は同13.2%増の7万8500t。高水準の在庫に対しては政府によって飼料用などで活用する取組み支援も行われ、今後在庫量から約2万tが削減される見通しだ。

 生乳需給は春先の緩和から一転し、9月の最需要期にかけて例年以上のひっ迫基調で推移する見通しにあるが、新規感染者の増加傾向が続いている中、短期的な大幅緩和が再び発生することも考えられる。しかし、3~5月のような状況とは異なることから、処理不可能乳の発生はないと考えられる。増産基調にある酪農生産基盤をより強化していくためにも、減産の回避や継続的需要拡大など、業界一丸となった取組みが期待される。

 ●消費拡大策=サプライチェーン一丸、新たなステージ突入

 生乳生産基盤の強化と並んで重要なのが、牛乳・乳製品の需要喚起と消費拡大だ。特に、新型コロナ禍以降、健康増進目的を中心にヨーグルトなどは堅調な売れ行きが続く。牛乳や加工乳も4~7月で前年比2桁増で伸びる小売業も多い。

 特に、内食需要の高まりは家庭内での調理用途での乳製品商品を大きく押し上げたが、徐々に消費の傾向が変化していることも事実。例えば、緊急事態宣言前の自粛開始当初は、「巣ごもり」のための在庫確保を目的に、パスタなどと合わせて粉チーズ需要が高騰。加えて感染予防のための免疫意識が高まり、ヨーグルトなど発酵食品が伸びた。テレワークの定着が進むと、朝食・昼食向けにスライスやシュレッドが伸長し、その後自宅での楽しみのために菓子作りや家飲みが注目され、クリームチーズ、バター、ベビーチーズなど嗜好(しこう)性の高いものへとトレンドが移ってきた。宣言解除後も「新しい生活様式」の浸透が進み、今後は「コロナ太り」など体型の健康にも関心が高まっていることから、低カロリーや減塩などを実現する製品が鍵となりそうだ。

 そうした中、酪農を応援するための消費喚起策は、今後もミルクサプライチェーン全体での取組みが重要となる。今春の学乳停止や外出自粛の影響で、牛乳・乳製品の消費減少と処理不可能乳の発生が懸念されたが、農林水産省は4月に「プラスワンプロジェクト」を開始。普段の買い物時に牛乳やヨーグルトを普段より一つ多く購入することを呼びかけ、例年以上の販売数を達成し、6月上旬までの生乳生産のピークを乗り切ることができた。今後は、牛乳消費減少に対応するため製造してきた脱脂粉乳などの在庫が過剰となっていることから、アイスクリームやヨーグルト、チーズなどを普段より1個多く消費の呼びかけを始めている。

 各メーカーも下期に向けて新たな商品をラインアップし、健康志向への対応はもちろん、嗜好性や情緒的価値の高い商品を展開していくようだ。卸・小売業でも、物量の安定供給に加え、売場起点での情報発信や、新たな食べ方・飲み方提案を強め、間断のない話題作りが進んでいくことが期待される。

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