新たな価値を生む食品業界のアップサイクル フードロス削減をさらに前進へ

通常は捨てられる廃棄物を新たな商品に生まれ変わらせる「アップサイクル」が広がりをみせている。アップサイクルは、単にリサイクルするにとどまらず、より付加価値の高い良品に生まれ変わらせることに注視している点が特徴だ。食品にはとどまらないが、食品業界としても食品ロス軽減をさらに一歩進めた形といえるだろう。

ビールの副産物からデニム生地

大手企業では、食品だけではなくさまざまなアップサイクルに動いている。化粧品会社では口紅からクレヨンが作られ、高島屋などの百貨店では古着からブランド衣料品が生まれている。

食品関連の事例では、サッポロビールがビールの副産物からデニムの生地をつくり、ジーンズを生んでいる。サトウキビからデニム製品への加工を行っているSHIMA DENIM WORKS(沖縄県)の技術を基に、共同で製品化した“アップサイクルジーンズ”だ。

ビールの副産物からデニムの生地を生成(サッポロビール)

ビール作りの工程で麦汁を搾ったあとに派生するモルトフィードや、ホップの収穫時に出る茎や葉などから、デニムの生地は生まれているという。こうしたビール作りに出る副産物は、主には動物の飼料や畑の肥料として再利用されているが、人間が使える衣類となることで、全く新しい価値に生まれ変わっているといえる。 

茶殻から防音パネル

伊藤園では、自社による「茶殻リサイクルシステム」を使って、岐阜プラスチック工業(岐阜県)と共同で「茶殻配合防音パネル」を開発した。この「茶殻配合防音パネル」は、パネル表面に微細な開孔を設けることで高い防音効果が得られた実験結果をもとに、防音に着目して開発されたという。また、パネルを採用した防音壁には、伊藤園商品の「お~いお茶」600mlPETボトル換算で約200本分の茶殻が配合されていて、一般的な防音パネルと比べて約2100kgの軽量化を実現しているため、パネル輸送時のCO2排出量の削減、設置作業の省力化にも対応している。

茶殻をアップサイクルした「茶殻配合防音パネル」(伊藤園)

ホテル業界では、ザ・キャピトルホテル東急(東京都)では廃棄食材を利用したコース料理が生まれている。メーンディッシュに提供されるのは、経産牛。経産牛とは出産を経験した雌牛のことで、通常は肉質が固いため加工肉やミンチにされるなどにとどまるのだが、だしに使用し廃棄されるはずの昆布をパウダー化させ、経産牛と組み合わせることで、全体の口当たりが軟らかく食べやすい料理に仕上げられている。

背景には消費者の意識変化も

アップサイクルは、単なる再利用ではなく異なる商材に変えるためコストや手間がかかる。しかし取り組みにより企業評価がアップし、ブランド価値が向上することなどで長期的には利点も大きいとの見込みがある。

廃棄される資源や食品残さのリサイクル率向上や有効活用を推進する企業連携のプラットフォームとして一般社団法人アップサイクル(大阪市、森原洋代表理事)を2月7日に設立した

また、環境や社会に貢献している企業の商品を購入したいという消費者の意識変化も背景にあると考えられる。食に関しては、これまではリサイクル商品はおおむね正規商品よりも価格が低く抑えられてきた。しかしアップサイクルでは価格も売り方も全くの新商品として価値をもつ。

環境保全の視点とともに、技術力の発展、そして1社にとどまらない数社の融合によって生み出されている点も、「今」を示す商品開発だと言えそうだ。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)