焼き芋・おでんは暑い時期の需要増加 冬の食べ物を夏に食べる背景に生活スタイルの変化

夏の風物詩の食べ物といえば、冷やし中華、かき氷、素麺、アイスクリーム、スイカ、トウモロコシ、枝豆、冷奴など。加熱して食べるものもあるが、圧倒的に冷やして食べる食品が多いだろう。しかし近年、暑い時期における温かい食べ物や冬のイメージが強い食べ物の需要が増えている。

9月に売れるコンビニおでんの役割とは

コンビニのおでんが一番売れる時期はいつなのか。冬かと思いきや、実際は残暑も厳しい9月下旬というデータが数年前に話題になった。急に秋風を感じる時期は、体感温度が低くなる。実際の気温よりも寒さを感じやすいため、体を温めたいという欲求が働くのだという。そこで、さらにおでんの発売時期を早めてみたところ、夏にも売れたそうだ。レジ横のとりわけタイプではなくパッケージ商品ではあるが、今ではおでんはコンビニの通年商品となった。

2021年9月1日に発売された「辛さやみつき 辛おでん」(堀川)

夏のおでんの需要は、スーパーよりも断然コンビニに軍配が上がる。食べる場所がキーポイントだからだ。日本のオフィスビルの空調が冷えすぎる問題は以前から言われている。職場では社員の個人的な意向でエアコンの操作はできない。特に女性は男性よりも体温が平均3度低いといわれているので、オフィスにひざ掛けやウールのカーディガンを持参する人も多い。そこで仕事の合間のランチに体を温めるために買うのがコンビニのおでんだ。

スイーツとして焼き芋の人気復活

しかし最近は、家庭でも温かい食べ物を食べる傾向がある。一昨年あたりから夏の定番商品になりつつある商品のひとつが「焼き芋」だ。冷凍した焼き芋をスイーツとして「夏に冷やし焼き芋」と売り出したのがきっかけだが、今は、レンジで温めて熱々を冷房の効いた部屋で食べるのも人気となっている。焼き芋という素朴な商材そのものの人気復活とともに、手軽にお腹にたまるおやつのニーズや、余計な甘さを加えていないヘルシーな糖質としての要素も人気の背景と言えるだろう。

焼き芋、各種サツマイモをコーナー化して取り揃える小売店舗

「鯛焼き」も通年の商品として定番化している。小麦粉の生地とあんこというシンプルな要素なので、アレンジが効きやすいもの夏にも定番になった要因にあると考えている。あんこは冷凍のままでも、自然解凍しても、半解凍しても、レンジで温めても「可食」できる点は利便性が高い。さらに、トースターで温めればカリカリとした食感になるため、昨今人気の高い食感の1つである“表面がカリカリ、中がトロリ”にもなる。

また、あんこの代わりにホイップクリームやカスタードクリームに変えることで一層「スイーツ度」が増して、冷凍のままもアイス最中のような感覚で食べやすい。生地もタピオカを加えたりもち粉を加えたりなど食感を変えることが容易で、冷凍から加熱状態まで自由度が高い商材でもある。

このほかにも、外食においては、夏の真っ盛りに激辛の熱々スープのラーメンを出す店に行列が絶えない。汗を流しながら食べるのがストレス発散のようだ。

「男らしさ、女らしさ」と「夏に焼き芋」の交差点

夏に温かい冬の食べ物を食べる背景には、冷暖房云々のほか、日本人の生活スタイルの変化に関係があると筆者は考えている。例えば衣類だ。真冬に素足でゴム草履の人を時たま目にする。そこまで極端ではなくても、筆者が子どもの頃は、夏服と冬服の境目の季節に合間の素材の服も選んだし、3月にウール素材を着たら季節感のない人として「格好良くない」と思われた。また、冬布団、夏布団のほかに合間の時期用の布団もあった。食生活においても旬を大事にし、行事食も重んじだ。

激辛料理が食べたくなる夏向け商品「激辛高菜豚骨ラーメン」発売(サンポー食品)

しかしそういった季節を重んじた生活全体がボーダーレス化している。冬でもシャワーだけで済ます人は多々いるし、近所の外食はジャージで来店して、その服はパジャマにもなったりする。また、季節に留まらず、コミュニケーションもしかり。親は親らしく、先生は先生らしく、女は女らしく、といった「らしさ」という言葉は稀有となった。考え方によってはハラスメントになり得る危険がある。

こうした生活そのものの「ファジー化(曖昧化)」によって当然ながら食もファジー要素が増えていくし、自由度も増すようだ。ただ、夏といえども体を冷やす食べ物に終始せず、体内は温めたほうが健康に有効という説もあるので、食に関しては悪くはない側面もあるといえる。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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