ノンアルコールな生き方「ソバーキュリアス」市場が拡大 価値観の変化にどう対応

ノンアルコール市場が広がりつつある。欧州では、ノンアルで食事や生活を楽しむライフスタイルの「ソバーキュリアス」という言葉も大衆化されており、パンデミックを契機に世界各国でアルコールへの価値観の変化が加速したようだ。日本でも、アルコールをウリにする“居酒屋”で、ソバーキュリアスドリンクを33種類用意する店が出たり、高級な緑茶を売る店舗が開店したりなどの動きもある。

飲めない体質とは限らない「ソバーキュリアス」とは

ソバーキュリアスはスペイン語で「ソバ―(しらふ)」と「キュリアス(好奇心)」を掛け合わせた造語だ。ソバーキュリアスな生き方をしている人を、「ソバキュリアン」といい、アルコールが飲めない体質の人は無論だが、飲める体質なのだがあえて飲まない選択をする人や、かつて飲んでいたがアルコール摂取を止めた人なども含まれる。まだ日本では一般的ではない造語だ。

ソバーキュリアスをターゲットにしたアサヒ飲料の「#sober」シリーズ

ノンアルコール需要拡大の背景

コロナ以前から、日本では若者のアルコール離れがあった。会合での「とりあえずビール」という習慣はなくなりつつあり、1杯目からオレンジジュースやクリームソーダを個々に注文する若者もいる。背景には、無駄なものにお金を使わない合理性や、個人の自由を優先する傾向とともに、飲酒運転への罰則強化もあるだろう。アルコール離れの傾向は、日本にとどまらず、欧州やアジア圏でも同様な流れが見受けられ、ある意味諸国に共通する傾向なのかもしれない。

ノンアルコール商品を打ち出した展示会ブース

さらなる背景に、コロナのパンデミックがある。外食の自由がなくなり、家飲み需要の増加によって晩酌に付き合う家人も一緒に飲めるノンアルのニーズが高まった。外食ができるようになっても、飲み会の習慣は再考されるようになった。「本当に飲みたくて飲んでいるのか」を吟味するようになり、2次会、3次会へ流れる傾向は減少している。さらに、健康に対する意識変化も後押ししただろう。物価高騰が追い打ちをかけた。

こうした要因が重なり、「なんとなくお酒を飲む」ということをしなくなったのである。

ノンアルコールの選択肢の広がりと影響力

しかし半面、ノンアルで楽しい時間を過ごす価値観はあり、ノンアル飲料の種類も細分化している。ワイン類似のボトルに入った高級緑茶は、ワイングラスでゆっくり味わうタイプ。強いうま味と甘味があり、丁寧に煎れた一煎目の煎茶同様の味わいがボトルで味わえる。別のブランドでは20gの緑茶パックが7種類入って12万円といったお茶もある。

日本酒代替ノンアルコール飲料「水出し専用有機玄米茶88(ハチジュウハチ)」

市場の広がりは、相性の良い料理や食材へ大きく影響されるため、事実、筆者のメニュー開発の仕事にも関わる。食品業界の新たなフェーズに入ったといえるかもしれない。さらにソバーキュリアスは、生活の変化や“人生観”にもつながる要素が強いため、食品にとどまらずさまざまな経済の流れを作る可能性も秘めているといえそうだ。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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