外食の潮流を読む(1)君は、セブンイレブンのドーナツを食べたかい?
「簡単に言うな!」と突っ込みを入れているが、自分の店がうまくいっていないことで、他のお店を理由にしてはいけない。自分も一生懸命だが、他のお店も一生懸命だ。
飲食の世界では最近やたらとコンビニが気になる。セブン-イレブンのコーヒーは2014年に4億5000万杯売れたという。3年前にはコーヒーを売っていなかったわけで、“零”の状態からこれほどの需要を生み出したことは尊敬に値する。コンビニ6万店のコーヒーを合算すると8億杯と推計される。この前にはスイーツの開発があり、セブン-イレブンではドーナツの販売を開始した。カウンターにずらりと揃ったフードを見るとファストフード店のアイテムがほぼ揃っている。私はその状態を「8掛け」と呼んでいる。
私の「8掛け」とは、「ファストフード店の8掛け」ということ。それは価格、クオリティーが既存のファストフードの8掛けの状態にあるという認識だ。「クオリティーが8掛けでも、価格が8掛けだから売れるのか」というと、それも真実だろうが、本質は「コンビニエンス(便利)」だからだ。小腹が空いていて目の前にフライドチキンがあると、つい「買おうか」となる。「私はケンタッキーのほうが好きだから」といっても、すぐ近くにはKFCはない。では、KFCのフライドチキンは売れていないのかというと、クリスマスシーズンのフライドチキンの売上げは対前年比伸び続けている(2014年は105.4%)。お客さまは商品を買う動機を整理している。
私は3月にコンビニの“限りなく飲食店に近づいている”新業態を取材した。ミニストップの「cisca」、サークルKサンクスの「K’s CAFE」、スリーエフの「gooz」がそれだが、結果私の認識は「フードとドリンクのコンビニエンスを追求している」ということだ。「飲食店からお客さまを横取りしよう」という発想ではない。コンビニがどんどん飲食店の領域を侵食しているとはいえ、業績を落としていないチェーンレストランはたくさんある。日高屋、サイゼリヤ、CoCo壱番屋、てんや……、ガスト、ロイヤルホストとか。なぜ、お客さまは飲食店に行くのか。それは「わざわざ行きたい」理由があるからだ。
セブン-イレブンのドーナツが売れるのは「コーヒーを飲むときにドーナツを食べたい」と思うからだ。では、「自分の店にお客さまが来ている理由はなんだろう」……そんな問いを導く昨今のコンビニは、飲食業をもっと魅力的なものにしてくれるきっかけとなっている。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。