だから素敵! あの人のヘルシートーク:俳優・中村梅雀さん

2004.04.10 105号 4面

舞台にテレビ、古典物から現代家族のコメディーまで、八面六臂で個性的な人物を演じる中村梅雀さん。最近ではNHK朝の連続テレビ小説『てるてる家族』で、食品業界大御所的存在のインスタントラーメン開発者、日清食品・安藤百福さんがモデルの安西千吉役を好演した。それら役作りの秘密、多忙を支える健康法を聞いた。

‐「安西千吉」の役作りは、どうやってされたのですか。

インタビュー番組の映像をみたり、日清食品の方に伺ったり、ネットで調べたりいろいろしました。まず好奇心が強くて子供のような心を持っている。これだって言ったら譲らない、いたずらっぽくて茶目っ気があって、激しくて圧倒的で。一時代を築いたトップの原動力にはそんなところがあると僕は思います。

戦後復興期、時代がまた熱かったでしょう。考えてみればとんでもない方向転換じゃないですか。だって人生半ばまで食品関係の仕事じゃなかった。それがあの屋台のラーメンの長い行列を見た瞬間から、「これだ!」とインスタントラーメン開発の渦の中に突進していく。そこには人生観を変えるほどのインパクトがあった、生き甲斐を見つける一手を見つけたんだと思います。『てるてる家族』のテーマも、姉妹たちが悩みながらも自分の生き甲斐、生きる道を見つけていくということでしょう。それを秋子や冬子たちに見せる、一つの例として千吉の存在があった。

役作りのイメージとしては、実は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシン発明家「ドク」のイメージがありました。「どういう風にしますか」と演出家にたずねられ答えたところ、全く同じ意見だったんです。「だったら白衣、メガネもかけましょう!」となりました。ちょっとエキセントリックにね。「これだ!」ってなったら、わーっと行って、中空を眺めて「あっ」とひらめく、そんな感じ。

それは実際の百福さんとは違っているかもしれません。脚本になって演技になったら、演技者自身の身体になっちゃうので。でもいままで誰も演じたことのない人物というのは、役者にとって嬉しいものですよ。嬉々としてやらせていただきました。

‐九五年の大河ドラマ『八代将軍吉宗』の「家重」役以来、個性的な役柄が多いですね。

なんでこんな難しい役ばかり押し寄せてくるのかなと。本番までにこの役を自分の中にちゃんと存在させられるだろうかという恐怖心と、いつも闘っています。でも何とかなる。それはやはりあの家重の役作りで得た体験が大きかったです。

家重に関する資料は少ないですが、図書館の知り合いが集められる限りを集めてくれた。それで運動機能と言語機能に障害を持っていたことが分かった。産まれた時の母体の産道狭窄の影響です。知能的には非常に優れ、優しい心も持っていたけれど、学習したものを伝えることができないので段々意欲をなくしていく。曲がっていってしまう。そんなイメージが浮かび上がってきて。

最初は勉強のために聾唖学校や障害者のための職業訓練校を回りました。そこで臨床心理学の先生をご紹介いただいて。家重の資料でお話ししていたんですが、そのうち「ところで梅雀さん、あなたはどうなんですか」と聞かれ、話が進むうち「家重はあなた自身じゃないですか」と指摘してくれた。

家重さんが一番苦しんだのは、「嫡男だから将軍職を継げ」という圧倒的なプレッシャー。次に、武芸も学問も優秀な二人の異母弟に対する劣等感。それから母親に対する思い。家重の母は、彼の出産時に重ねて、第二子の難産のあげくに死んだと思われます。

実は僕にも同じような経験があった。父からは「お前は何になってもいいんだよ」と言われながらも、無言のプレッシャーはあった。それから僕には弟と妹がいたけれど、母の妊娠中毒のため生まれてすぐ亡くなっている。夜中に突然救急車が来て、担架で母親が運ばれていく映像がいまでも記憶の中に残っています。その後しばらくは親戚の家に預けられて育ちましたが、そこはいとこたちの世界です。居場所がない思いで幼少期を過ごし、母親が連れて行かれちゃった喪失感も知っている。「その時の思いがあなたの中に残っているはずですよ」と。

僕はそれまでその障害をどう表現しようとか、形ばかりを考えていた。精神面はどうやって追いつくのか、全く分からなかった。その言葉でまるきりラクになったんです。

この経験は僕にとって目から鱗でしたね。生まれ育った環境、環境に存在している歴史、それによって人間のいろんな性格が形作られる。その人がドラマの中でなぜいまこういう行動をとるかが割り出されてくる。それがはっきりと分かった。

