ストロング系缶酎ハイ市場の縮小から~日本のアルコールの飲み方の変化

アサヒビールとサッポロビールが、度数8%以上のいわゆるストロング系缶酎ハイの新商品を今後は発売しない方針とした。キリンビールも販売について慎重な姿勢をみせている。かつては酎ハイ市場の3分の1以上を占めるともいわれたストロング系市場縮小は、他のアルコール飲料にも影響を及ぼすのだろうか。

売場ではストロング系缶酎ハイの種類が減ってきている(写真と本文は直接関係ありません)

飲酒と健康障害との関係性

世界保健機関(WHO)がアルコールの健康リスクを発表するなど、飲酒による健康障害への懸念は国際的に高まっている。厚生労働省においては、飲酒のリスクは酒の量ではなくむしろ純アルコール量が重要だとして、「健康日本21」で「節度ある適度な飲酒」を、1日に摂取する純アルコール量を20g程度と打ち出している。また、アルコール分解酵素が弱い女性はその半分程度の10gが適当であるといわれる。

そういった影響に加えて昨今の健康志向の高まりもあり、キリンビールは、4月をめどに適正飲酒を促すセミナーを開催していくという。アルコールが体内にいきわたる「酔い」のメカニズムや、過度の飲酒が引き起こす問題などの内容が盛り込まれ、単発ではなく常設セミナーにすることで、多くの人に周知する方針だ。

ストロング系酎ハイと大手ビール4社の動き

安価で気軽に酔えるとして拡大してきたストロング系酎ハイの市場は、調査会社インテージによると、20年に約1776億円だった販売額が23年には約1365億円にまで減少した。アサヒもサッポロも、かつては2桁の種類を販売していたストロング系商品だが、現在は両社とも1商品に絞り込んでいる。一方で、サントリーは「-196℃」、キリンは「氷結」のブランドでストロング系の販売力があるため、この2社も前出2社の影響を受けるのか今後の動きも注目されるところだ。

消費者の「飲む」ことへの感覚に変化が

ストロング系酎ハイの市場減少にとどまらず、アルコールの国民1人あたりの摂取量は減少傾向にある。健康志向の高まりのほか、コロナ流行によって、それまで習慣的に飲んでいた機会の減少により、おのずと酒量も減少し、それが新たな習慣となり自らの飲み方を見直すきっかけになったともいえるだろう。

外飲みから家飲みへのシフトの傾向もあり、家庭内で一気に酔いがまわるような飲み方はしにくい、という家庭事情もある。さらに近年は飲まない、もしくは飲めるけれど、あえてお酒を飲まない生き方を選ぶ「ソバーキュリアス」の浸透などもあり(https://news.nissyoku.co.jp/column/ogura20230622)、強い度数のアルコールに対する懸念が消費者の間に浸透しつつあることがストロング系の市場減少の背景にあるといえる。

また、「飲む」という行為そのものへの消費者の価値観の変化も否めない。「飲んでウサを晴らす」といったストレス発散のための健康を害しやすい飲み方や、「お酒が強いとかっこいい」といったイメージが影をひそめ、「楽しく飲む」ために軽く飲む傾向が強い。

会話を楽しみ軽く飲むスタイルへと変化がみられる

さらに、以前はよく見られた「とりあえずビール」といった飲み方は影をひそめ、ノンアルコールでその場を楽しむことへの認知も広がっている。会社の集まりなどの飲み会の減少や飲酒運転の取り締まり強化など、社会との関わりの中におけるアルコール機会や価値の変化もある。こうしたことが重なり、健康障害の可能性が高まることや、自分を見失う飲み方はある種の「カッコ悪さ」を感じるようになったといえる。飲む場で顔を赤くさせることなく商談をまとめることが求められている。

企業側に求められるもの

それらを受けて企業側も率先して消費者の健康を考えて商品力を上げることが事業体としての責務となってきつつある。今後は低アルコール飲料の新商品開発がより活発化してくるだろう。新たな各社の競争が始まっているといえよう。

日本では、路上で飲むことも許されており、コンビニやスーパーでもお酒が買えるが、このような先進国は珍しい。今まで「飲む」ことにある種、寛容といえる国だったが、近年国際的な感覚にシフトする方向で動きつつあるのだ。消費者の傾向と世論の動きとともに、企業側の姿勢が問われる時代となっている。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

書籍紹介