植物由来のマグロやエビも おいしさの指標は変わるのか

世界では、人口増加が続いている。これにより世界的な食料不足と飢餓問題を引き起こすといわれているが、加えて、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響も加わり、現在は世界的に食料供給がうまく回っていない。このまま1人あたりの肉や魚などのタンパク質源の消費量が増加すれば、世界的にタンパク質供給の危機がやってくる可能性もあるといわれている。そうした中、食品に関わる課題を先端技術で解決する、フードとテクノロジーを融合した「フードテック」と呼ばれる産業分野が期待されており、代替食品の開発に注目が集まっている。

世界中で開発が進む人工魚肉

日本で市場に出回っているのは、まだ肉に見立てた大豆を使用したタイプがほとんどであるが、世界大手マーケティング調査会社のニールセンのリポートによると、米国では、植物由来の原料を使って、肉の味と食感を再現する「人工肉」はすでに市場に定着しつつあり、人工肉の世界市場は、2025年までに279億ドルに達すると予測されるそうだ。

加えて海外では、人工的に魚介に見立てたフェイクフード「Fishless fish」の発達も目覚ましいという。植物由来でできた「人工魚肉」だ。人工肉の最大手メーカーのImpossible Foodsは、2035年までに市場に出回る全ての動物性食品の代替品を開発する目標を打ち出しており、人工魚肉もその1つだ。

植物由来の素材で作られたビーガンタコス

Good Catch Foodsは、植物由来のマグロや海老のハンバーグ、フィッシュフライなどを開発している。マグロは、ひよこ豆の粉とレンズ豆のタンパク質を含む、6種類の植物由来の成分で作られているとのこと。海や海洋生物に害を与えることなく、本物のマグロと同じ食感、風味、栄養価を持つ製品を作ることを目標に掲げている。

また、Wild Typeが製造する人工サーモンは、画像を見る限りでは、本物のサーモンと見間違うばかりに精巧にできている。さらに、世界では消費量の多いエビに関しても、人工エビの開発が活発である。New Wave foodsの作るものは、食感も本物のエビに近いとしている。

日本市場への浸透は

日本では以前から、かまぼこやちくわといった、魚肉を使った練り物の技術はあり、その応用として魚肉ソーセージは肉の代替品としても販売されてきた。しかし、魚介類の供給量不足が加速するといわれる中、今後は、植物由来の魚加工品が日本でも増えていく可能性はある。

敷島製パンの「まるでツナパン」

日本は海に囲まれた島国なため、鮮度の良い魚が食べられることを当たり前のごとく暮らしてきた。しかし、世界市場が変わる中、現在においても海外に買い負けをしていることが増えている。そして、宗教上の理由によるベジタリアンやビーガンの人口が少なく、以前から大豆食品を日常的に食べてきたため、肉や魚を植物性に変換していくという考えに疎い点も否めない。

「地球環境に良い」視点で食べ物を選択

世界では、今までの「味」を「おいしい」と感じるのではなく、「地球環境に良い」「自然を守る」といった視点から食べ物を選択し、また、そうしたコンセプトの食べ物がすなわち「おいしい」のだという考え方も育っている。

「オーシャン・ハガー・フーズ」のトマトでできたマグロそっくりの“アヒミ” oceanhuggerfoods.com

「おいしい」に決まりはない。個人の脳でおいしさは感じられて判断されていく。そうした観点から、「おいしいとは何か」「将来にとっておいしい食事・地球にとっておいしい食事……それらが自身にとっておいしい食事となっているのか、否か」といったテーマについて再考する時代なのではないだろうか。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)