ア五輪まで秒読み マラソン日本代表・実井謙二郎さん

1996.04.10 7号 4面

一九九六年7月19日、記念すべき百周年オリンピックがアメリカジョージア州アトランタで開催される。日本がメダルを狙える種目の一つマラソンは、注目度が高くオリンピックのメーン競技・陸上のなかでも国民的な期待が集まる競技だ。

アトランタは高温、高湿度の気候状況に加えコースはアップダウンの激しいサバイバルコースという。選考は男女とも五つのレースの成績からそれぞれ三名の選手が選ばれた。男子は実井謙二郎、大家正喜、谷口浩美、女子は真木和、浅利純子、有森裕子。手に入れた大きな夢、アトランタに向かってスタートを切った日本選手団。実井謙二郎さんは、走っている時の眼光鋭く険しい顔とは別人のような穏やかな顔で現れた。日本国中の期待を背負って走る今の心境を語ってもらった。

四年に一度しかない大会「オリンピック」の代表選手に選ばれ、とても嬉しいです。

楽な道では代表は取れない、ハングリー精神を忘れず戦ってきたことが良い結果につながりました。

オリンピックが終わった時にもこのようにマスコミに取り上げられるように頑張りたいです。

アトランタではサバイバルなレースになると思いますが、これから本番に向け自分が納得のいく練習、やれるだけの練習ができればオリンピックでいい成績を出せる自信はあります。二時間八分台の記録は一度しか出していませんが、このタイムがあれば世界のどこの選手とも互角に戦えると思っています。

谷口選手が、九一年の世界陸上で優勝した時には本当に感激しました。アトランタでそのベテランの谷口選手と一緒に走れることは私にとって良い経験になると思います。

レース経験の豊富な谷口選手にとっては厳しいコースだからこそ走りやすいコースでもあるでしょう。僕は谷口選手を見ながら懸命に走りますよ。

九三年のびわ湖毎日マラソンで惨敗したとき「このままで終わりたくない」と奮起しましたね。その後メキシコに一人で武者修行に行ったんです。プロのような考えをもって走る選手たちに出会えたことは本当にプラスになりました。同じ日本人選手と合宿するのと違い甘えが許されず、でも半面では自由に行動できるという点で精神的にも成長出来たと思います。その時の仲間が今度はライバルです。メキシコで練習していたとき、彼らとは大人と子どものような差がありました。だから彼らは僕がこのタイムを出したことには驚いたんじゃないかな。本人の私自身も驚いていますけれどね。(笑)

メキシコでは食事も自炊をしていたんですよ。やはり和食を多く作っていました。仲間にもあげたけど、まずいのか誰も食べないんですよ。現在は会社の二階にあるフーディアムキッチンで選手用の特別メニューを食べています。中華が中心でカルシウムを補うために牛乳は飲みます。ビタミンCを多く取るために野菜も必ず付いています。僕は何でも食べますよ。嫌いな食べ物もないけれど、特別好きなものもない。作っていただいたものはすべて食べるようにしています。量は多く食べるべきだと思う時期なら結構食べますね。

走っている途中の給水では東京国際マラソンの時からコーラのガス抜きを飲んでいます。南アフリカの選手がそうだと聞いてやってみたら自己記録が出せたのでそれからはずっと同じものにしています。

期待が大きいと分かっている分だけプレッシャーもありますが、本番までリラックスして楽しみたいですね。人間を分析するのが結構好きなんです。よその国の人がどんな人なのかと考えたりするのは楽しいですよ。オリンピックはいろんな国の人たちが集まるからきっとそんなことを考えながら過ごすんじゃないかな。

今後は8日からマラソン選手全員でアトランタに入りコースの確認などを行う予定です。その後メキシコかあるいはアメリカのコロラドで海外合宿を組む予定です。6月、7月は日本で最後の仕上げを行い万全の体調で臨みたいです。「苦中有楽」‐‐苦しい中にも楽しいことを見い出しながらリラックスして全力で頑張ります。

オリンピックという巨大な大会では、メダルを手にするための三つのパターンがある。

一つ目は若さと勢いで一気にメダルを手にするパターン。二つ目に超ベテラン選手が制するパターン。三つ目が最も重要で、自分の競技に必要以上にこだわれる選手が制するパターン。トレーニングメニュー、スタイル、臨む姿勢など自分のオリジナルで臨むことができ、あくまでも自分のレースをやれる選手がメダルを手にする。

実井は日本で初めてクロスカントリーにこだわった選手。レースも自分のオリジナルの組立てをし、相手の戦術より自分の戦術を最優先する。一〇キロ、二〇キロと距離が行くほど自分の持ち味を出していける。三つ目のパターンが本番でできるならメダルの可能性は高いだろう。

選考レースのうち最も厳しいレースの東京国際マラソンで勝てなければ、アトランタでの上位入賞は狙えない。一番厳しい道を選択しながらアトランタへの道を探ってきた。条件の厳しいレースになればなるほど基本動作がポイントになる。

実井の素質と意外性が脚筋力と結びつけばかなり期待出来る。今回は運良く本人が力走してくれ日本の代表となれた。光栄と同時に責任の重大さを痛感している。

実井選手が日本の代表選手としてオリンピックに参加することは日清食品にとって大変嬉しいニュースです。私は戦後食べ物のない、みじめな思いをよく知っています。食べ物を豊かにすれば世の中がほがらかになると思い、食べ物屋になりました。でも豊かになりすぎてエネルギーが溢れ、発散するところがない。そこで日清食品は「日清スポーツ振興財団」を設立しました。

陸上部においてはいい監督と選手が揃い、ここまでよく頑張ってくれました。ここまでは日清食品の選手として戦ってきましたが、これからは日本の代表として戦っていく選手です。変わらぬ応援をいただきたいと願うと同時に、私も応援しております。

◆プロフィル◆

▽じつい・けんじろう=一九六八年12月16日生まれ、岐阜県出身、身長一六六センチ、体重五三キログラム

中京商業高校時代にインターハイ、全国高校駅伝などで活躍。大東文化大学では箱根駅伝で「花の二区」を走り同校の二連勝に大きく貢献。九六年東京国際マラソン四位。二時間八分五〇秒の記録。現在は日清食品株式会社所属。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

関連ワード: 日清食品