飲食トレンド:食べるスープ、流行から定着へ ヘルシー志向を追い風に
一時のブームかと見られていた「具だくさんスープ」、いわゆる「食べるスープ」が定番化に向かっている。ヘルシー志向の強まりを追い風に、スープ専門ファストフードのチェーン化、有名店の都心進出などが相次ぎ、着実に市場を広げている。スープトレンドを追った。
ほんの数年前まで、北海道の地方グルメ料理にすぎなかったスープカレーが、今や全国を制覇しようという勢いで広がりをみせている。
スープカレーは、30年以上前に札幌で考案されたメニューだといわれているが、2003年に札幌のスープカレー老舗店のひとつである「マジックスパイス」が東京・下北沢に出店してから、急激に全国区の知名度を得るようになった。札幌でも5~6年前までは30店ほどしかなかったスープカレー専門店が、現在では、120店を超えるといわれており、大手食品メーカーからも、地元札幌の有名店の名を冠したスープカレーが次々に発売されるなど、スープカレー人気はとどまるところを知らない。
そして、このスープカレー人気と足並みを揃えるかのように、昨年あたりからさまざまな「食」のシーンにおいて、スープメニューが話題を集めている。
外食市場では、すでにスープ専門店として知名度も高い「スープストックトーキョー」と「ディア.スープ」に加えて、シアトル風のスープとシチューを売り物にした「チャウダーズ」が加わり、話題の新しい商業施設に顔を出すスープ系のファストフード店として女性客などの人気を集めている。
もはや老舗の感があるスープストックトーキョーは、首都圏だけではなく東海地区などにも店舗を広げ、30店舗を超えるチェーンへと成長しているし、ビジネス街の丸の内に出店したディア.スープでは、平日の昼食時にテークアウト商品が200食以上も売れると報道されている。
また、今冬はこうした専門店だけではなく、他の外食チェーンやコンビニなどもスープメニューを打ち出したプロモーションを展開した。サンドイッチチェーンのサブウェイは昨年11月から、ロールキャベツ入りのスープとパンのセットである「スープサンド」(ミネストローネとコーンチャウダーの2種類)を発売。また、チキン大手のケンタッキーフライドチキンは「ロールキャベツ入りトマトポタージュ」と「野菜と春雨の中華スープ」という2種類のスープをサイドメニューとして販売している。
外食チェーンではそのほかにも、フォルクスやシズラー、ビッグボーイなどの有名チェーンが、ドリンクバーやサラダバーなどと同様のバイキング方式で「スープバー」を設置している。常時3種類程度のスープを置いて、利用客がセルフサービスで自由にお代わりできるスタイルが好評だ。
さらに、一部のコンビニエンスストアでも店内でスープ商品を販売するなど、外食、中食を問わずスープの人気は高まる一方のようである。
今回のスープ流行のキーワードは「食べるスープ」だ。スープカレーに代表されるように、従来のスープのような添え物的なメニューではなく、それ自体が一品料理として満足できるような、主食にもなり得る料理としての「スープ」が注目を集めているのである。
そもそも、なぜいまスープメニューの人気が高まっているのだろうか。
「食べるスープ」は、野菜や穀物、シーフードなどの具がたくさん入った、いわゆる「具だくさん」スープ。こうしたスープは、まず第一に、健康や美容、ダイエット志向に即した料理であることが挙げられるだろう。肉や魚などのタンパク質から取っただしをベースに、野菜や穀物、魚介類などのヘルシーな食材を具として作られる「食べるスープ」は、1食分の中にさまざまな栄養素を盛り込みやすく、基本が煮込み料理であるため固形物も少なく栄養を吸収しやすい。
また、食べやすいコンビニエンスフードであるという点も、現代人のニーズに即している。スープ料理は、液体が中心になった、いわば流動食であるため、いつでもどこでも食べられるという手軽さがあり、自宅で作ることも比較的簡単だ。それでいて、肉、魚、野菜などあらゆる食材を利用できるほどメニューのバラエティーが豊富で、味もシンプルなものから深みのある複雑なものまで存在する。実際、スープをテーマにした料理レシピ書も数多く出版され、書店での売れ行きも好調のようだ。
さらに、外食や小売など売り手側の立場からもスープメニューは便利な商材である。流動食であるからカップなどで提供することが可能になり、ファストフード店やコンビニなどで販売しやすい。また同様の理由から、レストランでもセルフサービスによる提供が容易な商品であると言える。スープと具の配分によってある程度コストをコントロールすることが可能になるため、どの業態でも自社の商品価格帯に組み込みやすい商品であることも重要な要素である。
