お店招待席:おでん「ちょうちん」 一品料理もセンス抜群

1997.11.17 140号 4面

「いらっしゃい、今日はいいサカナ入ってますよ」

幅一間もない入り口からお客が顔を出すと、店長がカウンター越しに笑顔を見せる。神楽坂の数ある飲食店の中で群を抜いて客を引きつけているのが、軽子坂を登り切ったところに店を構えるおでん屋「ちょうちん」。

「すし屋と小料理屋の中間に位置するおでん屋」の異名を持つ。そうこの店は、すし屋レベルの素材を小料理屋の心遣いでアレンジしたカジュアルなおでん屋さんなのである。

徹底した食材の仕入れと管理、豊富なメニューと客単価三八〇〇円というリーズナブルな価格設定、そしてサービス。「客商売の怖さを熟知しているからどこも手を抜けない」と、すべてをマネージングする“若くて頑固”な有本靖店長と開店以来の常連さんが、この店の魅力について熱っぽく語ってくれた。

この店のベースは、もちろんおでん。関西風のだしで煮込んだベーシックな味わいは根強い人気。そして、おでんをしのぐほどウエートが高くなっているのが、仕入れに応じて店長がアレンジする一品料理。常時四〇品近くも取りそろえ、仕入れから仕込み、調理までをすべて一人でこなし、出来合いのものでは出せない味わいを提供する。

八丁味噌でていねいに煮込んだ牛たん味噌煮込みや、サケの頭部の軟骨のあえ物氷頭(ひず・四五〇円)など、家庭ではあまり使わない食材を家庭風に調理するセンスは、確実に女性客のニーズをとらえている。

「アクティブな女性がリピーターに多い。そして上司や友達を連れてきてくれるんだよね」(店長)

また「クジラ刺身」の文字も目を引く。クジラは定期的な入荷が難しい商品だが、店長は下積み時代の人脈を生かしルートを獲得、約一年前メニューに組み込んだ。今では「常連客の間では欠かせない一品」として店の個性になっている。

この店の個性は、料理だけにとどまらない。店長は、地酒や焼酎にも焦点を当て、こだわりの品ぞろえを展開している。特に地酒では、小さな酒蔵の良質な酒を数多く取りそろえ、また常連客を集めて銘酒を試飲する「ちょうちんの会」も年二回開催している。ここでも店長ならではの流通ルートが効力を発揮、通常では入手困難な秘蔵酒などにも多数出合えるとか。

店のコンセプトは、ずばり「少量多品種」。飲食店経営者ならば誰もが望みつつも採算、手間の面で見直しを余儀なくされるこのテーマを、問屋との強いパイプライン、常に客にアンテナを張り売れ筋を把握するセンスで見事に克服している。

フード、ドリンク合わせて一五〇品という目もくらむような品数を一人でこなし、夜だけの六時間営業、三〇席の舞台で年商五四〇〇万円をたたき出している最強のおでん屋なのだ。

「ちょうちん」

<創業>平成6年

<所在地>東京都新宿区神楽坂三-一、川端ビル一F(電話03・3268・5253)

<営業時間>午後5時30分~11時30分、日曜定休

<席数>三〇席

<客単価>三八〇〇円

<客層>特になし

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら