家庭レベルにまで広がる日本産「地ジビエ」 地域ブランド化の可能性は

「ジビエ」という言葉は、ひと昔前までは一部の食通にしか知られていなかった。しかし、農林水産省や自治体の野生鳥獣被害対策の一環で食材名称として使用されるようになったことで、急速に食シーンの一般名詞となりつつある。元々、冬の狩猟シーズンには、ぼたん鍋(いのしし)や鴨鍋などで食されてきた歴史をもつ日本の野生鳥獣だが、ここにきてその食材としての可能性が都市部、そして家庭の食卓レベルにまで広がっていることに注目したい。

ECサイトでも簡単に手に入るようになったジビエ

2019年冬現在、3大EC(電子商取引)サイトといわれる、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングの食品カテゴリで「ジビエ」を検索するとかなりの数がヒット。しかも、海外からの輸入ものに加えて、イノシシ肉、鹿肉、熊肉など、日本産のジビエが相当数あり、誰でも簡単に手に入れることができる。

そして、日本産ジビエには「〇〇県産」など、狩猟地域、加工場所を明記したものが多い。つまり「地ジビエ」というわけだ。これは、「鳥獣被害防止対策支援事業」「ジビエ倍増モデル整備事業」などによって、国内の鳥獣処理加工施設が急増したことも大きく関与していると考えられる。

山口県産「長州ジビエ」の鹿もも肉

従来の「ぼたん鍋用イノシシ肉」以外にもバリエーションが増えてきたため、筆者もECサイトでジビエを購入することが増えた。今回購入したのは山口県産「長州ジビエ」の鹿もも肉だ。

通常価格は1kg2730円(税込み)。今回はブロックで購入した。解凍して切り分けると、ほとんど脂肪がない赤身で、みるからにヘルシー。

ほとんど脂肪がない赤身の鹿もも肉

一見、ステーキでもいけそうに思えるが、実際は脂がなく、すじのないところでもかなり固い肉質のため、一般家庭でシンプルに焼いて食べるには少々厳しいかもしれない(もちろん、ロースや肩ロースなどの部位を選べば、焼き肉としても十分楽しめる)。

そこで今回はワイン煮込みにしてみた。ほのかな野性味がより食欲をそそる。大ぶりに切った肉で食べ応え十分だが、コスト的には牛肉で作ったときの3分の1程度というのがありがたい。

鹿もも肉のワイン煮込み

インパクトがあるうえ、コストパフォーマンスが良い日本の野生鹿肉は、飲食店はもちろん、惣菜店などでも使いやすい素材ではないかとあらためて感じた。

「ふるさと納税」もジビエの日常化に一役買う

「ふるさと納税」の返礼品にも地ジビエが増えてきていることをご存じだろうか。

岐阜県山県市、奈良県五條市、徳島県那珂町、鳥取県日南町、大分県杵築市、佐賀県神埼市、熊本県球磨村など、いくつもの自治体が返礼品にジビエを加え、それぞれ、ジビエの個性的な味わいや、栄養の豊富さなどをアピールしている。

ジビエの返礼品には、肉そのものと加工品があるが、こちらは、長崎県対馬市の返礼品「島ジビエ」。害獣として駆除したイノシシ、鹿を使ったシャルキュトリ(フランス式の肉加工品)だ。

長崎県対馬市の「島ジビエ」

イノシシのベーコン、イノシシ肉を使ったパテ・ドゥ・カンパーニュとレバーパテ、鹿肉とイノシシ肉を使ったモザイクソーセージの詰め合わせで、どれも本場フランスのものにひけをとらない味わいに仕上がっている。

長崎県対馬市の「島ジビエ」

野生鳥獣被害対策として、ジビエを捕獲・食肉加工しても販路が難しいという話も聞くが、地域ブランドとして確立していくことも必要になってくるのだろう。また、対馬の「島ジビエ」のように、卓抜した加工技術で「ほかにはないおいしさ」を創り出すことも今後のジビエ販路の拡大につながると考えられる。

気軽な外食でもジビエが味わえる時代に

ジビエを味わいに行くならハイクラスなフランス料理店というのが一般的。また、日本古来のぼたん鍋も料理店で味わうとなると決して気軽に楽しめる価格ではない。

「近江日野産 天然鹿カレー」

それを打ち破ったのが滋賀県で「カレーハウスCoCo壱番屋」をフランチャイズ展開する株式会社アドバンスだ。県内の11店舗で、地元猟友会と協力して滋賀県産の鹿を使った「近江日野産 天然鹿カレー」をオンメニューしている。

一皿に、ひと口大の鹿肉が5切れ程度。鹿肉ならではの風味を残しつつ、食べやすく仕上げられている。

「近江日野産 天然鹿カレー」

ジビエならではのクセが強いと初めての人には食べにくいだろうし、かといって消しすぎると風味のない牛肉のようになってしまい「鹿肉を食べたい」という要求に応えられない。そのバランスをうまく考えた使い方に驚かされた。

スパイシーなカレーソースの中でもジビエの個性が生きていて満足感が高い。しかも、966円(税込み)という価格でジビエが味わえるのは画期的といえる。

認知度が上がったことで新たな参入の可能性も広がる地ジビエ

野生鳥獣被害対策で各地に処理施設も建設され、これからはその販路が今以上に問題になってくる日本のジビエ。新しい食文化として根付かせるためにも、関係業界の協力は必須といえる。

「ジビエ」という言葉の認知度も上がってきている今こそ、飲食業以外にも多くの業態がジビエに取り組む可能性が見えてきたのではないだろうか。(フードライター・料理研究家 松本葉子)