外食業界 SDGs最前線

2026.08.03 570号 08面
「Too Good To Go」アプリの画面例。「食品ロス削減に少し貢献した」という実感が問題意識を芽生えさせる

「Too Good To Go」アプリの画面例。「食品ロス削減に少し貢献した」という実感が問題意識を芽生えさせる

サプライズバッグ(798円・税込み)の商品の一例

サプライズバッグ(798円・税込み)の商品の一例

同協会で運営している千葉県いすみ市の田んぼの様子

同協会で運営している千葉県いすみ市の田んぼの様子

サステナビリティへの取り組みは、大手外食企業を中心に今や重要テーマとして定着している。一方、多くの個店では日々の店舗運営を優先せざるを得ず、積極的な取り組みにまで踏み込めていない例が少なくない。サステナビリティという言葉が一般化する以前から、食品ロス削減や生産者との交流などに取り組んできた飲食店も存在するが、先進的な事例にとどまっていた。こうした中、飲食店と消費者の双方にメリットをもたらしながら、サステナビリティの推進につなげる仕組みを構築する企業や自治体が見られるようになり、個店を巻き込みながら今、裾野を広げつつある。

◆「お得」「楽しさ」で食品ロスを削減 「Too Good To Go」アプリに反響

登録ユーザー数は1億2000万人を超えるデンマーク発のToo Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー、以下TG)が今年1月28日、アジア地域初で世界21ヵ国目となる日本でのサービスを開始し、大きな反響を呼んでいる。TGは飲食店や小売店で売れ残った「まだおいしく食べられる食品」と、それをお得に購入したい消費者をアプリ上でマッチングするサービス。店舗はその日の余剰食品に応じて販売数を設定し、TGアプリを通じて出品する。アプリ内決済で、加盟店舗はTGに月額1000円のシステム料と販売数に応じた売上げ27.5%を支払う仕組みだ。

販売価格は本来の価格の「半額以下」を目安としていることから、消費者はお得な価格で購入でき、店舗は食品ロスを削減しながら収益が確保できる。消費者、店舗、そして食品ロス削減という“三方良し”のサービスというわけだ。

日本でのサービス開始からわずか1週間で約25万人がユーザー登録し、5月までの約3ヵ月間で登録者数は50万人を突破するなど、急速に拡大している。6月末現在、東京、神奈川、千葉エリアでサービスを提供しており、飲食店ではクリスピー・クリーム・ドーナツ、かっぱ寿司、もうやんカレーなど数百以上の外食企業や数多くの個店が加盟している。

TGがユニークなのは、「サプライズバッグ」という独自の提供形式だ。単品販売ではなく、その日余った複数の食品を福袋のような詰め合わせ商品として提供する(一部店舗は異なる)。店舗は予測不能な食品ロスに柔軟に対応でき、ユーザーはお得な価格とともに、福袋のようなワクワク感が楽しめる。

サプライズバッグの販売価格は500~2000円が主流で、Too Good To Go Japanの大尾嘉宏人代表によると「消費者にとっては、お得感とワクワク感が大きな魅力になっている」。サプライズバッグの提供形式は消費者と店舗の双方にメリットがあり「詰め合わせバッグは値引き額も大きくなりお得感が高い。店舗側にとっては、詰め合わせは値引きの印象が薄いためブランド価値が損なわれない。まとまった量の余剰食品を効率的に販売できる」という。

TGのアプリは購入時、CO2e防止量と「食品ロス削減に貢献」といった内容の画面が映し出されるのだが、「“お得感”と“楽しさ”が入口でいい。そこから『少しいいことをした』という実感をきっかけに食品ロスへの関心が自然と高まり、サステナブルな行動が習慣化することを期待している」と、大尾嘉代表は話す。

日本独自の課題もある。多くの飲食店では「売れ残り」を出すことイコール「商品に魅力がない」と、ネガティブな意識を持っている。大尾嘉代表は「売り切れない商品が出るのは当たり前のこと。その事実にどう向き合い、食品ロスをいかに削減するかという現実的な視点が大事」と強調する。

◆クリスピー・クリーム・ドーナツ、食品ロス3割減でメリット大 新規ファン拡大にも

日本におけるToo Good To Go(以下TG)のサービス開始時から加盟しているのがクリスピー・クリーム・ドーナツだ。同社は海外の店舗でもパートナー企業としてTGのサービスを展開しており、そのメリットの大きさを実感している。

クリスピー・クリーム・ドーナツにおけるサービスの流れは次の通りだ。まず、当日の売れ行き状況から、各店舗で販売し切れず廃棄処分となりそうな商品と見込み数量を午後4時前後に推計する。その後、各店でその日に販売するサプライズバッグの数量をTGのアプリで公開。ユーザーはその情報をキャッチし、購入予約をするという仕組みだ。

サプライズバッグの価格は6個入り798円(税込み)で設定しており、通常価格の半額以下。仕事帰りや家の土産などに午後6~7時に受け取る例が多く、店頭でまだ販売されているドーナツとまったく同じ商品が半額以下で購入できるのだから、そのお得感は大きい。

中身について、クリスピー・クリーム・ドーナツマーケティング部の佐々木彩花氏は「定番のオリジナル・グレーズドはなるべく入れ、当店の味をいろいろ試して楽しんでいただきたいので多種類を詰め合わせるようにしている」と話しており、店の味をアピールする好機にもなっている。数量や中身は各店舗で異なるものの1日最大20バッグを販売し、ほぼ完売するという。ユーザーは「意外なことに約4割が当店のドーナツを初購入するという方」(佐々木氏)と、新規のファン獲得にもつながっている。