栄養のバランスが良く、必要以上に高カロリーな食材を取りすぎることがない。しかも簡単便利でメニューのバリエーションは豊富というスープは、現代の食の志向に関するさまざまなキーワードを包括する料理、まさに現代人の求める理想の料理だと言えるのかも知れない。
ある調査によれば、「食べるスープ」を好むのは「20~30代の女性と40~50代の男性」というデータがあるそうだ。これらの世代はどちらも、社会参加によって時間に追われているにもかかわらず、健康や美容、ダイエットなどに強い関心を持つグループである。これより上の世代の女性の多くは、家庭に入っているため時間的な制約をあまり切実に感じていないし、若い男性たちは健康やダイエットへの欲求が薄い。
このデータは、まさにスープメニューが、「コンビニエンス性」と「健康や美容、ダイエット志向」という2つのニーズを満たす特性を持った商品であるという裏付けとなっている。
今年の冬は特に寒さが厳しく、スープのおいしさを感じられる気候が続く。これを機に、さらにスープ商品の人気は高まるのではないかと業界の注目が集まっている。
こうしたスープ商品の人気の高まりから、外食業界では何を学び取れば良いのだろうか。
前述のようなスープメニュー人気は、決してスープという料理の珍しさや目新しさから生まれたものではない。スープメニューが人気を博している理由は、「仕事や遊びに忙しく、時間に追われる現代人に便利なコンビニエンスフードであるということ」、そして「健康や美容、ダイエットに適した料理であるということ」といった、現代人の生活様式や求める価値観、つまり「ライフスタイル」にかなっているという点が評価されていることにあるのだ。
多くの飲食店がメニュー開発を行う場合、ともすれば他店との差別化を図るという理由で、目新しい調理法やほかにはない食材を用いた「新しい料理」を探し求める傾向がある。
しかし、現実には世界中の料理や食材の数には限りがあり、現在の日本で、まだ紹介されていない珍しい料理を探し求めるのは大変な手間と労力を必要とするだろう。
しかも、たとえ新しいメニューを見つけ出して、あるいは作り上げて販売してみたところで、それが評価されるかどうかは売ってみるまで分からない。いわば出たとこ勝負のギャンブルのようなものだ。
しかし、スープメニューはどれもみな、人々になじみの深い当たり前の料理なのである。細かい創意工夫はあるにせよ、売れ筋であるミネストローネやチャウダーなど、メニューとしては数十年も前からよく知られる定番である。
現在人気が高いスープカレーは、確かにこれまでになかった新しい料理だと言えるかも知れないが、実は記事の冒頭でも述べたように、このスープカレーにしても、地元札幌では30年前から販売され、改良を加え練り上げられてきたメニューなのである。決して、トンビがタカを生むように突然生まれたヒット商品ではない。
こう考えると、一時期、多くの飲食店で流行した「創作料理」なるものが、どれほど不安定な要素に支えられたコンセプトであったかということが理解できるはずだ。たったひとつの料理ですら、それがヒット商品になるためには長い年月の積み重ねが必要なのに、創作料理という名のもとに新しいメニューばかりを並べて顧客の支持が得られるのかどうかは大いに疑問である。
もちろん、「創作料理」というスタイルで人気メニューを連発するような才能ある料理人も存在する。しかし、それはほんの一握りだ。大多数の飲食店で重要なのは、すでに多くの人々に認知され、ある一定の評価を得ているメニューの中から、顧客のライフスタイルに適した要素を見つけ出し、調査データなどをもとに正しい改良を加える、といった作業なのではないだろうか。
ある大手食品メーカーの調査によると、「具だくさん」スープとは、「スープ全体の約40%以上が具であれば食べる満足感が得られる」ということであるらしい。スーパーやコンビニに並ぶ数多くの食品は、こうした膨大な調査データに支えられて開発されている。決して、思いつきやアイデアだけで生み出されているわけではないのだ。
これからは、飲食店もこうしたマーケティング活動を、より積極的に行うべき時期に来ているに違いない。
◆入江直之(いりえ・なおゆき)=各種飲食店のマネジャー、インテリアコーディネーターを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の情報化支援を幅広く手がける。各商工会議所で多数講演を開催するなどして、中小企業の業務サポーターとして活躍している。













