メニュートレンド:プラス200円でプレミアムコースに昇格 「ご馳しゃぶ」
飽和状態と叫ばれる大型店市場の中で、ジワジワと頭角を現している和食チェーン店がある。大阪を拠点に88店舗展開する「かごの屋」だ。躍進のきっかけは、2010年に打ち出した「しゃぶしゃぶオーダーバイキング」だった。いまや看板メニュー「ご馳しゃぶ」として、全体売上げ構成比の30%、時間帯によっては注文の90%にも達する人気ぶりだ。食べ放題のバイキングであるが「それなり」といった相場観とは無縁。「調理人による手作り」「注文後の調理による鮮度」「和食ならではの季節演出」にこだわり、「品質と満足の両立」を追求している。
●本物追求のオーダーバイキングで頭角 注文後調理で鮮度感を訴求 職人気質の厨房理念を堅持 手作り志向で季節感を演出
◆「ご馳しゃぶ」とは?圧倒的コスパのプレミアムコース
「ご馳しゃぶ」とは、しゃぶしゃぶと一品料理(19品)が食べ放題のオーダーバイキング。「2780円・厳撰豚」「3480円・厳撰豚と上撰牛」「3780円・上撰牛とイベリコ豚」「4980円・イベリコ豚と国産牛」という四つのコースから肉を選び、だしは5種類(季節だし・つゆ・昆布・すき焼き・鶏コラーゲン)の中から二つを選べる。鍋具材(鶏肉2品、野菜類17品、締め麺飯4品)に加え、おつまみや揚げ物などの一品(19品)も食べ放題。最後にデザート1品(10品から選択)が付く。以上がスタンダードコースの内容だ。
スタンダードコースに200円を追加すると「プレミアムコース」に昇格。しゃぶしゃぶ、一品料理に加え、にぎり寿司(15品)、串揚げ(12品)、季節料理(8品)までも食べ放題になる。この200円差の値打ち感が話題を呼び、約9割がプレミアムコースを選ぶという人気ぶりを見せている。
「ご馳しゃぶ」の平均日販は約60食。コースの売れ筋は「2980円・厳撰豚プレミアムコース」で注文率は約6割。だしは「昆布だし」が人気不動。
◆ヒットの理由は?本格と手作りを両立する現場(厨房)主義
人気の秘訣は、バラエティー豊かな本格料理と手作り志向の鮮度感。それを実現するための現場(厨房)主義にある。同社は全国88店舗のチェーン規模でありながら、実はセントラルキッチンを持っていない。現場に調理専門スタッフを数名配し、素材からの店内調理を基本としているため、セントラルキッチンは不要というわけだ。
毎朝、店舗ごとにだしを取るなど一から仕込む。そして、注文を受けてから揚げ物は衣を付けて揚げ、寿司を握るなど、徹底したツーオーダー調理にこだわる。冷製調理以外は一切作り置きはしない。肉もワンフローズンのブロックを厨房でスライスカットして、鮮度と舌触りを最適な状態に仕上げている。また、調理専門スタッフの腕を生かした、四季折々の季節メニューも売り物。彩りよい季節のアクセントを提案することで、マンネリ化することなく常連客を楽しませている。
これらの信念に基づいた料理が常時75~80種類もあるのだから、客が来ないわけがない。老若男女を問わず、家族、宴会利用、カップルなど幅広い客層を集め、かつての「ハレの外食」をほうふつとさせるにぎわいを見せている。
◆KRフードサービスとは?専門店レベルの厨房パワーを誇る
「かごの屋」を運営するKRフードサービスは、1974年に大阪ガスグループの一社である冷凍食品メーカー・キンレイとしてスタートした。1993年に「かごの屋」1号店がオープン。2014年に冷凍食品事業を分社化し、現在の社名に改め、本格的にフードサービス業をスタートした。
和食チェーン店として順調に実績を重ねてきたが、08年のリーマンショックで売上げが伸び悩み、その打開策として始めたのが「しゃぶしゃぶオーダーバイキング」だった。以降「ご馳しゃぶ」という名称で看板料理に育て上げ、定食類、一品料理と合わせた3本柱の事業展開を加速させている。
調理効率よりも調理技術を優先する同社は、各店舗に調理長と調理専門スタッフ2人を配置。また、かつては「店長は調理長経験者に限る」という原則があったため、実質換算すると調理スタッフは4人となる既存店が多い。この人事戦略は多店舗チェーン店としては珍しく、専門店レベルの厨房パワーを誇る同社の原動力となっている。
商品開発部開発チームの奥誠チームマネージャーは「人材育成こそ当社事業の生命線。人の技術と手間をかけた、基本に忠実な料理を提供して、本物とお値打ちの両立を味わっていただきたいですね」と語る。
今後は関東圏での出店を強化。20年には150店舗体制を築く予定だ。
●店舗情報
「和食・しゃぶしゃぶ かごの屋」経営=KRフードサービス/所在地=本社・大阪府吹田市豊津町9―1(関西拠点に88店舗)/開業=1993年7月/席数=100~200席/営業時間=午前11時~午後3時、5時~10時、無休(店舗により異なる)/平均客単価=2000円/一日平均客数=約2700人(全88店で)
●愛用資材・食材
「スペイン産ポーク肩ロース肉」
しっとりと軟らかい肉質 最適な状態に熟成して輸入
豚肉はスペイン産の肩ロースを使用。以前は違う国の豚肉を使っていたが、脂っこくなく、しっとりした軟らかさに定評があるスペイン産に変更した。「豚肉は餌によって味が変わります。麦を中心とした穀物を食べた豚の肉は、上品な味わいで、しゃぶしゃぶ向き」(同社)。現地で1~2週間、しゃぶしゃぶに最適な状態に熟成してから冷凍して輸入している。
規格=ワンフローズン不定貫