コロナ禍に苦しむ農業大国オランダ 輸出できない農産物は破格値で消費者へ

2020年3月に始まったロックダウンからオランダの飲食店は休業、もしくは条件付きのみの開店を強いられ続けている。夏場のテラス席のみの営業を除けば、ほぼ丸1年閉鎖している状況だ。現在、テークアウトに切り換えての営業をしている店舗もあるが、完全閉店の店舗も少なくない。そして飲食店の休業は、飲食店のみの問題ではない。食材を卸す業者や、食材を生産する農家にも、大きな影響を与えている。

農産物輸出で世界2位

コロナ禍で流通危惧のうわさが流れ、生活者がパニックになった昨年の3月も、政府は「食品は十分にあるので買いだめをしないように」との警告を出した。それもそのはず、オランダは、農産物輸出量に関しては、米国に次ぎ世界第2位を誇る農業大国なのだ。

野菜や花を欧州各国に輸出しているオランダでは、各国の飲食店の急な閉鎖により行き場のなくなった食材や花が輸出の道を断たれ、生産者の倉庫で所狭しと積まれていたのだ。途方に暮れた関連業者や生産者達。そこで「どうにか収穫物が無駄にならないような対策を」と考えあぐねて出された案が、一般消費者への提供だった。

消費者向けの野菜や果物の詰め合わせ

業者が手を組みSNSで販売告知

とはいえ「どんなルートで?」「価格設定は?」など課題は多々あった。一般消費者との接点を見つけ、情報を拡散させて商品をさばく方法として、業界はSNSでの情報提供に目を向けた。農産物生産業者や飲食店への中間取引業者や、加工業者が手を組み、オランダ各地で、ジャガイモ農家、リンゴやナシ農家、野菜農家や畜産業者などのさまざまな企業がそれぞれにSNSでの販売告知を行っている。

配達の有無などの多少の条件の違いはあれど、同様の営業形態で過剰品を安く提供することに成功しているようだ。

行き場を失っているオランダの野菜

詰め合わせにして半額以下で販売も

SNSで拡散された情報をもとに筆者も定期的に購入している業者がある。今回は、その業者を一例としてご紹介しよう。

購入先は、飲食店専門の野菜加工業者。本来は野菜のカットや加工をしているが、今は週に2日、入荷した野菜、果物、肉、花、チーズ、乳製品やジュースなどを破格値で販売している。商品は、野菜や果物は詰め合わせがメーンで、そのほか「ジャガイモ10kg」「玉ネギ5kg」など、地元の生産者から買い取ったものだ。ほとんどは地元産で、本来なら飲食店で消費されるはずだったもの。

消費者向けの肉の詰め合わせ

気になる価格は「野菜、果物の詰め合わせ」は10ユーロ、「ジャガイモ10kg」は4ユーロ、「玉ネギ5kg」は 3ユーロ、「チューリップ50本」は10ユーロ、「肉の詰め合わせ」は15ユーロ。野菜や果物は毎度、内容が変わる。

ちなみに通常小売価格だと「ジャガイモ3kg」で3ユーロ、「玉ネギ1kg」で1.1ユーロ 、「チューリップ10本」で3ユーロなので、通常の半額以下だ。

配達は地域にもよるが、近隣であれば一律2.5ユーロ。現地で予約なしで購入しようとすると、現金のみの支払いとなる。地域を助け、自分の財布も助けるという企画に、知名度が上がっている。一度の購入量が多いので、友達と分ける人も多いようだ。(オランダ在住フードコンサルタント 白神三津恵)

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