ヘルシートーク:俳優・中村雅俊さん
長年連れ添った夫婦が、口に出しては言えない互いへの感謝の言葉を1枚のはがきに綴る応募企画「60歳のラブレター」。2000年からの募集で、日本中から8万6441通が寄せられたという。大きな反響と共感を得ているこの企画から着想を得て、映画が完成した。主演の中村雅俊さんに作品や撮影、ご自身の最近について伺った。
◆「卒業」のダスティン・ホフマンみたいな
ストーリーは3組のカップルのエピソードが織りなす展開になってまして、僕の役は、定年退職を目前にした大手建設会社の役員。かなり自信家で嫌みもあるタイプ。順風満帆な人生なのに、自ら離婚という選択をして別の女性と一緒にやっていこうと。ところがそこからどんどん挫折していき、揚げ句のはてに最後、とんでもないわがままで強引な行動に出ます。元妻が別の幸せをつかむかもしれない場面で、「卒業」のダスティン・ホフマンみたいに突き進んでいっちゃうんです。
映画を観た人からは「分かる」「いや、ちょっと」と賛否両論。女性と男性で見方が違うみたいですね。女性、特に若い層からは「あれはないでしょう」という反応が(笑)。比較的年齢の高い女性からは「ああいうダンナの気持ち、男心というのも分からないではない」という意見もあります。ある大学の先輩の女性は、見終わった後すぐ電話をくれて、「すごく泣いちゃったわよ」と言ってくれました。
◆ラストシーンは、ほかにもありました
比較的に良き家庭人の役が多かったので、「驚いた」という感想もいただきましたが、自分の中では非常に面白い役でした。変化していく振れ幅が大きい役は、演じていて魅力的だし。一人の男の生き様として微笑ましいとも思えます。人間すべてのことにパーフェクトでいるわけはないので。落ちるところまで落ちる負の体験の中で、自分にとって一番大事なものに気づく。ここまで極端でなくとも、「俺が仕事を一生懸命頑張ることが、イコール家庭の幸せだ」と思いこんでいる男は多いと思います。ところがパートナーの女性のプライオリティは、必ずしもそうじゃない、そういうことはありますね。
ラストシーンをどうするかは、いろんな考え方があって。ラベンダー畑で新しい恋人とデートしている元妻を遠くから見て、ひるんじゃってもう声も出せないとか。勇気を振り絞って突進したものの、あっけなくフラレちゃうとかね。名作「カサブランカ」にも、もう一つのラストがあったというでしょう。本当の人生ではどうなるか、分かりませんね。
◆「階段」の思い出
映画ではイッセー尾形さんがビートルズの「ミッシェル」を弾き語りで熱唱していますが、撮影現場では僕がいつも歌ってました。
車の中にギターは積んでいるので、時間があるとすぐ。いまの主人公の立場と気持ちを象徴するような、打ちっ放しの倉庫みたいな、吹き抜けの急な階段のあるビルが登場しています。ここは本当は都内の専門学校の裏の階段なんです。そこに座っていて、いくつかの演出のアイデアも生まれました。ある日ぽつんとできた撮影の合間、階段に座って、歌ったりハーモニカ吹いたりして一人で盛り上がっていて、あっと気がついたら休み時間に入った学生たちが、ずらーっと並んで観てくれてて。「おお~」と拍手されたりね。
◆蒸し野菜は、おいしいですね
大好きな何げないシーンがあります。主人公がどん底の中、偶然にも自分の前の家に戻って元妻と会ってしまう。空腹なのを見透かされ、しょうがないなと彼女はあり合わせの手料理を出す。干物を焼いてごはんにみそ汁くらいの。思わず「おいしい…」って言葉を漏らし、「そんなこと、初めて聞いた」みたいに言われるんです。「前も言ってたはずだ…」と小さな声で応戦するんですけどね(笑)。
食事は大事ですね。実生活では、結構バランスがいいかもしれないです。基本的に外食よりは家で食べる方が多い。ウチの妻(女優の五十嵐淳子さん)は、女優業はあまり好きじゃないですけれど、料理とか庭づくりは大好きなので。僕は蒸したものが好きなんです。大好物のアワビも時間をかけてせいろで蒸して。野菜も温野菜がいいですね。蒸したのを何もつけずにそのまま食べるだけ。食材の味が感じ取れて、いくらでも食べられます。
元気に役者をやっていくためにも、健康でいたい。特に気にして何かすることはないですが、昔みたいに酔いつぶれるまで飲むことはなくなりました。それから、この頃はよく寝るようになりましたね。僕自身も気づきの多い作品に出会って、日常の何げないことも大事にしていきたいなと、思いましたよ。
○プロフィール
なかむら・まさとし 1951年、宮城県生まれ。74年NTVドラマ「われら青春!」主役に抜擢されデビュー。同年のエランドール賞を受賞する。以後、「俺たちの旅」(NTV/75~76)、「ゆうひが丘の総理大臣」(NTV/78~79)など。歌手としても「心の色」「恋人も濡れる街角」など多くのヒット曲を持つ。
2009年5月19~31日、東京芸術劇場で舞台「僕たちの好きだった革命」(企画・原作・脚本・演出 鴻上尚史)に出演。http://www.thirdstage.com/knet/revolution2009/index.html
◆映画「60歳のラブレター」5月16日(土)全国ロードショー 配給:松竹
出演は他に、原田美枝子、井上順、戸田恵子、イッセー尾形、綾戸智恵ほか。監督:深川栄洋 脚本:古沢良太 (C)2009 フィルムパートナーズ 公式HP http://www.roku-love.com/














