この1品が客を呼ぶ:「一芳亭」卵皮の和風シュウマイ

2003.05.05 268号 6面

大阪・難波の喧噪(けんそう)から少しはずれた場所に、“華風料理”の「一芳亭」(いっぽうてい)がある。この店の人気は、客が必ず注文するというシュウマイ(1人前5個350円)だ。通常とはひと味違う、その魅力に迫ってみよう。

昭和8年にオープン、今年で創業七〇年という一芳亭。

この店の看板メニューは、毎日五〇〇〇個が売れるというシュウマイだ。メニューは、ほかにも八宝菜や酢豚など一〇品ほどあるが、客はまず「シュウマイちょうだい」から始める。

大きな特徴は、その皮にある。通常のように小麦粉は使用せず、卵に片栗粉や水を混ぜて作っているという。ほんのりとした黄色の皮は、適度な薄さで、口当たりの良さにまず引きつけられる。

「シュウマイがメニューに登場したのは、戦後の昭和23年に当地に移ってから。創業者の先代が考案したものです」と、二代目店主の中村陽一さん。戦後は小麦粉が手に入らず、卵ならば、一個から入手できるだろうということで考えられたとか。いわば、食糧事情が生んだアイデアメニューといえよう。

今では大看板となったシュウマイだが、その人気の秘密は、皮だけではなく、あんも含めた一体感にあるようだ。全体が軟らかくモチモチした食感で、かみしめるとふんわりと甘みが漂う。あんは、豚肉ミンチとエビをミキサーにかけて、みじん切りの玉ネギを加えたもの。つなぎに片栗粉や水を加え、砂糖や塩、コショウなどで味付けをする。

なかでも玉ネギにはこだわりがあり、大阪の泉州ものが入らなければ淡路産、それもない時期は九州産を求めて使っているとか。独特の甘さのポイントは、多めに入れているという玉ネギにあるともいえそうだ。

「全体的にシンプルな作り方。昔ながらの比率であんや皮を作り、蒸し器に一〇分ほどかければ出来上がり」と中村さんは話すが、完成までには大変な手間がかかっていることがうかがえる。機械を導入しているのは、皮作りの半分の工程と、豚肉やエビをミキサーする作業のみ。さらに、一つひとつを手で包むという。熟練の職人技が作り出す味といえるだろう。

店の看板には“華風料理”とある。「中国料理を日本風の味付けで」というのが、創業以来のポリシーだ。いずれのメニューにも、中華調味料は使用せず、ニンニクもなし。味付けのベースは、醤油・酢・みりん・塩・砂糖で、ごま油はほんの香りつけ程度に使うだけとか。シュウマイのまろやかであっさりした味わいも、和の調味料だからこそ出せるものだろう。

「素材自体の味が昔と違っているので、味を守っていくのは大変なこと。でも、最大限頑張っていきたい」。リピーターも多く、三代続けて来店する常連客もいる。近くには電気街があるため、最近は若い客も増加しているとか。世代を越えて支持されている点も、この店の強みであろう。

シュウマイのほか、鶏の半身を丸ごと揚げてカットした、若とり唐揚も人気。テークアウトも好評で、シュウマイの場合は、売上げ個数の三分の二を占めるほどだという。テークアウトは、シュウマイ一五個入り九七〇円、若とり唐揚小一一七〇円など。

◆記者席からのコメント

口に入れた瞬間に感じるのは、「普通のシュウマイとは違う」という新鮮な感覚。その食感は、卵を使った皮だからこそ実現できるものであり、店の歴史が生んだ作品ともいえる。一口サイズなので、一人前ぐらいはアッという間に食べられるが、「もうちょっと食べたい」というやみつきになる味なのだ。

テークアウトの場合、あらかじめ蒸した商品を、家庭の電子レンジで再度温めて食べる。通常、皮が硬くなる場合も予想されるのだが、ここのシュウマイは軟らかいまま。持ち帰りが人気というのにも納得できる。

◆こだわりの食材 マルキンこいくちしょうゆ 本醸造 特級

和風調味料をベースにしている一芳亭にとって、醤油は欠かせない存在。店では、昔から「マルキンこいくちしょうゆ(本醸造)特級」を使用している。

シュウマイの調理過程でも、この醤油が使われているが、「あんを合わせる最中に、垂らす程度に入れるだけ。おまじないみたいなもんですね」と、中村さん。この店では、シュウマイのたれは客が好きなように調合するスタイルだが、テーブルに常備されているのもこの醤油だ。

また、人気メニューの若とり唐揚の場合、醤油だけを塗り込む程度に使用して揚げている。香辛料を使わないことで、醤油の香ばしさが全面に感じられる魅力的な一品に仕上がるようだ。

◆「一芳亭」=大阪市浪速区難波中二‐六‐二二、電話06・6641・8381/坪数席数=約四〇坪四六席/営業時間=午前11時30分~午後8時30分(8時ラストオーダー)、日曜祝日定休

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