RTD特集
◆RTD特集:追い風受け、さらに躍進 高付加価値品が浸透
缶入りチューハイをはじめとするRTD(レディー・トゥー・ドリンク)市場に、さらなる追い風が吹いている。外出自粛による巣ごもり消費で、家庭内での飲酒が増加。加えて昨年10月の酒税改正で、競合分野のビール系新ジャンルが値上がりしたこともプラスに働く。商品面では、レモンサワーを中心に多様化や細分化が一層進み、高付加価値の商品も市場に根付き始めるなど、目が離せない状況だ。過去最大の市場規模更新に向け、21年もひた走る。(本特集内、ケースは250ml缶×24本換算)(丸山正和)
●総市場5年続け2桁増
RTD総市場は20年、前年比10~11%増の約2億6000万ケースで着地し、過去最大量を更新した。13年連続のプラスに加え5年連続の2桁増と、微減基調が続く酒類市場全体のけん引役を果たしている。
昨年10月には段階的な酒税改正の第1弾が実施となり、RTDは据え置きの一方、競合のビール系新ジャンルが税率アップとともに店頭価格が上昇。さらに“RTD一人勝ち”の様相を強くした。
23年、26年と2度の改正が控えるが、最終段階までRTDの優勢は続きそう。キリンビールの試算では、26年時点でRTDの市場規模は20年比1.3倍まで増えるとされる。引き続き長期的な躍進が確実視されている。
数年前まではアルコール分9%といった高アルコールのストロング系が、経済性の高さで支持されてきたが、昨年来のコロナ禍もあり状勢が変わってきている。
コロナ影響による家飲み増加により、RTDは購入者数、購入率、購入金額が上昇。これまでのビール類やワイン、焼酎といった他分野ユーザーのシフトに加え、酒類をあまり飲まなかった新規ライトユーザー層の流入で、間口が広がるとともに奥行きも増している。
近年ではストロング系だけでなく、4~5%程度のスタンダード帯や3%程度の低アル帯も盛り返しを見せる。新規に増えたライト層に対しては、ストロング系よりもアルコール度数を抑えた商品のほうが受け入れられやすいこともあろう。
果実系を中心に多彩なフレーバーを誇るRTDだが、約半数を占めるのがレモンフレーバー。ここ数年、居酒屋起点のレモンサワーブームが続いているが、コロナ影響もあり、家庭用アイテムへと本格的に飛び火。商品数が増えただけでなく、レモンの産地、果汁や果皮、搾り方やすりおろし方まで、こだわりは多岐にわたる。レモンを長時間漬けた酒やオリジナルのレモンエキスを使う商品もあり、業務用の生搾り、レモン氷といった工夫とは一線を画す、酒類メーカー各社の腕の見せどころとなっている。
そうした中で今期特に注目されるのが、キリンビールの「麒麟 発酵レモンサワー」。キリンがビールメーカーとして培ってきたビールの発酵技術を初めてチューハイに応用したアイテムだ。
レモン果汁を酵母発酵させることで、55種もの複雑な香味成分を生み出し、レモンの味わいを一層濃くする。香料、酸味料、甘味料を添加しないため、人工感のないさわやかで自然なおいしさを実現した。従来のRTD市場にはないタイプの製品であり、同社の高付加価値提案品の第1弾である「麹レモンサワー」に続くアイテムとなる。
コカ・コーラシステムが19年に「檸檬堂」を発売して以降、市場では一般的なRTDよりも価格が高いアイテムが少しずつ浸透。それぞれに製法や原料にこだわった高付加価値RTDであり、利益商材として流通からも歓迎されている。市場に根付き、一定の規模となることが期待される。
今期、主要各社のRTD事業方針には、長引くコロナ下で変わる消費者の意識に寄り添った提案が目立つ。商品の多様化、高付加価値化を含め、RTD市場が、また一歩前進を見せそうだ。