テレビ局は最初、あそこまで徹底的に家重を演じることに反対だったんです。タブーでもありました。それを一所懸命後押しして下さったのが主役の西田敏行さんたち。そういう脚本を描いてしまうジェームス三木さんという人。これに僕自身の探求心、かすかな賭けに出られる、自信まではいかない開き直り。そういうものが合わさってあの家重役はできたんです。

実はちょうどその頃、僕は離婚する時でした。それまで自分は何歳で結婚して何歳で子供ができて、年を重ね役を重ね…という青写真、理想像がありました。離婚というバツをつけることは計算になかったんです。その理想が崩れた。そこでもう俺は何て言われたっていいと思った。役者・中村梅雀の人生は一回しかないんだから、役者の道を徹底しなきゃと。そういう開き直りのパワー、飛び込んでいく勇気があったんでしょう。

舞台の仕事がとても増えているのですが、映像の本数は変わってない。いま倒れたら仕事に穴を開け大変なことになると自覚しているので、健康管理にはとても気を遣っています。

まずは食事。全部自分で作ります。野菜が好きなんで冷蔵庫にたくさんの種類をストックしておいて、朝、一〇種類以上使った料理を作ります。野菜を少しずつ、その日の気分に合った料理に変えていくわけです。ラタトゥイユ風にしてみたり、具だくさんのパスタにしてみたり、スープにしてご飯と食べたり。

今朝はカレーにしたんですよ。具はニンニク・鷹の爪・タマネギ・トマト・ニンジン・シイタケ・インゲン・キヌサヤ・ピーマン・ナス。それに調合したカレー粉とガラムマサラを入れて。手際はいいですね。三〇分あればどんな料理でもできます。最初に用意しておいた方がいいもの、例えば今朝のカレーなら、ニンニク・鷹の爪のオイルを作るためにニンニクは先に刻みます。あとタマネギも一番最初に刻んで空気にさらした方が身体のためにいい。後は、最後に入れる物から逆コースでお皿にためておく。炒めたニンニクがいい香りになったところで、タマネギをパァーっと入れて、次にニンジン、火が通ったあたりでトマト、皮がはがれるようになってきたら白ワインで溶けるまで。お肉はしゃぶしゃぶ用のを手でちぎって入れました。

どうせ自分に食べさせるなら自分が健康になるよう、おいしい料理を食べようと思いまして。好きな店に行っては研究したり。いまはもうその時の気分で何が足りないか、野菜の色で分かります。

朝さえきちんと食べればあとは軽くて済む。いま役作り上の減量があって、なるべく夜に向けて軽くしなければいけないので。

運動は、家で胸筋まで鍛えられる方法で腹筋を。街を歩いている時は、信号が変わったらすぐ横断歩道を走る、駅の階段を二段飛びで上がるなど、日常の中で工夫しています。続けられる方法でやるのが一番ですね。

◆プロフィル

なかむら・ばいじゃく 1955年、東京生まれ。祖父は前進座の創立者の1人・三世中村翫右衛門、父は四世中村梅之助。舞台以外に『八代将軍吉宗』『毛利元就』『葵~徳川三代』などのNHK大河ドラマをはじめ数多くの映画・ドラマに出演。ギタリスト松原正樹氏のアルバム「The Guitar Bros」に曲を提供するなど、ベーシストしても活躍中。

精神的な切り替えが最高の健康法と思っていますが、これには何と言っても音楽。家でも車を運転している時もいつも何かかかっています。中学時代、友だちとバンドを組んで以来担当はベース、いまベースとギターを合計してコレクションは47本(笑)。テレビのギャラをコツコツと貯めてはつぎ込んじゃってますね。おかげさまで日本の主立ったプロベーシストが集っている「地下室の会(http//:www.bassment-party.)」にも入れていただきました。嬉しくてね。

中村梅雀さんの華麗なベースプレイは、「地下室の会」メンバー100人突破記念のライブで披露される。

●6月30日19時開演 東京・下北沢「CLUB 251」

電話03・5481・4141

前進座五月国立劇場公演は『通し狂言 つま模様沖津白浪‐奴の小万』と『舞踏 供奴』(5月13~23日)

「笑いあり、涙ありの女盗賊の話です。一人の女性が女盗賊の首領になっていく主筋の中に、恋とお家騒動が。僕の役は道化役。『供奴』は、大好きな中村富十郎さんの一八番。小気味よい供奴といわれるように頑張ります。飛び出してきた時の五月人形のような丸い、ほっこりとした豊かさ、柔らかさ、切れ味。挑戦中です。

前進座 電話0422・49・2811

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