これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(11)なにおいまさら権限委譲

1998.07.06 155号 22面

最近驚いたことがあった。5月19日の日経流通新聞の一面トップ記事に、「ファミレスの王者復活へ原点回帰」と出ているではないか。ファミレスとは、すかいらーくのファミリーレストランのことである。

記事の内容は、低迷している業績を上げるためにいろいろと手を打ったが、それが今大成功しているという内容である。そのいろいろな手とは、チェーンストア的な仕組みを変える改革であるという。

チェーンストア的なやり方とは、本部が何もかも考えてそれを強圧的にお店にやらせるやりかたである。すかいらーくは、その本部が何もかもやるやり方=チェーンストア的仕組みを変えようとしているというのだ。それは、各店長へ権限を大幅に委譲してある程度自由にやらせようということであるらしい。

(今まで書いてきたことを振り返ると、チェーン店の店長というのは何の権限もないのが普通である。ダイエーもマルエツも、すかいらーくもデニーズも、ほとんどのお店の店長には一万円の決済権限もないのが普通である。全く何も権限がないのが、チェーン店の店長であり、ただ本部が決めたことを忠実に実行するのが店長の役割なのである)

つまりありていに言えば、だんだん業績が悪くなってきたが、本部でいくらはっぱを掛けて「もっと頑張れ!」といっても効果がなくなってきた。だから今度は、店長に大きな責任を持たせ、「業績が悪ければ、給料下がりますよ! お店がちゃんとしてないと、格下げ・リストラしますよ! 最後には、会社にいてもらわなくてもいいんですよ!」といっているようなものである。

この記事を読んで、「オイオイ、それ本当なんですか?」と、つい新聞に話しかけてしまった。

ガストの時も、本当は全く駄目な状況にあるにもかかわらず、「ガストはすごい!ガストはすごい!」と、ほとんどのマスコミがちょうちん記事を書いていた。今になって「すかいらーくとガストは、実は低迷していたが再び躍進……」なのだろうか?

記事の真偽は問わないでおこう。大手マスコミが、一面でそう書いているなら間違いはないのだろうから……。でもここで疑問が残る。チェーンストア理論に基づいて経営をすると、最終的になぜこんな風になってしまうのだろうか?

チェーンストア理論は、企業の発展にとって決して悪い理論ではない。お店のスタイルや品ぞろえを標準化して、作業の分担を徹底して、すべて数値で表現し、マニュアルに基づいた運営を徹底すれば、企業は飛躍的に発展するのだ。事実、マクドナルドもケンタッキーも、吉野家もすかいらーくも、ほっかほっか亭もデニーズも、皆こうして急成長を実現してきた。

だがあくまでも、企業は急成長できるのだが、ほとんどのチェーンストアがある程度で行き詰まっているのである。その原因は、この理論に大きな見落とし部分があるからである。それはチェーンストア理論が、「人間」という複雑な存在を無視した経営理論だからである。

先回書いたように、「物事を数値で語れない人間はクズであり、絶対採用すべきではなく、もし間違って採用しても、一生肉体労働のみをやらせなければならない」なんていう採用基準はチェーンストアならではのものである。つまりチェーン理論は、人間的でない理論なのである。

工場の、ベルトコンベヤーを思い出してみよう。一九〇〇年代初頭にフォードが、自動車工場の大量生産化に成功、自動車を初めて大衆が買えるようにした。当時は、革命的出来事だった。それを成し得たのは、テーラーの理論=科学的管理法があったからである。

テーラーは、一九世紀末のアメリカの鉄鋼所の一技師であった。鉄鋼所で働いている労働者が、石炭をどのように積み込み運んだら一番合理的に短時間に目標達成ができるのかを研究し、それには作業を「標準化」「単純化」「分業化」し、目標を持たせ、その達成度合いに応じて報奨金を出せば、作業は驚くほど進むことを発見する。これを適応したところ、大変な業績に結びついたのである。これがテーラーイズム(主義)である。

しかし、一九二〇年台から工場労働者のストライキが世界各地で頻発し、ベルトコンベヤーの前に立たせて半強制的に労働させることに反発が強まった。チャップリンの「モダンタイムス」は、ベルトコンベヤーの前で苦しむ労働者を描き、こうした状況を大いに皮肉った映画として有名である。

テーラーイズムに基づいた理論が、チェーンストア理論である。それは人間という複雑でとらえどころのないものを、「こんなモノがあるから仕事がはかどらん!」といって、ばっさり捨ててしまったロボット理論である。

工場やセルフサービスのスーパーでは、これでいいのかも知れない。しかし、飲食業は人間が主役のサービス業である。イタリア風の素敵なレストラン、湯気が立ち上るおいしそうなパスタ、ぱらぱらと振り掛ける粉チーズ、そしてウエーターがにこやかな笑顔でワインを注ぐ、静かに流れるBGMはカンツォーネ。こんなシーンを演出しながら、ロボットみたいに裏でお店を運営できるだろうか。

形はできても、長続きはしない。その証拠に、少年向け料理漫画の世界やTVの「料理の達人」では、苦労してあみだした自慢の料理の対決というシーンばかりではないか?

チェーンストアが目指している、セントラルキッチンで集中調理し、冷凍状態でお店に運んで電子レンジで“チーン”などという調理の仕方をだれが望んでいるのだろうか。本当はそんなものは食べたくないのである。だれが宇宙食みたいなチューブ入りの食事をして満足するであろうか。このように、飲食業というのは人間臭い商売なのである。

すかいらーくに今一番欠けているのは、「店長への権限委譲」でも、売上げが上がれば君にお金バックしますよという「能力給」でもない。そんな経営の仕組み、労務管理のテクニックではないのだ。

プレハブ店舗ではない、もっと楽しくドキドキする雰囲気や内装・コンセプトのお店。調理人にしっかりした料理の腕があり、手作りで本当においしい料理の出るお店。ウエーターやウエートレスが、楽しそうに働いていて親切にサービスしてくれるお店。そして最後に、店長自身が笑顔で自信を持ってお客さまを心から迎えてくれるお店なのである。

われわれはそういった飲食店なら、ぜひ行きたいものであるが、今のすかいらーくではいくら小手先で改革しようが大したことはないと思ってしまうのである。

(仮面ライター)

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