「ネオあんこ」に見る菓子の進化と市場拡大のヒント

あんこの世界が熱い。20~30代の若手経営者の発想力から生まれた新たなブランドから、老舗和菓子店の新商品まで、これまでの概念にとらわれない新しいあんこ菓子が人気となっている。あんこの原型は中国から伝わり、日本でアズキを使用した今のあんこのような形となったといわれている。長らく菓子の中枢を担ってきたのだが、ここにきてなぜ今、あんこが注目されているのだろうか。

「塗る」「挟む」ネオあんこ

今回、新たなあんこの使われ方を「ネオあんこ」と称することにする。ネオあんこは、いくつかのカテゴリー分けができると考えている。

1つは、菓子としてではなく用いる「使い方の変換」、そして、異素材と融合する使い方だ。売上げ好調になった例では、あんことバターを併せたあんこバター、あんこスプレッドや、チョコレートとあんこをあわせて和洋折衷のチョコレートに仕立てたチョコあんこなどである。

「あんこバター」を検索すると636万件、「あんこスプレッド」を検索すると184万件ヒットした。これらはトーストにバターとジャムの代わりに塗る定番だが、ビスケットに塗ればお手軽な菓子となる。

「ココナッツサブレ あんバター」(日清シスコ)

久世福商店の「あんバター」、成城石井は数量限定で不定期販売だが「あんこバター」、カルディコーヒーも「小倉あんバター」をそれぞれ販売。また、全国展開しているカフェでもあんバターは発売されていて、スターバックスコーヒーでは2021年にあんバターサンドが登場し、コメダ珈琲では名古屋名物の小倉トーストの横にバターが添えられてサービスされている。さらに、老舗和菓子店とらやにおいても、バターは含まれないもののペースト状に使用できる「あんペースト」が売られている。

「洋菓子」にもなるネオあんこ

和菓子にとらわれない「スイーツ」としてのあんこもある。「華水月」では、花に見立てたあんこでデコレーションしたあんこのケーキが人気を得ている。さまざまさまざまに色付けをしたあんこで花びらが作られており、見た目は洋菓子さながらだ。実はこの手法は上生菓子にもともとあり、長年日本で使われてきた手法なのだが、印象はまったく異なってくるから不思議だ。あんこのデコレーション花の下のスポンジは卵やバターを使用せずグルテンフリーでできている。

あんこの種類を選べるあんこスイーツ専門店「あんこの勝ち」

「さいなおはぎ」はバラをかたどったおはぎである。“映える”和菓子を目指し開発されたとあって、芸術的でありパッケージはチョコレートボンボンの箱のように仕立ててある。通常のおはぎはあんこでもち米をくるんでいるが、「さいなおはぎ」はあんこのバラの花の下にキューブ状のコメがあり、形状もおはぎの概念とは異なる。

エネルギーチャージとしてのネオあんこ

ネオあんこにはさらに「価値、目的を変えた商品」がある。「菓子」という概念ではなく、エネルギーチャージとして利用するあんこ商品だ。それにより元来のあんこをめでる客層とは異なる新たな客層へ広がりを見せることに成功した。

「筑地果汁創作所」では、「The Anko」という飲むあんこ商品をラインアップ。粒あん、こしあん、白あんがあり、スパウトパウチ包装のためワンハンドが可能。食器もいらず、動きながら飲めるためアスリートのエネルギーチャージの方向性を打ち出した。また、チューブ状のためパンや菓子のトッピングとしても適量が出やすく利用可能だ。

アスリート利用としては、老舗和菓子店とらやのミニようかんも見直されている。以前からある商品だが、食べきりのサイズと片手で食べられる利便性に加え、賞味期限が長く常温保存が可能な点も重宝とされ、登山やキャンプなどに持参する、また災害用の保存食としても利用されている。

麹の力によって自然なやさしい甘さが特徴の「発酵あんこ」

あんこのもとであるアズキは栄養成分が豊富で、さまざまな効能がある。食物繊維による便秘解消や腸内環境を整える効果、鉄分による貧血予防、サポニンによるコレステロールの低下を促し、ビタミンB1ほか各種ビタミンによる疲労回復効果、冷え性予防、血流を良くする効果、カリウムによる高血圧予防などが挙げられる。また、アズキにはアントシアニンやイソフラボン、ルチンやレスベラトロールといった数種類のポリフェノールが含まれるため、アンチエイジングほか多くの効能が期待される。

◆穀粉・製菓原材料特集:若年層へ作る楽しみ発信 アズキの健康効果に注目 – 日本食糧新聞・電子版

ネオあんこが生まれる背景

あんこはそのアズキに糖分を加えているため、脳の活性化や即効性と一時的な疲労回復にも役立つ。総合的に免疫力を高める効果が期待できることから、あんこのニーズが高まっている背景が考えられる。加えて洋菓子と比較すると総じて低カロリー、低コレステロール、低脂肪であるため、活動の幅が広がりにくいコロナ禍の昨今のニーズにもあっているといえるだろう。

筆者は大学で講師をしているが、和菓子を好まない次世代も少なくないと感じる。しかし、ネオあんこを生み出すのが若い世代中心であることから、知らないからこその発想力が生まれるのではないかと考える。インスタ映えとは遠くに位置するだろうあんこの新たな可能性は、楽しくもある。あんこに限らず、そこに漬かっていないからこその遠目からの客観的視点によって、新たなビジネスは生まれる場合も多いものだ。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)