クローズアップ現在:“食品ロス削減”の取り組み 食べ残しの持ち帰りは広がるか

2025.03.03 553号 08面
日本でも食べ残しの持ち帰りが“普通”となる日が来るか

日本でも食べ残しの持ち帰りが“普通”となる日が来るか

 飲食店で客が食べ残した料理を自ら持ち帰ることに日本は消極的だった。しかし世界で食品ロスの問題がクローズアップされるようになるなど社会の変化もあり、消費者庁と厚生省は2024年12月6日に、SDGsの目標に向けて「客の食べ残しの持ち帰りについて」のガイドラインの最終案を出した。海外では個人の責任の下、当然のように持ち帰り習慣が存在している。また、昭和の時代までは日本でも、ホテルなどの高級料理店では火の通った料理などの持ち帰りに関しては、寛容な対応も多く見られた。しかし昨今では減少したように感じている。なぜ、日本では持ち帰りを推奨していないのか。

 ●同じ業態でも店側の対応は異なる現状

 基本的にホテル内の中国料理店は、油落としなどの丁寧な調理法を用いていることが多いので、完全に火が通った料理である。以前、都内老舗ホテルの中国料理店に家族でよく食べに行ったが、食べきれない料理はすべて丁寧に専用の包装をしてくれて持ち帰らせてくれた。心情として、ホテルという場所柄、なじみ客とはお互いの信頼関係ができていることもあり、ホテル側もクレームされることはない、と安心している点があるだろう。

 先日、都内の別のホテルの中国料理店で会合があり、コース料理がサービスされた。筆者は食べきれないので、あらかじめコースの中の数品は持ち帰らせてくれないか、と事前にホテルスタッフに申し出た。最初は許可できないと言っていたが、「責任は私が持ちます、ご迷惑かけません」と言うと、その点を念を押してホテル側は承諾した。

 ●「店内で食べる」を前提に持ち帰りOK

 筆者は食べきれない可能性がある場合は、最初から少量にしてもらっている。ただその場合、盛り付けや料理のバランスが崩れるなどがあるので願い出る際には、店を選ぶようにしているし、「ご面倒と思いますが、もし可能でしたら」という一言を添えるようにしている。

 ある大型レストランの立ち上げメニューを作った。その際に「これからの飲食店になるのだから、SDGsの視点から持ち帰り制度を作ってはどうか」と提案したのだが、経営陣は首を縦には振らなかった。2年前だ。

 厚生労働省のガイドラインでは、基本的に店内で食べきることが前提であるとした上で、衛生管理の遵守とともに、許可できる料理に関して水分量が少ない料理、常温保存可能であるなど一定の注意喚起をしている。また、持ち帰りを認めていない食品としては、サラダや刺身、ドリンク類などを挙げている。実際に以前から、事業者が自主的に推進する「mottECO(モッテコ)飲食店での食べ残しを自己責任の範囲で持ち帰る活動」などを政府が支持して、一部の外食チェーンなどが利用している。

 ●責任の所在をどこに置くのか

 他人依存しやすい日本において食べ残しの持ち帰りが推奨されない理由として、万が一のリスクが生じた際の責任の所在が明確に出せないことがあると思われる。

 「食べ残したものを持ち帰る」という簡単な作業なのだが、いくつかのパターンが考えられる。店ごとに許可する料理の選定をしなくてはならないなど、個々のガイドラインが必要だ。持ち帰りの方法として、大きく分けて6パターンが考えられる。

 (1)容器を客が持参して、詰めることも客が行う。

 (2)容器を客が持参するが、詰めることは店が請け負う。

 (3)容器を有料販売し、客が自ら詰める。

 (4)容器を有料販売し、詰めるのは店が行う。

 (5)容器を希望の客に店側が無償提供して、客が詰める。

 (6)容器は店が用意し、詰めるのも店が行う。

 前出の筆者が家族でよく訪れていたホテルは6のパターンだ。ホテルのロゴマーク入りの容器に丁寧に入れてくれる。薬味までラップにくるんでくれるので、申し訳ないくらいだ。SDGsとしてどうか、という新たな課題も出そうなほどの丁寧さだ。

 一般的に店で詰める場合は、いっそう衛生管理の徹底が求められる。異なる食材と食材を隣同士にする際の気遣いや、腐敗しにくい工夫も必要だ。さらに手間が加わり人件費にも影響が出る。食中毒が起きた場合の責任に関しても同様に、現代の日本の風土から想像すると、店側のリスクが大きくなるだろう。

 電子レンジの普及により、冷めた料理の復元性も高くなっている。食べ残しの料理を肥料などにリユースする店などは少ないため、廃棄するのであれば持ち帰って食べた方が良いだろう。

 しかし日本の「お客様は神様(本来の意味は違うというが)」といった客上位の長年の概念が、最近変わりつつはあるものの、根深く残っている。クレームで客足が伸びなくなるのであれば、面倒なことは避けたいという店側の気持ちも理解できる。西洋では、概ねどこの店でも持ち帰りは容認されているが、企業依存をしている日本と、幼少の頃から「自己」を学び、自己責任の考え方が身に付いている国との違いかもしれない。

 ●日本人の「世間体」「見栄」の文化も背景に

 客側も持ち帰りに対して消極的であった理由として、「食べ残しを持ち帰るなど貧乏くさい」といった一種の見栄の概念が日本にはあるように思う。食に対しての一種の美意識や、「世間体」といった概念も根底にはあると筆者は思っている。なぜなら、テイクアウトは誰も抵抗なく購入しているからだ。今回のガイドライン案で「持ち帰りは避けたい」と挙げられたサラダなどもデパ地下やスーパー、コンビニで日々売られているのだ。デパ地下では、その場でスタッフが盛り付けして、真空パックにするわけでもないので、まさに人の手でパッキングしている。

 ●今後の課題と意識変化へ

 以前から、揚げ物などの大盛りを出すことで有名な食堂では、持ち帰り前提となっていて簡易タッパーを店が用意してくれているなど、持ち帰りができる店は、それなりにはある。また、現在では全国展開のファミリーレストラン、回転寿司チェーンなど飲食業界大手は持ち帰りサービスへの対応を実施している。今後、新たに実施を始める店舗も増えると見込まれるが、食べ残し持ち帰りを促進するために、顧客に対し、食中毒に関する正しい理解を周知させる必要もある。また、食品ロスの削減やSDGsへの貢献に対しての消費者の意識向上への試みも求められるだろう。

 飲食店に限らず、クレーマーに対する対応基準なども企業側が考え始めている昨今、かつての「お客様は神様」ではなくなりつつある。店舗側と客側の双方に衛生管理に関する知識と実践、さらに食品を大切に考える意識があれば、持ち帰りが「普通」のことになる日も遠くないかもしれない。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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