世相を反映して進化を続ける鍋料理、今冬は自由度や利便性がアップ

毎年、鍋のトレンドが生まれる。鍋は歴史が古く冬の定番料理だが、それでもブームがある。かつてモツ鍋、キムチ鍋、コラーゲン鍋、ギョウザ鍋、発酵鍋など人気になったが、特にモツ鍋が流行った時は、どの居酒屋でもメニューにモツ鍋を出すほどのブームとなった。「鍋料理だと会社の忘年会を欠席する若手社員」の増加が話題になって久しく、1人鍋専用の飲食店が出現するなど、鍋は景気や消費者趣向や生活スタイルなど社会的背景を反映させる料理ともいえるだろう。今冬の鍋はどういった傾向にあるのだろうか。

鍋つゆのバリエーションが拡大

コロナ禍を反映して、感染予防の工夫をされた鍋や免疫力を上げるなど健康に意識を置いた鍋や、昭和ブームなどによって定番の鍋や、以前流行った鍋を今年風にアレンジしたリバイバル鍋などさまざまある。かつてのような「この年はこの鍋」と1つに絞れないのが最近の傾向だ。

平成リバイバル鍋
ぐるなびが2022年トレンド鍋に選定した「平成リバイバル鍋」

また、家で食べる際に便利な「鍋つゆ」商材のバリエーションがさらに広がりを見せている。まずは対応人数の自由度だ。1人分がワンポーションになっているタイプは利便性に富んでいる。少人数でも余ることがないため無駄なく使い切ることが可能だ。

一方でパウチに入った、数人の利用で使用が可能なタイプは割安となる。味も、定番の醤油系、だしタイプ、クリーミータイプ、エスニック風など、相当な種類があり、世界中の鍋を自宅にいながらにして味わえる。

※参考リンク
鍋物調味料特集 日本食糧新聞電子版

「焼肉風」も登場

さらに2022年は焼肉風の鍋つゆなど、誰でも好きな焼肉の味をつゆだくに味わう新しいタイプも発売され人気となっている。焼肉という「鍋料理ではないメニュー」を鍋に転換するという視点は新しく、今後も別のメニューアイテムを鍋に変えた商品は出る可能性もありそうだ。

エバラ食品工業 「フライパンで焼肉鍋」
エバラ食品工業の「フライパンで焼肉鍋」

ヒットしている商品に共通しているのが、鍋つゆそのものの味で食べるスタイル。かつての、取り皿に移してから新たにたれをつけたり、味付けを追加したりしないものだ。1工程少ないため、より利便性に富んでいる。また、食べ進めるうちにポン酢が薄まってしまうなどといった懸念もない。

鍋は気を遣う料理ではなくなった

皆で1つの鍋を囲む鍋料理は、直箸を避けることが求められ、また他の人の分を取り分ける際には綺麗な盛り付け方に気を配る、人気の具材は独占しないようにするなど、鍋にはさまざまな気遣いが必要とされてきた。しかし、徐々に同じ鍋を他人とシェアすることに抵抗を持つ人が増え、個食(各自がそれぞれに好きな料理を食べる食べ方)が珍しくなくなり、そこにコロナ禍が加わったことで、大きく食卓は変わった。

締めのラーメンが付いた1人用の鍋の素「明星 ひとり〆ラー鍋」シリーズ

そこで鍋に対する感覚も変化した。もはや鍋は皆で囲む料理とはいえず、大人数にも対応できるが、1人でも楽しめる制約のない自由度の高い料理として進化している。

近い将来、家族で食卓を囲みながら、各人が好きな味付けの1人鍋を食べることが珍しくなくなるかもしれない。また今後は、さらに「プロテイン増量鍋」「カルシウム骨丈夫鍋」「塩分控えめ」「アワビ入り鍋」など目的別の鍋や機能性鍋などが開発されてくると面白い。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)