Z世代が感じる牛丼チェーンとハンバーガーチェーンの価値の違い

10代、20代の食べ盛りの男子は牛丼に目がない、と思われていた時代。牛丼を大学の教授がゼミ生のランチにご馳走したり、上司が部下の若手社員におごったりすることも珍しくなかった。だが近年は、牛丼をかきこむ男子よりも、ハンバーガーをほおばる姿のほうが目立つのは気のせいか。さらに、食の嗜好にも男女の差が薄れているので、一概に「男子はこう」「女子だから」と決めつけられない。そこで、牛丼とハンバーガー、この2大ファストフードチェーンの商品が、それぞれどのように映っているのか、Z世代を中心にアンケートをし、彼らと一緒にその“違い”について考えてみた。これからの外食産業を担う客となるZ世代に“ウケる”食とは何なのか。特に、人間の心理的側面に重点を置き分析する。なお2大ファストフードチェーンをテーマとし、フライドチキンは1社の独占なので今回は例にしないことにする。

チェーン店の利用頻度を学生322人にアンケート

19~22歳までの学生322人(男女比約4対6、関東の2つの大学)に「牛丼チェーンとハンバーガーチェーンの利用頻度」を、「週に2度以上利用する」「週に1度程度利用」「たまに利用、ほとんど利用しない」「全く利用しない」の5段階でアンケートをとった。

結果、男女ともにハンバーガーの利用頻度が高く、牛丼を「週に1度以上利用する」学生は、ほとんど男子に限られ、しかし全体の1割に満たなかった。男子でも牛丼を選択しにくくなっている理由をグループワークなどを通して、彼らに考えてもらうことにした。

牛丼を店で食べる女性

「女子向きのメニューが少ない」「小腹用のメニューが少ない」「デザートがない」「ドリンクのバリエーションが少ない」「長居しにくい」「おじさんが食べるイメージ」などが、牛丼店を敬遠している主な理由。確かにデザートに関しては、大手牛丼チェーンのすき家、𠮷野家、松屋の中で、すき家だけが「アイスクリーム」と「りんご(カットフルーツ)」を用意している。

ただ、小腹用のニーズに関しては3社とも単品は用意しており、小丼(少なめ)を置く店もある。テーブル席を置く店も多いので、長居しにくいという理由もそう当てはまらない。ゆっくりしようと思えばできるだろう。それでもZ世代には、ハンバーガーとは違う何かを感じているようだ。

牛丼は家庭料理になりつつあるのか

外食で牛丼を食べない理由の中で、「牛丼は家で作れるから」という理由が3割程度にのぼった。「牛肉を炒めて市販のたれを絡ませれば出来る」という声もあった。外食店の牛丼の「たれ」は、いわば「秘伝のたれ」であり、長年の研究の末の味付けだが、その「たれのブランド力」が薄れているのだと考えられる。家庭用の調味料商品が豊富な今、牛丼が「牛肉を安価で食べられるおいしい外の食事」ではなく、「身近な家庭料理を出す外の食事」になりつつあるのだろう。

チェーン店のハンバーガー

では、ハンバーガーはどうか。ハンバーグから手作りとなると時間はかかるものの、調理キットなどが発売されれば、パーツをのせてバンズ(これも簡単にパン売場で購入できる)に挟むだけで外食同様のハンバーガーができる。実際、ある有名なバーガー店がコロナ禍の客足が途絶えた時、ハンバーガーキットを作って通信販売したところ、人気になった事例がある。スーパーでハンバーガーキットがもっと手軽に買えるようになれば、ハンバーガーは「家でも作れる食べ物」の位置になるのだろうか。

店舗設計の心理的影響や利便性の違いも

店舗の設計にも心理的な「入りやすさ」「入りにくさ」があると考える。牛丼チェーンは、店内が外から一望できる店、もしくは外からも店内で食べている客の姿が見える店が多い。一方ハンバーガーチェーンは、入口正面がキャッシャーであるため、外部からは食べている客の姿は一望できない。客席が2階にある店も少なくない。これが、入りやすさにつながっていると思われる。そこに「長居できそうかどうか」の判断要因があるといえるだろう。さらに、音声からの刺激においても心理的影響が働くのではないか。身近にキャッシングの店と客との会話が聞こえることだけでも、長居しにくくなる若者もいると思われる。

ハンバーガーは大口をあけて食べることが許されている

利便性の側面からも探ってみる。全国店舗数が牛丼チェーンよりもハンバーガーチェーンのほうが多いのもハンバーガーを選ぶ理由にはなっている。店舗数では、2022年7月の調べで1位のすき家、2位の𠮷野家を合わせて3100超だが、ハンバーガーでは、1位のマクドナルドと2位のモスバーガ―合わせて4100超で、牛丼大手2社の合計より約1000店舗多い。

また、ハンバーガーは片手で食べられることがZ世代に欠かせない。スマホを持ちながら食事ができる利点は大きい。加えて、食べやすさに関しても、牛丼は箸が必要で、かつ牛肉とご飯をバランスよく食べるスキルの必要がある。特に女性はかきこむ食べ方をしたくない人は多く、ある程度食べ方に気を遣う。しかし、ハンバーガーはそもそも大口をあけて食べることが許されており、女性でも気兼ねなく「食らう」食べ方がしやすい。

食事の「あそび」ができるハンバーガー

牛丼の良さでもある「食らった食べ方のほうがおいしく感じる」個性が、「男らしさ」を求められた時代には“粋”にもなったのだが、多方面において男女差がなくなり男性の化粧も珍しくなくなった今は、男子も「食らえない」、または、「食らいたくない」のかもしれない。

また、ハンバーガーは、大口をあけながらも前を向いて食べられ、サイドメニューのポテトなどと交互に食べる「遊び」ができる。一方で牛丼は、いったん食べ始めたら、丼に向かってひたすら食べることが求められる。味噌汁はあるが、それも下をむかないと食べられない。どうしても「遊び心」が芽生えにくい。

とはいえ、牛丼は重要な日本の外食文化のひとつだ。Z世代以降の人々にもあのおいしさを受け継いでもらいたいと思う。箸を使って食べ物を食べるという日本の基本も楽しんでほしいのだ。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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