これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(24)「チェーンストア理論」

1999.02.01 171号 22面

チェーンストアの、悪口雑言の言いたい放題をやってきたこの連載も二四回を迎えるまでになった。そこで、ここらで「チェーン理論」なるものを多小詳しく読者にご紹介してみたい。

「チェーン理論」というくらいだから、アメリカの経営理論のように聞こえるが、実はアメリカの流通業界の一部でしか使われていない、非常に特殊な用語なのである。

和製英語というものがあるが、これもやはりその類である。日本人は戦後、社会構成や政治の仕組み、生活習慣まですべてアメリカのまねをしてきた。日本が負けた偉大な国アメリカ。この世界最大の国に、戦後すべてを教えてもらってきた。それが、戦後の高度成長となって豊かな社会が実現し大成功を収めた。

だから、「何しろアメリカ式は良いんダ!」という固定観念が日本人の頭の中にある。特に、英語という言語に弱い。アルファベット言葉に弱いのである。われわれモノ書き人も、それを意識的に使ってきた。それを使うとカッコイイのだ。

「このマーケティング・コンセプトは、この企業のアイデンティティー、つまりコーポラティブ・アイデンティティー(CI)のもとで生まれてきたものなんです」なんて書くと、結構様になるのである。このチェーンストア理論というのも、それに類する用語でアメリカの流通業で使われていた用語なのだ。→

→小売業の仕事を、売場である店と本部にわけ、そこで店は販売に専念し本部は仕入れと管理に専念する。これをシステム化して、チェーンとして作り上げる。その結果、大量仕入れ多量販売が実現でき、安定的な低価格で売ることができ、消費者の信頼を得ることになる。

そのために、店舗はどこの店も同じ標準店で、どこも同じサービス、どこも同じ品ぞろえにしなければならない。こうすると、本部の号令一つですべての店がコントロールできるのである。故にチェーンストアは、非常に合理化された近代的な企業組織にピッタリのやり方なのである。

アメリカの大手スーパー(GMS=ジェネラル・マーチャンダイジング・ストアの略)はこの方式で伸びてきた。特に世界最大の小売業といわれる「シアーズ」などがその代表例である。

このアメリカの流通業を研究し、日本で提唱したのが渥美俊一氏(72)である。氏の率いるコンサルタント会社が、日本リテイリングセンター(略してJRCである。日本競馬場協会と同じであるが、断っておくが何の関係も無い!)である。

渥美氏は東大を卒業後、読売新聞に入り新聞記者となる。東大時代は学生運動に参加し、日本の革命を夢見ていたが、その正義感が新聞記者という仕事に向かわせたのだろう。入社七年目に、「商店のページ」を提案し、週に一度一ページを任された。

全国の繁盛店を取材して歩くうち、若き日のダイエー中内、ジャスコ岡田、イトーヨーカドー伊藤、ニチイ(現マイカル)西端、ユニー西川という、それぞれの今日の大手スーパーを作り上げた創業者と出会い、彼らを励まし、流通革命を推進するために勉強会「ペガサスクラブ」を作ったのが一九六二年。設立の目的は、米国の商業を学び産業としてのチェーンストアを日本に作ろうというものである。

この会は現在、一三〇〇社の会員企業を擁する日本一の流通業の勉強会(実態はJRCのセミナー)である。まさに押しも押されもしない、日本一のコンサルタント会社である。

ここには、すかいらーくグループ、ロイヤル、ダイエー外食グループ、西洋フードサービス、サイゼリヤ、吉野家、サンデーサン、サト、ケンタッキー、ミスタードーナッツなどなど、数え上げたらきりがないほどの有名外食企業が参加している。

しかしそのJRCの栄光も、この平成大不況で随分がたついてきている。ここ数年大手スーパーの業績が、めちゃくちゃ悪くなっているのだ。そのため、経費削減でJRCのセミナーに出られないのだ。

特に最大手のダイエーが、「ハイパーマート」などというアメリカ型の安売り店を出店して大失敗し、決算数値が赤字にまで落ち込んだ。そのほか大手も全く駄目であるが、イトーヨーカドーとセブンイレブンは鈴木敏文氏(イトーヨーカドー社長、セブンイレブン会長)がJRC嫌いで寄り付かず、おまけに渥美氏の愛弟子の京樽やSUZUYAが倒産した。

会員には、倒産一歩手前という企業も多い。婦人服最大手のSUZUTANの大赤字など、チェーンストア方式で、多量出店しなければ駄目だという渥美氏の信用は失墜。特にホームセンター業界は、全くの業績不振でセミナーに参加する費用も出ないところが多い。

チェーンストアのやり方を、忠実に守ってきた大手流通企業に良いところがなくなりつつあるのだ。現在、JRCの海外セミナーなどに多く参加するのは、特殊な業界である「パチンコ」業界である。その主力は「ダイナム」である。一人五〇万円近い費用の「アメリカ西海岸セミナー」へ、今時二〇〇人も社員を出すのである。

しかし本命の、流通業・外食企業は少しずつJRCから離れているようだ。

前にも書いたが、チェーンストア方式は同じ店をたくさんつくり、商品を大量に売りまくるやり方なのだ。しかしそんなお店を、特に今の飲食業でお客さまが求めているだろうか?

スーパーならこれは分かる。コンビニエンス・ストアなら分かる。しかし、飲食業ではこの考え方で企業を成長させ続けるのは無理がある。日本国中が、吉野家だけになったりサンデーサンばかりになったらどうだろうか。まさに、ゾッとする光景ではないだろうか。

豊かになった生活の中で、普段の昼飯やコーヒータイムは吉野家やすかいらーくでも、友達と、家族と、仲間と「今日は、皆で何かおいしいものを食べたいね!」という時、ガストに足が向くだろうか。マクドナルドでハンバーガーの夕食生活なんて、楽しい生活だろうか。

こう考えてみると、チェーンストア店が言っている、どこも同じ店にして効率よくやろうという外食産業革命なんて、「何かおいしい…」というお客さまから見れば大迷惑な話なのである。そしてまた、絶対にそうはならない。同じ店をお客さまに押しつけ、ろくに教育もしないパートアルバイトで店を経営する、そんなチェーンストア方式のやり方が通用するほど甘くはないのである。

だから、京樽は倒産に追い込まれたのだ。だから、フォルクスは五〇店舗の閉鎖に追い込まれたのだ。だから、かっぱ寿司は大赤字なのだ。

しかし、そこで中小飲食店が日々努力をせずに、殿様商売をしていると必ずこのチェーンストアにやられる。やはり商売は商い=飽きないというように、日々自店の料理の味、メニューの工夫、感じの良いサービス、清潔な店内、それらがきちんとできてそして自己主張があり、個性的であれば店は必ず繁盛するのである。

(仮面ライター)

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