バリエーション広がる「飲むスイーツ」は定着するか

タピオカミルクティーは「飲むスイーツ」だからこそ大ブレイクしたと筆者は思っているのだが、その後も「飲むスイーツ」はバリエーションを増やしているようだ。スイーツを、飲むスタイルに変えることへの抵抗感は、Z世代にはほぼなくなっているといっていい。新たなスイーツのカテゴリーとして、飲むスイーツ・飲むデザートは果たして定着するのだろうか。

洋菓子から和菓子へと広がり

20年近く前のことだ。講師をしている大学の「メニュー開発」の授業で、「飲むショートケーキ」を考案した学生がいて、若い発想にうれしさを覚えた記憶がある。一方で、混ぜて飲みこんでしまってはスイーツとしての視覚的な美しさもなく、風味も一律になってしまってつまらないのではないか、とも当時は感じた。しかし今では、筆者自身も飲むスタイルのスイーツメニューを企業や飲食店に考案しており、時代は変わったと感じている。

森永乳業が2021年に期間限定で発売した「チーズケーキのめちゃった」

スイーツアイテムは、ショートケーキ、チーズケーキ、ティラミスなどの洋菓子から、わらび餅、大福など和菓子にも広がっている。

個性的なものを挙げてみると、札幌発のリゾット専門店が新たに渋谷にオープンした「Risotteria GAKU渋谷」の「ショートケーキ缶」が早くもSNSやメディアなどで話題に。まさに“缶に入ったショートケーキ”なのだが、缶の表面が中身そのものの画像になっているので、どんな中身か想像ができ、見栄えもよい。実際のところは「飲む」わけでなく、スプーンですくって食べるのだが、いずれにしても、従来ショートケーキに必要だったフォークは使用しない。

長野県松本市のプリン専門店「春夏秋冬(HARU・NATSU・AKI・FUYU)」が手掛ける「天使の飲むプリン」は、マヨネーズのような容器入り。通販では冷凍状態で届くため、半解凍してアイスクリームのように吸うことも可能だ。容器に直接口をつける「吸う」タイプのスイーツは、ゼリー飲料や、「パピコ」のような氷系アイスで以前からなじんではいるが、このタイプの「飲むスイーツ」は案外少ない。スプーンかストローを使用する。

「飲む」が「食べる」を超えたものは

飲むスイーツの先駆的な存在としては、2007年に「新感覚の飲むスイーツ」とのコンセプトで発売された江崎グリコの「ドロリッチ」が挙げられるだろう。発売当初は飽和状態とされていたチルドカップ飲料カテゴリーに風穴を開けたと高評価を受けたが、2019年に生産を終了する。市場が広がるとともに、競合が乱立し、「利便」や「映え」「個性」が求められるようになったように思う。

食品ヒット大賞の優秀ヒット賞を受賞した「Dororich クラッシュカフェゼリークリームin」(グリコ乳業)

「飲む」スイーツが、「食べる」スイーツから変化させたことは多い。
・食べる際に片方の手にスマホを持たせることを許した。
・スイーツと一緒の自撮りを簡単にできるようにした。
・こぼすことがないので、お皿がいらない。
・移動中でもスイーツが食べられる。
・食べきらなくても良い容器が多いので何度でも食べられる。
・食事の仕方やマナーに気を遣う必要はない。
・保存性も高まっている。

時代によって変化する「おいしいの感度」

しかし一方で、スイーツ・デザートは「解き放たれた美」でもあると筆者は考える。利便性だけに留まるのではなく、他人とその美しさを共有し、ゆったりとした気持ちで食べるものでもある。食べ物というものは、口の中に留まる時間にこそ、おいしさや風味が広がっていくともいえる。

小粒白玉のドリンク
「小粒白玉」を使用したドリンク

多様な食べ物が開発される現代において、「食べる」と「飲む」の境目もわかりにくくなっている。「おいしい」を「どの時点」で「どう感じるか」は、食体験によって個人個人で異なるのだが、売れる商品を作るためには、開発者も提供者も今のおいしさの感度に常に敏感でい続けていなくてはいけないだろう。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)