「映えない」価値が焼き芋の強み 消費者の心をつかむ安心感

数年前からじわじわ人気が出ていた「焼き芋スイーツ」。コロナ禍になり、人気は加速され現在すっかり成熟した印象を受ける。なぜ今、焼き芋なのだろうか。また、焼き芋だけではなく、たい焼きやカヌレ、ドーナツなど最近人気のスイーツはブームを起こした商品のリバイバルであるとか、見た目も中身もシンプルでわかりやすくなじみやすいものが多い。思えばマリトッツォも同様だろう。消費者が求める共通事項を探ってみる。

アレンジ力がある焼き芋スイーツ

冬の定番の焼き芋が、昨年夏には冷凍した状態で各小売店にて販売され人気を博した。冷たいままでも良し、温めても良し、シンプルでほっとする芋スイーツとして焼き芋は通年のスイーツになったといえる。あえて凍らせてカリカリ食感にする、温めてとろりと溶けた蜜を楽しむなど、シンプルな中にもアレンジ力があるのが焼き芋スイーツといえる。自宅にいながら変化を楽しめることが人気を持続させるポイントの1つだったのだろう。

カップマルシェ<鹿児島県産紅はるかのプリン>(トーラク)
カップマルシェ<鹿児島県産紅はるかのプリン>(トーラク)

コロナ太りという言葉もあり、砂糖を入れた菓子よりもヘルシー感があり、食物繊維も豊富なため健康志向に有益な印象もある。さらに腹持ちも良いためおやつや朝食、ランチに食べる人も少なくない。汎用性が高いことが利便性につながり、その点も現代の趣向に見合ったといえるかもしれない。加えて、ケーキと比較すれば安価である。

人気スイーツに共通するポイントは

昭和の時代までの「おいしいとされる石焼き芋」といえば、「ホクホク」した食感のものだった。割ると芋が立った状態でほっこりと割れて、「栗のような食感」は褒め言葉となっていた。しかし現代はトレンドが逆となり、ねっとりしっとりとした食感で、蜜がたっぷり入った糖度の高いものが“おいしい”とされている。その背景には、ケーキや砂糖菓子の代わりとしてのスイーツとしての存在価値の高まりが見える。糖度が高ければ高いだけ「スイーツとしての価値」が上がるのだ。

スイートポテトアイス(井村屋)
スイートポテトアイス(井村屋)

スーパーでは、焼き芋をそのまま袋に詰めて販売したり、焼き芋製造機内で小売したりしている。その飾らない茶色い様相は、決して「映える」ものではない。しかしその素朴でシンプルな姿は、安心感を与えている。焼き芋には、およそ“緊張感”というものは無用だ。食べる際にもナイフやフォークも無用、大口開けてほおばっても文句を言う人もいない。その安堵感は、消費者の心をしっかりつかむに値した価値なのだろう。それがコロナ禍や景気悪化といったさまざまな不安やストレスの渦にいる現代人にピタリと当てはまったのだと考えている。

焼き芋のほかに、たい焼きも通年スイーツとなっており、アイスクリームバージョンやあんこの代わりにホイップクリームを入れたものなど、シンプルな形状なだけにバリエーションを広げられることが通年でも飽きさせず、扱いやすい商材となったといえよう。

そのほか昨今人気のドーナツ、カヌレなどどこか懐かしく、緊張しないで気軽に食べやすく、あらたまった食具(ナイフ、フォーク、スプーン、箸)も不要で実に利便性が高い。前述の焼き芋やたい焼き含めすべてに共通するのは“楽ちん、そして安堵感”だ。

内食に消費者が求めるものは

外食をしようか決断するにあたり「行くべきか、行ってはいけないか」など考えて行動する癖が私たちはコロナ禍の3年で出来上がっている。外食と内食をしっかり区別して考える習慣ができているように思う。内食はあくまでも自分の不安に寄り添ってくれる気楽な存在であってほしい。内食には奇をてらったものは求めない。決して「映え」なくても良いのだ。価格面でも優しい存在であってほしい。緊張感は無用だ。そういった趣向を満たしたスイーツがじわじわと市場を広げたように考える。

「さつまいもオレ」(伊藤園)
「さつまいもオレ」(伊藤園)

茶色い皮に覆われスーパーの棚に積み上げられて売られているスイーツなどこれまではなかった。焼き芋に私たちは何か救われているのかもしれない。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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