TGの展開により、同社は約3割のフードロス削減を実現した。「アプリで通知が来たら、つい注文してしまうというユーザーも多い。自身にとってもお得で、結果として社会貢献にもつながる。その気軽さが支持につながっているのでは」と佐々木氏は語る。

◆インバウンドが促す地域一体のサステナ推進

多くの大手外食企業ではサステナビリティへの取り組みが重要視されているが、個店レベルではまだ限定的で、業界全体の動きにまでは至っていないのが実情だ。日本の飲食店におけるサステナビリティ推進の現状と今後の可能性について、日本サステイナブル・レストラン協会の下田屋毅代表理事に話を聞いた。

●欧米旅行者中心の京都でSDGs加速

「現在、京都でホテルの飲食事業を中心として、サステナビリティ推進の動きが急速に広がっている」と、下田屋代表は話す。欧米の旅行者を中心に環境や社会への配慮といったサステナビリティの観点でホテルや飲食店を選ぶ例が増えており、インバウンド需要の大きい京都では個店といえどもサステナビリティの取り組みは必須事項となりつつあるという。「京都のホテルや旅行会社でも、海外の旅行者からサステナビリティへの取り組みについて質問されるケースが増えた。富裕層が行くハイエンドなホテルではその傾向が顕著」(下田屋代表)と、京都では今や個店も含めて地域ぐるみでのサステナビリティ対応が求められている。

「国際展示会・会議などMICEを誘致する上でも、今は地域一体でサステナビリティに取り組んでいる実態が求められるようになった。海外から参加者を招くイベントでは、会場だけでなく滞在中に利用する飲食店や周辺施設も評価の対象となる。地域内にサステナビリティに配慮した飲食店が十分にあるかどうかが、開催地選定の判断材料の一つになっている」と下田屋代表。そうしたニーズを受け、自治体や観光協会主導で飲食店を巻き込みながらサステナビリティを推進する事例も出てきており、この動きは今後加速しそうだ。

●脱・過剰包装に向けて店から見直しの働きかけを

不安定な世界情勢を背景に包材・資材などの供給不安が懸念されている現状だが、下田屋代表は「資源の使い方について意識を見直し、脱プラや過剰包装から転換する良いきっかけ」との見方をしている。生産者にとっても包装する手間やコストは大きく、「生産者や仕入れ業者の側から包装の見直しを提案するのは容易ではない。過剰包材を減らすためにも、飲食店側から『不要な包装は省いてほしい』と働き掛けることが重要」と話す。

●農地に関わることで生産者視点を持つ

同協会の独自の取り組みとして、今年から約1反の田んぼを借り受け、試験的なコメ作りを開始した。「今、耕作放棄地が増え、生産者が急速に減っている。高齢化した農家の多くは、農地を若い世代に積極的に引き継ぎたいと考えている。生産者を増やしていかなくてはならない」との問題意識から、現場を知るために始めた施策だ。

農地を運用し、農作物を生産する飲食店が少しずつではあるが実は近年、増えている。そうした飲食店に話を聞くと「従業員の意識改革につながった」「自ら育てた食材を料理に取り入れ、そのストーリーを発信することが店独自の魅力作りになっている」「食材に対する知識が深まった」「生産者同士の情報交流により店で活用する食材の幅が広がった」など、メリットも大きい。

「農地に関わることを飲食店にこそ薦めたい。生産地に足を運び、生産者の視点に立ち、生産者の思いを知り、消費者に伝える意味は大きい。飲食店オーナーから『飲食店関係者のセカンドキャリアとしても有効』といった声も上がっている」と、下田屋代表は提案する。

◆日本の料理人・シェフのサステナビリティ・マニフェスト

日本サステイナブル・レストラン協会が連携する農林水産省フードテック官民協議会サステナブルレストラン推進ワーキングチームでは、持続可能な食の未来の実現に向けて料理人が実践したい「2030年へ向けた17の指針」を策定。現在、サステナビリティに思いのあるシェフの理解と賛同を増やす活動を行っている。(https://srwt.jp/chefs-manifesto/)

【2030年へ向けた17の指針】

〈食文化の継承と多様性〉

・日本の食文化や伝統料理を理解し表現する

・世界の伝統料理との融合を模索する

・料理を通じて会話と笑顔を生み出し、人々の心を結びつける

〈調達〉

・生産者を支援し、地元産と旬の食材を使用する

・健康な土壌で生産された農産物を使用する

・絶滅危惧種や数が減少傾向にある魚の使用を避け、追跡が可能な水産物を使用する

・アニマルウェルフェアと環境に配慮した畜産物を使用する

・植物性食品を積極的に取り入れる

・食のサプライチェーンに関わる全ての人権を尊重し、環境にも配慮した調達を行う

〈環境〉

・エネルギーの使用を減らし、カーボンフットプリントを削減する

・食品ロスを削減し、食材を無駄なく活用する

・資源の使用を削減し、再利用やリサイクルを通じて無駄をなくす

・生産者と連携して生物多様性の保全と自然環境の回復に貢献する

〈社会〉

・誰もが公平に評価され、安心して働ける職場環境をつくる

・健康と地球環境に配慮した食事を提供する

・栄養バランスの取れた食事を提供する

・リーダーシップを発揮し、パートナーシップを締結して、サステナビリティの意識啓発を行う

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