平均寿命百歳の会に音頭 「スジャータ」開発から20年 名古屋製酪・日比孝吉社長
名古屋製酪という社名は知らなくても「スジャータ」という商品なら、「ああ、あれか」と分かる人も多いだろう。日比孝吉氏は、この家庭用コーヒークリームフレッシュ「スジャータ」を20年前に開発。今日につながる躍進のきっかけをつくった。その後、ヘルシー、ナチュラル、長寿を意識しての商品を意欲的に開発。そしていま、平均寿命百歳を願う「健康と長寿の会」を提唱、食を通じて人々に健康と幸せを‐‐と、氏の夢は無限に広がる。
その昔、長い間の苦行で疲労こんぱいし、菩提樹の下で休息していたお釈迦様は、インドの娘“スジャータ”の差し出す牛乳を飲み、「醍醐味だ!」と大変喜び、元気を回復されたという。
その娘の名にちなんで商品名を「スジャータ」と付けた。これでも分かるように、氏は篤信家としてつとに有名だ。「健康で、お金と暇ができ、一一五歳以上も長生きして毎日が楽しい。そんな“陽気ぐらし”を実現させたいですね。この想いを食生活に反映させ、健康と長寿への願いにしっかりお応えしたい。おいしさに感謝する、祈りにも似た心を大切に幸福を育んでいきたい」。
そうした“報恩・奉仕・繁栄”をバックボーンに、野菜や果物の品種改良や医療、公害防止など、さまざまな分野で応用されているバイオテクノロジーに着目し、新しい健康食品として開発したのが、がんや白血病の治療、強壮効果など、さまざまな効用で知られる「無臭ニンニク・蓬莱(ほうらい)」。無料配布してファンを広げている。
「昨年12月に浜松で世界的ながん学会が開かれ、アメリカからデザイナーフーズが出品されましたが、そのトップがニンニクでした。無臭ニンニクは生を絞るわけですが、ビタミンEの強いごま油とか、もっと高級な油を混ぜると、ニンニクの精を捨てて臭わないんですね。理論は簡単なんですが、もちろん特許を申請しています。それによって、一番大切なアホエンという物質が増えるんですね」。
このアホエンは最近の研究で、血小板凝集抑制、抗菌性、発がん抑制、抗ウイルス性、脂肪代謝の抑制などの作用があると分かり、これらを総合すると、アホエンは心臓病、動脈硬化、脳血栓などの心臓血管系の病気の予防に効果があるのではないかと期待されている。アホエンを含有している商品は「蓬莱」以外にまだ見つかっていないともいう。
「無料配布は実は一〇万人を目標に始まったわけですが、いまやっと四万人になりました。一番多い送り先は和歌山県の私の同級生の漁師ですね。もうお一人は、先の世界体操大会で有名になった福井県は鯖江の市長さん。正月のお年玉に当社のにんにくの本と一緒に市長さんを経由して約五〇〇名に配りました。そのあと、この市長さんが『日比さん、タダはあり得ないから、何か落とし穴があるんじゃないか』という。そうじゃないんです。喜んでいただき、スジャータの宣伝をしてもらえばそれでいいんです」。
「花王では丸田さんが社長交代の時お見えになって、売上げ五〇〇〇億円に対して宣伝費五〇〇億円、一割を使っているというお話でした。当社は小売価格一万円の蓬莱を一〇万人に無料配布することになると、一〇〇億円の宣伝費をかけることになる。その時に、花王の五〇〇億円とどういう違いが出るのかなあ、という考えなんです」と余裕しゃくしゃく。「アホエンなど、夢にも思わないものがぼっと出てくるのは、四万人の喜びの反応ですね。これがバイオで出来たら、人類救済のノーベル賞ものですよ」。
だが、経営すべて順風満帆だったわけではない。八年前の晩秋、生産ラインの一本のノズルがトラブルを起こし、製品に過酸化水素が混入するという事故が発生し、話題になった。製品を回収し原因を究明して難局を乗り切ったが、以来、毎年11月を「酸化水素事故○周年記念」と決め、工場の一斉メンテナンスを行なって戒めている。その後、無事故であることはもちろん。とりわけ、鮮度管理に全力を傾注する。「おいしさには、まず新鮮さが大切。焙煎仕立ての鮮度で好評を得ているIFCコーヒーをはじめ、全商品の“鮮度革命”をさらに推進しています」。
そして、平均寿命百歳を願っての「健康と長寿の会」の提唱。氏にとって、企業人としてこれこそ最終に目指す目的だ。「名古屋のお医者さんの会合の時、名古屋大の教授が『これからは人生百歳の時代だ』といわれました。当社は昔から平均寿命百歳の会をやっているわけです。そうしたら、お医者さんが『百歳の会を作ろう』、それで「めいらく」が音頭をとれという。いまアトピーの子供も多いですが、百歳の問題は、やはりそういう問題も取り上げなければいけません。食生活の改善が必要ですね」。
名古屋製酪は四六年に個人創業以来、今年で五〇周年。また、氏が深く帰依する天理教は今年が教祖一一〇年祭。さらに初代社長夫人が亡くなって三〇年という大きな節目の年。「スジャータ」は二〇年間伸び続けて、現在日産一〇〇〇万個の世界一。九〇年に開発・発売した「IFCコーヒー」はここへきて、一気に三倍増。ジュース、コーンスープなども店頭で高いシェアを持ち、各品目とも商品力は抜群。今期の売上げ目標も一〇〇〇億円に設定して、その意気は天を衝く勢いだ。氏にとって、食生活を通じての奉仕の精神を実践し、繁栄と幸福の拡大を目指しての毎日が続く。
◆ひびたかよし氏のプロフィル
二八年6月2日生まれ。静岡県出身。四六年3月名古屋市立第一工業卒。五二年入社。七一年社長に就任。趣味はゴルフ、謡曲、読書。