高級食パン店はターゲットと売り方をシフトし健在

パンブームといわれて、もう何年経つのか。しかし、「ブーム」という言葉には「終焉が来る」ニュアンスが含まれており、日本人がパン食をやめることは考えにくいので、「ブーム」という表現はもはや適切ではないだろう。

人気食パン店から行列は消え…

数年前から高級食パンがブームとなった。多くのブランドが立ち上がり、専門店が開業され、人気店には長蛇の列ができ整理券が配られた。ネット注文に特化した店舗は予約開始数分で完売することもあった。しかし、最近は店舗数が増え過ぎたのか、または飽きられたのか、行列をほとんど見ない。高級食パンブームは去ったのだろうか。それとも定番カテゴリーとして定着しているのだろうか。

乃が美の「復刻『生』食パン」

民間調査サイトの「開店閉店.com」によると、ベーカリーでは今年3月5日から4月4日までの1ヵ月間に「開店」が66店舗あり、「閉店」は16店舗となっている。1ヵ月間で50店舗増えたことになり、パン業態全体とすれば伸びたことがうかがえる。

高級食パン専門店はどうなのか。ブームの立役者「乃が美」は、行列がなくなりかつての勢いがなくなったかに見えるが、同様に店舗数は増えていた。そのほか、「い志かわ」「一本堂」「panya芦屋」「ラ・パン」「銀座に志かわ」も増店していた。店舗数が増えたのだから行列が減るのも当然といえる。その後に閉店した店舗はあるものの、まだまだ高級食パンは健在であるようにも思える。

住宅街など生活圏に次々と出店

しかし、売り方は変化している。乃が美は、駅構内や住宅街など生活圏に次々と出店していて、「並んで買うプチご褒美パン」から「身近な食品」へシフトしている。東京・八王子市の高尾駅販売店では、自動販売機を設置して夜中の時間帯にもパンが買える取組みを始めた。また、3月26日に海外1号店として台湾の台北市に進出している。

一本堂は、他店でいう半斤を基本としており、毎日購入しやすい量で利用者数を安定化させている。価格も300円台に抑えているため、毎日でも食べられるこだわり食パンといえそうだ。そのほか、モスバーガーが山崎製パンと提携して一部の試験店舗で食パンの販売を開始した。また、愛知県では居酒屋が「ワンハンドレッドベーカリー」という高級食パンを販売しており、個人の事業から外食へと、高級食パンの事業主体に変化が見えている。

ジャパンベーカリーマーケティング代表の岸本拓也氏(中)

一方、高級食パン専門店ブームを牽引した岸本拓也氏がプロデュースした店舗は、岸本氏自身が経営してないため、店舗経営に勝敗が分かれているように見える。

参照サイト:岸本拓也さんがプロデュースした高級食パン専門店の全店舗一覧【2022年6月最新】

ご褒美パンから日常パンへ

いずれにしてもコロナ禍で家庭内食が増え、もともとデイリー食品である食パンを「ご褒美食品」にする意味が以前よりは薄れたといえるだろう。食パンは人によっては毎日食べるものだから、高級食パンの「リッチ」な味は、朝食には「重い」のかもしれない。

パン好きの人にとって、パンの選択は二通りあると考える。「デイリーに食べやすい味と価格帯のパン」と、「目新しくワクワクするパン」の使い分けだ。前者は食パンとは限らないし、後者に関しては、変化が欲しいので、高級食パンを一通り味わってしまうと別のものを欲してしまう。

食パン
日常食になりつつある高級食パン

しかし一方で、「デイリーに高級食パンを食べたい」「近所や利便性の良い店で買えるのであれば、高級食パンは買いたい」という一定層はいる。そういった層にとって、高級食パンはご褒美パンではなく日常食となる。そのため、ブームは去っても高級食パンは1つのカテゴリーとして残る可能性はあるだろう。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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